37 / 65
35.傷だらけの魂
しおりを挟む
「りくくん……」
「やめてよ」
「りくくん」
「……やめてってば」
「あなたは、須藤理玖くんでもあるんです」
「やめろよッ!!」
怒号とともに、窓ガラスが砕け散りました。
破裂した感情のように。
呼吸を荒らげる彼を、不思議と恐怖心もなく見上げます。
「あなたの人生にあったのがわたしだけとは、到底思えません」
「ちがう……俺には、三葉だけだ……」
「わたしは、あなたがすきです。須藤理玖くんという男の子が、ヒトとしてすきでした」
「っ……リク、が……?」
「えぇ。あなたは寂しい思いをしていたけれど、空っぽなヒトではありませんでした。だって、正義の味方のお話をしてくれたじゃないですか」
「――ッ!!」
「わたしは、考えたこともありませんでした。ヒトの心を動かす魅力が、あなたにはあったんです」
それは、わたしと出会う以前から、あなたに積み重ねられたもの……
「わたしと出会うまで、須藤理玖くんを支えた15年間が、たしかにあった。辛くても、大切だったから、懐かしく思っているんじゃないですか……!」
それが、わたしの見解。
この部屋を生み出した、彼の心理なのです。
わたしの訴えに、青年は唇を噛みしめます。
「だったらどうすんだよ……俺に戻れって!?」
核心をついたようでした。
「イヤだ、人間なんてみんな汚い! 嫌いだ、大ッ嫌い! こんなこと話す三葉もキライだ!!」
「きゃっ!」
両手首を引っつかまれて、ギリギリと力を込められます。
「い、た……!」
縫いつけられたシーツの上で、冷や汗が噴き出ました。
「きみに救われて、溺れるほどに愛して、狂って……愛せば愛すほど傷つけて! 挙句の果てには殺した! そんなが理玖が、一番大ッ嫌いだ!!」
……ハッとしました。
「あっちには、たくさんヒトがいるじゃんか……生き返ったら、また孤独になる。きみに依存する。自分でも制御できないほど狂って、また傷つけるんだ……そうなるくらいなら、ここで、穏やかに愛したいんだ……もう……殺したくないっ!」
――俺が生き返ったら、三葉が困るよ。
先ほどの発言には、こんなにも切実な想いが込められていたのです。
ナナくんがなによりも恐れていた脅威は、彼自身の狂気でした。
「ねぇ、わかってよ……」
「……んっ……!」
恐る恐るふれるようなキスは、回数を重ねるごとに激しさを増します。
「……はぁっ、みつば……っ!」
「ふぁっ……」
息継ぎした一瞬で、唇のすべてを奪われます。
舌を、ねじ込まれたのです。
とたん、身体の芯が疼くような熱にみまわれました。
(ダメ……!)
彼を受け止める覚悟もできていないくせに……いけないわ。
頭ではわかっているのに、身体が言うことを聞きません。
すがるようにわたしを求める彼の首へ、腕を絡めるのです。
「はぁっ……んんっ……!」
夢中で舌を絡ませ合い、吐息を溶かし合いました。
どれだけの時間なんて考える思考は、ありません。
「……かわいい声……」
かすれた声音をもらし、わたしの口の端を舐める彼。
「気持ちよかったでしょ? 身体が俺を求めてるんだよ……これは俺の自惚れじゃない。きみの本能だ」
「わたし、の……?」
「ココに、俺がいるでしょ……」
「あっ……!」
つ……と、服の上から胸元をなぞられました。
それだけなのに、身体が過剰に熱を持つのです。
「俺とともに、世界に拒絶されたきみ……傷だらけの魂が、癒やしを求めてる。きみを癒やせるのは、魂の持ち主である俺だけだ」
「じゃあ、いままでのキスは……」
「ただの愛情表現じゃない。治療行為だよ」
そうか、だからなのですね。
唇を重ねるごとに快楽に溺れるような感覚も、いつの間にか消えた頭痛や幻聴も。
「ここにいれば、きみを傷つけずにすむ……ううん、癒やせるんだ。だから、おねがい……俺を拒まないで?」
「……っ!」
プツリ、プツリと外されるボタン。
はだけたブラウスから首筋に落とされるキス。
とっさにシーツを握りしめて、声を押し殺しました。
「ガマンしなくていいよ……俺たちを責めるものは、ここにはない」
ダメ……
「ね……ぎゅってして?」
ダメよ……このままじゃ……!
