【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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此花咲くや㈢

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「私は……貴女様の夫です」

 そして鼓膜を震わせる声音は、女人には出せぬ音域。

「おとこ……の、ひと?」

 呆然と見上げる穂花の頬を、するりと撫でる手がある。

「えぇ。このまま貴女様を掻き抱いて、口付けでも交わせたなら、恐悦至極なのですけれど……」

 言葉じりを濁したサクヤの麗しいかんばせが、ぐっと距離を詰める。
 反射的に身を強ばらせ、硬くまぶたを閉ざした。
 しかしながら、覚悟した感触は訪れず、代わりに右の肩へ重みがかかる。

「え、あの……大丈夫ですか!?」

 気づけば声を上げていた。もたれかかられた肩口で、不規則な呼吸と苦しげなうめき声を耳にしては、致し方なかろう。

「少し、慣れぬことをしたものですから……ご心配には、及びません……」

 身体が熱い。衣越しでもわかる高熱だ。
 直前まで変わった様子はなかったのに、どうして。

「とりあえず、休みましょう! 横になれますか?」

 細かいことは後回しだ。身体を反転させ、先ほどまで自分が休んでいた布団を譲ろうと肩に手をかけたときだ。

「貴女様という御方は……本当に、お優しい」

 泣きそうに笑うサクヤの声音が聞こえた刹那、身体にかかる重力が格段に増す。

「ひゃっ!」

 あまりに突然で、布団に倒れ込むことは免れない。
 自分はまともに病人も寝かしつけられないのか。情けなさに穴があったら入りたくなる。
 起き上がろうにも、四肢はうんともすんとも言わない。ひとえに〝なにか〟にのしかかられている為。

「至らぬ私を、咎めるどころか気にかけてくださる……何百年、何千年の時が経とうと、本当にお変わりない……」

 ここで漸く気づく。自分の上に在るのは、落とせば割れてしまいそうな美しい少女、いや、少年ではないのだと。
 そして、華奢ながらも筋ばった身体つきをした青年の、菫の髪、菫の瞳、柔らな声音を、自分は知っていると。

「そんな貴女様だから……どこまでも、愛おしくなる」

 熱っぽく、切なげに訴えかける見目麗しき青年を、見まごうはずもない。

たか千穂ちほ先生!?」
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