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*11* 失礼ですが、どなたでしょうか?
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昨日の今日でなんとなく顔が合わせづらくて、雪が起きてくる前に、家を出た。
「勢いで行動すると、こうなります」
講義まで2時間。ぼっちのあたしに、なにをしろって?
ブレザーの女子グループ。
上司と部下らしきサラリーマン。
アテもなくブラブラする街で、あたしだけが置いてけぼり。
向こうから歩いてきたお姉さんだって、綺麗におめかし。
これからお出かけなんだろう。
ヒマ人女子大生とは大違いだなぁ。とか思っていたら。
ガシッ。
……え? えぇっ!?
すれ違いざま、なぜかお姉さんに肩つかまれたんですけど!?
「……あなた」
「ハ、ハイッ!」
「幸ちゃんでしょう!」
「ハイそうですッ! ……へ?」
「やっぱり! 会いたかった――っ!」
「なぁああっ!?」
なんですかコレ! 見知らぬ綺麗なお姉さんから、熱烈ハグ!?
てかなんであたし知ってんの!?
半分パニックなあたしの疑問は、グスグスと涙ぐみ始めたお姉さんが解決してくれた。
「うっうっ……ホント会いたかったんだからぁ……ユキりんいなくって、やっちゃん寂しかったんだからぁ!」
ユキりん、やっちゃん。
そのワードを好んで使うのは、1名しか存じ上げておりません。
「ウソッ……弥生さん!?」
* * *
引っ張られる形で、最寄りの喫茶店に入る。
髪をクルックルに巻いて、メイクもピンク系のプリンセススタイル。
あたしが知る小悪魔系やっちゃん先輩とはまるで異なるオトナの女性が、向かいでコーヒーカップ傾けている。
「誰かと思いました……」
「でしょうねぇ」
ナチュラルメイクってだけで、こんなに違うんだ。……いや、髪を切ってるのもあるか。
あたしの視線に、やっちゃん先輩もとい柴崎弥生さんが、自嘲気味にアッシュブラウンの横髪を耳にかける。
「私ね、お店辞めたの」
お店……というのは、つまりあたしのバイト先だった、メイド喫茶だ。
でもなんで? 弥生さんは、新人教育を任せられてるくらい主要スタッフだったのに。
「本社から視察に来てたオーナーと大喧嘩しちゃって、辞めてやりました。店長には、迷惑かけちゃったけど……」
「……それは、いつ頃ですか?」
「そうね、去年の冬だったかしら」
「……あたしの、せいですよね」
あたしが辞めるまで、全然そんなそぶりはなかった。
そんな弥生さんが、オーナーと口論した。
冬、それも去年の、となれば、時期は限られてくる。
あたしがオーナーに見切りをつけられた、12月。
「ウチのバカ父がご迷惑をかけて」
「いーえ、たまーに思い出したみたいに来る、わからず屋のせい」
「でも、父が遊びほうけてなんかいなきゃ、取り立ての人もお店には……」
「幸ちゃん」
遮った声は強い調子だったけど、続く言葉はやわらかなもの。
「お店のみんなは、誰も怒ってないわ。店長も、メイドも、現場のスタッフ全員。幸ちゃんが一生懸命頑張ってたのを見てきた人は、みんなわかってる」
ブラックコーヒーに映るあたしは、なにを思ってる?
テーブルの下で握り締めた拳は、なにを示すんだろう?
「あなたは、全然悪くないのよ」
それは、安堵、だ。
自分は必要とされていない。だから親に捨てられる、親しい人に切り捨てられる。
違うよと、ただ否定してほしかったんだ。
「勢いで行動すると、こうなります」
講義まで2時間。ぼっちのあたしに、なにをしろって?
ブレザーの女子グループ。
上司と部下らしきサラリーマン。
アテもなくブラブラする街で、あたしだけが置いてけぼり。
向こうから歩いてきたお姉さんだって、綺麗におめかし。
これからお出かけなんだろう。
ヒマ人女子大生とは大違いだなぁ。とか思っていたら。
ガシッ。
……え? えぇっ!?
すれ違いざま、なぜかお姉さんに肩つかまれたんですけど!?
「……あなた」
「ハ、ハイッ!」
「幸ちゃんでしょう!」
「ハイそうですッ! ……へ?」
「やっぱり! 会いたかった――っ!」
「なぁああっ!?」
なんですかコレ! 見知らぬ綺麗なお姉さんから、熱烈ハグ!?
てかなんであたし知ってんの!?
半分パニックなあたしの疑問は、グスグスと涙ぐみ始めたお姉さんが解決してくれた。
「うっうっ……ホント会いたかったんだからぁ……ユキりんいなくって、やっちゃん寂しかったんだからぁ!」
ユキりん、やっちゃん。
そのワードを好んで使うのは、1名しか存じ上げておりません。
「ウソッ……弥生さん!?」
* * *
引っ張られる形で、最寄りの喫茶店に入る。
髪をクルックルに巻いて、メイクもピンク系のプリンセススタイル。
あたしが知る小悪魔系やっちゃん先輩とはまるで異なるオトナの女性が、向かいでコーヒーカップ傾けている。
「誰かと思いました……」
「でしょうねぇ」
ナチュラルメイクってだけで、こんなに違うんだ。……いや、髪を切ってるのもあるか。
あたしの視線に、やっちゃん先輩もとい柴崎弥生さんが、自嘲気味にアッシュブラウンの横髪を耳にかける。
「私ね、お店辞めたの」
お店……というのは、つまりあたしのバイト先だった、メイド喫茶だ。
でもなんで? 弥生さんは、新人教育を任せられてるくらい主要スタッフだったのに。
「本社から視察に来てたオーナーと大喧嘩しちゃって、辞めてやりました。店長には、迷惑かけちゃったけど……」
「……それは、いつ頃ですか?」
「そうね、去年の冬だったかしら」
「……あたしの、せいですよね」
あたしが辞めるまで、全然そんなそぶりはなかった。
そんな弥生さんが、オーナーと口論した。
冬、それも去年の、となれば、時期は限られてくる。
あたしがオーナーに見切りをつけられた、12月。
「ウチのバカ父がご迷惑をかけて」
「いーえ、たまーに思い出したみたいに来る、わからず屋のせい」
「でも、父が遊びほうけてなんかいなきゃ、取り立ての人もお店には……」
「幸ちゃん」
遮った声は強い調子だったけど、続く言葉はやわらかなもの。
「お店のみんなは、誰も怒ってないわ。店長も、メイドも、現場のスタッフ全員。幸ちゃんが一生懸命頑張ってたのを見てきた人は、みんなわかってる」
ブラックコーヒーに映るあたしは、なにを思ってる?
テーブルの下で握り締めた拳は、なにを示すんだろう?
「あなたは、全然悪くないのよ」
それは、安堵、だ。
自分は必要とされていない。だから親に捨てられる、親しい人に切り捨てられる。
違うよと、ただ否定してほしかったんだ。
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