【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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偃月に燃ゆ㈢

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「話を戻すぞ。三貴神の中で、いま高天原を治めているのはアマテラスだ。俺はその部下なわけだが」
「私は……?」
「結論から言う。孫」
「あっ、そっか孫ね。……孫ぉっ!?」

 うっかりうなずきそうになってしまったが、事は決して頬笑ましくなどない。

「孫……私が、なんかこうすごく偉い感じのアマテラスさんの孫……!?」
「語彙が残念ながらに事の重大さを理解したか。そうだ、つまりおまえは偉い」
「嘘でしょ~っ!?」
「まことにございますよ」
「あの、さく? そんな満面の笑みで言われても困りますよ……?」

 それなりの覚悟はしていたつもりだが、物事には限度がある。いましがた告げられたことは、それを軽々と凌駕したというわけだ。

「で、なんやかんやあって、ここ葦原中津国も天津神が治めるってことで国津神と話がまとまってな。統治役におまえの父親が抜擢されかけたわけだが」
「ん、厭な予感……」
「これがボンクラでな。まぁアマテラスの息子だから当然なんだが」
「まちくんって容赦ないよね!」
「そんなこんなで、そのまた子供のおまえがやることになった、と」
「割愛すごくない!?」
「こっちだって迷惑してんだよ」

 気のせいだろうか。淡々とした言葉のところどころに、棘があるように感じるのは。

「息子そっちのけで溺愛してたおまえが旅に出るもんで、アマテラスのバカが、ついてくってほざきやがるから」
「から……?」
「〝おまえに預けるくらいなら俺は死ぬ〟っつってあのバカに引導を渡してやった」
「上司になに言ってるの!?」

 間違いない、怒りをあらわにしている。冷静沈着なあの真知が。
 彼の逆鱗にふれるほどのものとは、一体なんなのか。
 量りかねる穂花の傍で、穏やかに紡がれる言の葉がある。

「最愛のご家族でいらっしゃいますから、オモイカネ様も、貴女様の身をいたく案じておられたのですよ」
「ん……家族?」
「えぇ。貴女様の母君は、オモイカネ様の妹君、千々チヂヒメ様でいらっしゃるのです」
「……ちょっと待って。それってつまり……まちくんが私の伯父さん!?」
「失礼な。俺はまだ若いぞ。お兄さんと喚べお兄さんと」
「そういう問題じゃないよね!?」

 もうどこをどう掘り下げても、地雷を踏む気がしてならない。
 これほど驚愕の事実を、真知は淡々と、朔馬はにこにこと告げる。神の感覚とは恐ろしい。

「……まぁ、おまえが心配には違いなかったんだよ。ちゃんとアマテラスの許可は取って、俺を供に、統治の為おまえはここ葦原中津国へと降り立った。これを〝天孫降臨てんそんこうりん〟と、後世の人間たちは記したらしいな」
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