唇を噛みしめても、両腕は彼の背中に回されます。
きつくきつく、抱きしめます。
甘い呪文に操られたようでした。
「ん……」
彼は酷くホッとしたように、頬をすり寄せます。
「ごめん、俺、はじめてで……痛くしちゃうかもしれない。でも、泣かせるのはこれっきりにするから。頑張って優しくするから……」
甘さと切なさと熱をはらんだ吐息はわずかに乱れ、すでに余裕がないようでした。
彼を受け入れたら、二度と戻れない。直感しました。
「やめてよ」
「りくくん」
「……やめてってば」
「あなたは、須藤理玖くんでもあるんです」
「やめろよッ!!」
怒号とともに、窓ガラスが砕け散りました。
破裂した感情のように。
呼吸を荒らげる彼を、不思議と恐怖心もなく見上げます。
「あなたの人生にあったのがわたしだけとは、到底思えません」
「ちがう……俺には、三葉だけだ……」
「わたしは、あなたがすきです。須藤理玖くんという男の子が、ヒトとしてすきでした」
「っ……リク、が……?」
「えぇ。あなたは寂しい思いをしていたけれど、空っぽなヒトではありませんでした。だって、正義の味方のお話をしてくれたじゃないですか」
「――ッ!!」
「わたしは、考えたこともありませんでした。ヒトの心を動かす魅力が、あなたにはあったんです」
それは、わたしと出会う以前から、あなたに積み重ねられたもの……
「わたしと出会うまで、須藤理玖くんを支えた15年間が、たしかにあった。辛くても、大切だったから、懐かしく思っているんじゃないですか……!」
それが、わたしの見解。
この部屋を生み出した、彼の心理なのです。
わたしの訴えに、青年は唇を噛みしめます。
「だったらどうすんだよ……俺に戻れって!?」
核心をついたようでした。
「イヤだ、人間なんてみんな汚い! 嫌いだ、大ッ嫌い! こんなこと話す三葉もキライだ!!」
「きゃっ!」
両手首を引っつかまれて、ギリギリと力を込められます。
「い、た……!」
縫いつけられたシーツの上で、冷や汗が噴き出ました。
「きみに救われて、溺れるほどに愛して、狂って……愛せば愛すほど傷つけて! 挙句の果てには殺した! そんなが理玖が、一番大ッ嫌いだ!!」
……ハッとしました。
「あっちには、たくさんヒトがいるじゃんか……生き返ったら、また孤独になる。きみに依存する。自分でも制御できないほど狂って、また傷つけるんだ……そうなるくらいなら、ここで、穏やかに愛したいんだ……もう……殺したくないっ!」
――俺が生き返ったら、三葉が困るよ。
先ほどの発言には、こんなにも切実な想いが込められていたのです。
ナナくんがなによりも恐れていた脅威は、彼自身の狂気でした。
「ねぇ、わかってよ……」
「……んっ……!」
恐る恐るふれるようなキスは、回数を重ねるごとに激しさを増します。
「……はぁっ、みつば……っ!」
「ふぁっ……」
息継ぎした一瞬で、唇のすべてを奪われます。
舌を、ねじ込まれたのです。
とたん、身体の芯が疼くような熱にみまわれました。
(ダメ……!)
彼を受け止める覚悟もできていないくせに……いけないわ。
頭ではわかっているのに、身体が言うことを聞きません。
すがるようにわたしを求める彼の首へ、腕を絡めるのです。
「はぁっ……んんっ……!」
夢中で舌を絡ませ合い、吐息を溶かし合いました。
どれだけの時間なんて考える思考は、ありません。
「……かわいい声……」
かすれた声音をもらし、わたしの口の端を舐める彼。
「気持ちよかったでしょ? 身体が俺を求めてるんだよ……これは俺の自惚れじゃない。きみの本能だ」
「わたし、の……?」
「ココに、俺がいるでしょ……」
「あっ……!」
つ……と、服の上から胸元をなぞられました。
それだけなのに、身体が過剰に熱を持つのです。
「俺とともに、世界に拒絶されたきみ……傷だらけの魂が、癒やしを求めてる。きみを癒やせるのは、魂の持ち主である俺だけだ」
「じゃあ、いままでのキスは……」
「ただの愛情表現じゃない。治療行為だよ」
そうか、だからなのですね。
唇を重ねるごとに快楽に溺れるような感覚も、いつの間にか消えた頭痛や幻聴も。
「ここにいれば、きみを傷つけずにすむ……ううん、癒やせるんだ。だから、おねがい……俺を拒まないで?」
「……っ!」
プツリ、プツリと外されるボタン。
はだけたブラウスから首筋に落とされるキス。
とっさにシーツを握りしめて、声を押し殺しました。
「ガマンしなくていいよ……俺たちを責めるものは、ここにはない」
ダメ……
「ね……ぎゅってして?」
ダメよ……このままじゃ……!
唇を噛みしめても、両腕は彼の背中に回されます。
きつくきつく、抱きしめます。
甘い呪文に操られたようでした。
「ん……」
彼は酷くホッとしたように、頬をすり寄せます。
「ごめん、俺、はじめてで……痛くしちゃうかもしれない。でも、泣かせるのはこれっきりにするから。頑張って優しくするから……」
甘さと切なさと熱をはらんだ吐息はわずかに乱れ、すでに余裕がないようでした。
彼を受け入れたら、二度と戻れない。直感しました。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる