【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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こころとからだ㈢

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「……嫌わないよ」
「……嘘じゃ」
「本当よ」
「嘘です。今宵の交わりさえ、あれほど厭がられていたのに……」
「もう……厭じゃない。それが答えじゃ、だめ?」

 にわかに、色を違えた双眸が見開かれた。
 呼吸の仕方を忘れたように、凝視されている。

「私いまね、べににすごく申し訳なく思ってる……理由は思い当たらないのに、胸が張り裂けそうなの……ニニギも、同じなんじゃないかしら」
「わたしを、お厭いではなかった……?」
「うん。むしろ好きだった。まだ、あなたの愛情には不釣り合いかもしないけど……応えたいと思うのは、自分勝手かな」

 言い終わらぬうちに、息苦しさが襲う。
 翠の絹髪が視界の大半を占めているところを見ると、どうやら紅にきつく抱き込まれているらしかった。

「ごめん、なさい……あまりに急で、どうお返しすればよいのやら……」

 間違いない。紅は戸惑っていた。

ほの様……わたしを噛んでくださいませんか? この身のどこでも構いませぬ。出来れば、貴女様へしたよりも強く」
「えっと……なにを言っているのかな、紅さん?」
「お慕いし過ぎた末に、わたしは妄想を具現化する術を心得たようで……」

 否、錯乱している、といったほうが正しいか。

「妄想でたまるもんですか!」

 これにはたまりかね、強張る両頬をむにゅ! と思い切りつねってやる穂花であった。

「さて、どうかしら」
「……いひゃいれす……」
「そういうことです」
「……ふぇっ!」

 漸く理解したのだろう。ぎゅう、と抱きつかれる。

「すきです……だいすきです……ほのかさま……!」

 そこに、いつもの余裕など影もない。
 それでも、幼い子供のようにしゃくり上げる紅を、格好悪いなどとは責められなかった。

「色んなこと、独りで背負わせてごめんね……紅の気持ちを、もう無駄にはしないわ。だからいまは……泣いていいのよ」
「……っ!」

 制御出来ない憎しみ。
 実の弟を手にかける罪悪感。
 愛しいひとを看取る哀しみ。
 ただ独り、生き永らえる孤独。

 何千年もの間に繰り返された悲劇は、無数の傷を紅へ刻んだことだろう。
 完璧に癒やせるほど有能ではないから、せめて紅が安心出来るような居場所になりたい。穂花は心からそうねがう。
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