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初回探索

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朝、8時00分、探索開始の30分前。
加賀見は、織多さんとサバイバルスーツを着込み、
ストレッチをしながら、最終の打ち合わせをしていた。
標準サバイバルスーツは、十分な能力を
備えており、周囲に同調し、色彩を
変化させる等の能力がある。
欠点と言えば、若干の身体のラインが
目立つくらいだろうか。

加賀見は、ストレッチをしながら、
ついつい、織田さんをチラ見してしまう。
中々にふくよかな胸のわりに全体が
引き締まった身体つきにどうしても
目がむかってしまう。
そのおかげか、初回探索への極度の緊張は、
感じられなかった。織多さんも視線を感じるのか、
顔を少々、赤らめている。
「加賀見さん、少しは、真面目にして、してくださいっ!」
うなずき、そろそろ、出発の時間のため、
下降口に移動する。

「加賀見、織多の両名、探索の開始を許可する。
検討を祈る」
事務員の声がかかると同時に、ハッチが開放された。

加賀見は、この世界に第一歩を記した。
情報の通り、非常に地球に酷似する状態のようだ。
大気の状態良好。重力若干低め。
実際に目にする風景も緑を中心として、違和感はない。
織多さんも同様のようだ。
「では、進みましょう、織多さん」
パーティーにエスコートする様にはいかないが、
右手を差し出すと、織多さんは、自然に左手を添えて、
「よろしくお願いします」
と言い、側に寄り添ってきた。

後方で、「ぷっ」と笑い声が
聞こえた気がするが、気のせいだろう。

先日、決めたルートに従い、お互い無言で、
周囲に注意しながらしばらく歩いていると、
織多さんが話しかけてきた。
「今回の探索地は、非常にラッキーですね。
場合によっては、探索船から一歩も出られないとか、
到着した瞬間に探索船が崩壊とかもありますからねー」

「そうですね。しかし、地球に酷似していると
言うことは、目覚ましい成果は
少ないかもしれませんね」
加賀見は、周囲を警戒しながら、答えた。

 時節、ぎーごぉーぎーごぉー
と摺り潰すような音が聞こえてくる以外は、
静寂が支配する森のような場所で草木を
払いなが、3㎞ほど進むと、加賀見は
どうも妙なことが気になりはじめた。
「気のせいですかね?先ほどから、
これほどの森に関わらず、
動物はおろか昆虫も全く見ませんね」

「そう言えば、そうですねー。
でもモニターしているときも生物と
思わしきものは見ませんでしたねー。
でも生物は確実にいますよね。
初日に探索船を襲ってきましたから。
まーどんな世界か分かりませんからね。
そのための探索ですよ」
周囲を見回しながら、そう答える織多さん。

更に2㎞ほど進み、休憩を取ることにした。
今回の探索は加賀見の体力を基準に作成しており、
織多さんには、余裕がある計画であった。
進めば進むほど、生温かい淀んだ空気が
全身にまとわりついてくる。
そして、新緑の時期の特有の生臭い匂いが強くなってくる。

休憩中、加賀見は、織多さんに話しかけた。
「どうも探索機での偵察と若干、違う感じですね。
かなり、不快指数が高いですね。
こうも大気の雰囲気が変わるものなのでしょうか?」

「うーん、なんと言えませんが、
今回は記録を取って次回に備えるのが目的ですし、
この程度は、山の方に行けば、よくありますよ」
織多さんは、あまり気にしていないようだ。

探索を再開して、食事までに残り5㎞を進み、
折り返す計画。
現在のところ、ぎーごぉーぎーごぉーという音が
たまに聞こえてくるだけで、突発事項は、
発生しておらず、順調に進んでいた。
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