【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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面の秘密㈢

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「こんなときだし、ただ事じゃないのは、私もわかってるけど……」

 彼はおそらく知っている。〝それ〟がなんであるのか。

 ――べにが退室した後、早々にレースワンピースへ着替え終えた。
 静まり返った自室で、畳の上に膝を崩し、純白の裾をたくし上げる。

「……青い、花」

 右脚の甲に、見憶えのない刻印がひとつ在る。
 その蕾は頑なに閉ざされ、ほころぶ気配はない。

「〝花を、咲かせた者の勝ち〟……」

 半月の闇夜に交わされた誓約を、気づけば繰り返していた。
 確証はなかったが、先ほどの紅の様子から確信した。自分の考えはおそらく間違ってはいないと。
 となれば、この青い蕾が持つ意味は――……

「なやみごと?」

 不意の問いかけであった。
 男声か、はたまた女声か?
 硝子を鳴らしたような澄んだ声音は、聞き慣れない。

「あっ、びっくりさせた? ごめんね」

 控えめな謝罪が聞こえるほう、部屋の入り口へと視線を向けたほのは、そこで佇む人影に、目を丸くする。

「えっと……おへや、入ってもいいかなぁ?」

 見たところ、年はそう変わらないように思える。が、いかんせん言葉がたどたどしい。ひと言ひと言を紡ぐのが、一苦労であるように。

 若草色を基調とした菊と唐草模様の織布で束ねられた髪は、晴れた空の色。柔らなまなざしは、木漏れ陽を映し込んだかのように深みのある緑。
 中性的な顔立ちゆえ、性別は定かではない目前の存在が、人ならざるモノであることはわかった。
 三角に尖った耳と、額に生えた二本角が、すべてを物語っている。

 座敷わらしだとか、ちょっとした妖とならば、子供のころに遊んだことがある。
 鬼の子だろうか? 曖昧な推測を巡らせながら、穂花はおずおずとうなずいてみせた。

「どうぞ……?」
「ありがと!」

 行儀よくお辞儀を返されたところまでは、良かった。

「しつれいしま………わぁ!」

 絶句した。
 薄紫の裾をはためかせて三歩も進まないうちに、なにもない場所でつまずかれたのだから。
 ぺしゃ、と顔面から畳と挨拶を交わした鬼(仮)へ、慌てて声をかける。

「だだっ、大丈夫!?」
「あたた……んー、だいじょぶ。よいしょ」

 むくりと起き上がってみせた鬼(仮)は、畳に正座をすると赤い鼻頭を擦り、ふにゃあ、と頬をゆるませた。

「こけちゃった。うっかりうっかり~」

 うっかりにも程がある。しかし本人が気にしてもいないようである為、あえてふれないでおくことにした。
 それにしてもなんだろうか、このゆるい空気は。
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