【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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神代の契り㈣

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 卯月から皐月へ。季節は移ろえど、仰いだ天道の蒼さは変わらない。

ほの、あんまり見上げてると、ひっくり返るぞ」
「なっ、私そんなにドジじゃないもん!」

 淡々とした指摘はいつものことで、子供のように反論するのも日常のひとつ――

「……はぁ」
「ちょっ! 人の顔見てため息とは、しつれ――!」
「〝もん〟とか可愛すぎかよ……俺の嫁が、今日も愛しくてつらい」
「………………」

 否。いつもの、というには語弊があるか。
 昼休みに入って十数分と経っていないように記憶しているが、早々に箸を置いた真知まちは、穂花を後ろから掻き抱く。
 彼の脚と脚に挟まれ、耳許で悩ましげな吐息をこぼされては、いよいよ身の危険を感じてならない。

「あのう……まちくん? ここ学校ですよ?」
「知ってる。俺たちが愛を育むのに、TPOなんて関係ないだろ?」
「あるよ、学生が勉強するとこだよ、学校は!」
「俺は知恵の神だ。むしろ俺が、人間どもに教えてやれるくらいだ」
「事実だからなにも言えない!」
「穂花……勉強なら俺が見てやる。だからわざわざ余計な気力と労力を浪費してまで、こんなとこに通わなくてもいいだろ?」
「いや、それって単にまちくんが私といたいだけじゃ、」
「そこまで俺の気持ちを理解して……はぁ……マジで無理、愛してる」
「私の言葉が届かない!」

 盲目的な愛とは、このことを言うのだろう。
 これまで頑なに本心を隠してきた真知だからこそ、連日に渡って繰り返される砂糖まみれのような睦言やふれあいは、穂花にとって嬉しくもあり、悩みの種でもあった。

「オモイカネ殿が、お壊れなさったか」
「ちょっとー! ずるい! あおも、ねーさまぎゅってするの~!」

 そうこうしているうちに、ヤキモチ妬きの神と使い魔も加わり、比例して頭痛の要因が増えてゆく。

「あ? なんの用だ。校内は関係者以外立ち入り禁止だぞ」
「都合の良いときばかり学生の名を語るとは。悪知恵の神と改名なされたほうがよろしいのでは?」
「も~! ねーさまはなして! どいてってば~!」

 べにとまちくんは氷のまなざしで言い合うし、あおはまちくんの腕をポカポカ叩くし……収拾がつかないわ。

 人知れず、いや神知れず涙を飲んだ穂花は晴天の屋上で平和な昼休みに別れを告げ、満を持して声をあげる。

「こらっ、紅もまちくんもケンカしないの! まったくもう……蒼おいで~!」
「ねーさまぁ~っ!」

 身をよじり、真知の腕をするりと抜け出す穂花。
 打って変わって破顔したままに両腕をめいっぱい広げれば、天真爛漫な妖が瞳を輝かせて飛び込んできた。

「んふふ……ねーさまだぁ。こんどは、いつお昼寝できる? あお、なでなでしてほしい~」
「寂しい思いさせてごめんねぇ! そこの困ったさんふたりのせいで!」
「なに、穂花を煩わせるのはどこのどいつだ」
「同じ神の風上にも置けませぬな」
「あなたたちですけどね!」

 一喝すれば、一斉に不平を申し立てる二柱である。
 が、聞こえない、と一刀両断し、蒼とのたわむれを楽しむ穂花であった。
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