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永久の束縛㈣
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「憶えておいででしょうか。貴女様が16歳となられた折りに、差し上げるものがございますと」
遠い昔に、そんな話をしただろうか。成長し、終焉の足音が近づくほどに、誕生日すら喜べなくなっていったけれど。
底知れぬ頬笑みをたたえた神は、おもむろに腕を持ち上げる。そうしてふれるは、己の顔を隠す面の紐。
まさか――と息を呑んだ、そのまさかであった。
緩慢な動作にて紐のほどかれた拍子に、しゃらりと鈴が転がる。
「貴女様に、わたしの真名を。このイワナガヒメを得た貴女様は、永久のお命となる――」
唄うような草笛に魅入られ、いつしか呼吸を忘れてしまう……
狐の面に隠されていたかんばせが、あらわとなる。
見憶えのある色を宿した菫の眼。それへ絡みつくかのごとく、紅《くれない》の蔓《つる》を彷彿させる刻印が、右頬を這う。
「ニニギ様……」
名を喚ばれ、我に返った時既に遅し。
肩を押され、背が反るのを止められない。
布団に散らばる射干玉の艶髪。
呆然と固まる身体を組み敷いた神は、恍惚に歪む唇を躊躇いなく寄せる。
「――んぅっ!?」
噛みつかれた、という表現はあまりに温い。
下唇に歯を立て、驚愕に開かれたわずかな隙間より、口内へ容赦なく侵入してくるもの……ぬるりとした舌が、穂花のそれを絡め取る。
同時に痛いほど抱き込まれ、胸を押し返そうとした手が宙を掻く。
「……っはぁ……んっ……んんっ……」
甘ったるい吐息が口内でくぐもり、鼓膜を犯す。
蹂躙するような口付けは、執拗に繰り返された。
嚥下の暇さえ与えられず、誰のものかわからない唾液があふれ、顎をつたう。
まさに溺れるような口付けであった。
「ふふ……そう……わたしに身を委ねてくださいまし」
酸欠によって朦朧とする意識に囁かれるは、歓喜の言葉か。
「貴女様は厭だ厭だと仰りつつも、とても可愛らしく啼かれるので……今宵も愉しみじゃ……」
うっとりとした睦言のかたわらに、寝間着の帯がほどかれる。
くつろげられた純白の袷。あらわになる胸許。
「――お声、我慢なさらないでくださいね?」
最後に告げた唇が、胸許の蕾へふれる。
その熱たるや、烈火のごとき。
遠い昔に、そんな話をしただろうか。成長し、終焉の足音が近づくほどに、誕生日すら喜べなくなっていったけれど。
底知れぬ頬笑みをたたえた神は、おもむろに腕を持ち上げる。そうしてふれるは、己の顔を隠す面の紐。
まさか――と息を呑んだ、そのまさかであった。
緩慢な動作にて紐のほどかれた拍子に、しゃらりと鈴が転がる。
「貴女様に、わたしの真名を。このイワナガヒメを得た貴女様は、永久のお命となる――」
唄うような草笛に魅入られ、いつしか呼吸を忘れてしまう……
狐の面に隠されていたかんばせが、あらわとなる。
見憶えのある色を宿した菫の眼。それへ絡みつくかのごとく、紅《くれない》の蔓《つる》を彷彿させる刻印が、右頬を這う。
「ニニギ様……」
名を喚ばれ、我に返った時既に遅し。
肩を押され、背が反るのを止められない。
布団に散らばる射干玉の艶髪。
呆然と固まる身体を組み敷いた神は、恍惚に歪む唇を躊躇いなく寄せる。
「――んぅっ!?」
噛みつかれた、という表現はあまりに温い。
下唇に歯を立て、驚愕に開かれたわずかな隙間より、口内へ容赦なく侵入してくるもの……ぬるりとした舌が、穂花のそれを絡め取る。
同時に痛いほど抱き込まれ、胸を押し返そうとした手が宙を掻く。
「……っはぁ……んっ……んんっ……」
甘ったるい吐息が口内でくぐもり、鼓膜を犯す。
蹂躙するような口付けは、執拗に繰り返された。
嚥下の暇さえ与えられず、誰のものかわからない唾液があふれ、顎をつたう。
まさに溺れるような口付けであった。
「ふふ……そう……わたしに身を委ねてくださいまし」
酸欠によって朦朧とする意識に囁かれるは、歓喜の言葉か。
「貴女様は厭だ厭だと仰りつつも、とても可愛らしく啼かれるので……今宵も愉しみじゃ……」
うっとりとした睦言のかたわらに、寝間着の帯がほどかれる。
くつろげられた純白の袷。あらわになる胸許。
「――お声、我慢なさらないでくださいね?」
最後に告げた唇が、胸許の蕾へふれる。
その熱たるや、烈火のごとき。
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