【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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小袖の五月雨㈡

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「のう吾妹……雨をやませる手立てはないのでしょうか。この非力な付喪神はなにを致しましょう。なにをして差し上げられますか」

 呼吸がままならないのは、領巾を引っ張られている為ではない。

「…………ごめん、なさい」

 沈黙の後に、そうおっしゃるだろうと。蚊よりもか細い声で謝られるのだろうと、考え至ってしまったが為。

「吾妹は独りではない。わたしがおります」
「ううん、ちがうの……っ!」

 努めて柔らに語りかけたけれども、履き違えた。穂花が飲み込もうとしていたのは、孤独ではなかった。

「クロも、おかあさんも、いなくなっちゃった。つぎは、ほのか、だから……」
「吾妹」
「べに、ひとりぼっちにしちゃう……ごめんね、ごめんね……!」

 言葉はくぐもり、ほとんど聴きとれない。
 紺青の衣にすがりつき、泣きじゃくる穂花を背にして、頭を殴られたかのような目眩を催しそうになる。

 人は時を持つ。いずれ命の花は散りゆく。それが世の理。
 けれども違う。違うのだ。彼女に科せられた運命さだめは。

「させませぬ」

 気づけば、水の膜を張る大粒の琥珀が目前に在った。
 いつもと異なったおねだりの意図を十二分に理解した上で、相まみえたのだ。

 黄金色の絨毯に下ろされた穂花は、やがて過剰なまでに肩を跳ねさせ、顔を背ける。
 脱兎のごとく逃げ出そうとしたちいさな身体を、紺青の袖にくるみ込む。

「させませぬぞ。おひとりでは、ゆかせませぬ」
「でも、ほのか……っ!」
「つまらぬことは考えなくてよろしい!」

 その一喝で、ばたつきがパタリとやむ。
 完全に畏縮してしまった穂花を、ぎゅうと掻き抱いてみせたのは、詫びの気持ちからにほかならない。

「我が身はすでに貴女様のものです。なれどもひとつだけ、差し上げられていないものがございます」
「べにが、くれてないもの……?」
「えぇ。それを貴女様が十六歳になられましたとき、差し上げましょう」

 穂花は依然として小首をかしげたまま。
 良いのだ。いまはまだ、その時ではないのだから。

「それまでは、どうかこのままで。お辛いときは、この袖の中においでくださいまし……」

 黄泉の女王にかどわかされぬよう、愛しき幼子を、この手で隠してしまおう。

「……ふぇ……っ!」

 いまだけは、いまだけは、何人たりとも、立ち入ってはならぬ。
 紺青の闇空に降りしきる五月雨をふいにするようなことが、あってはならぬ。
 たとえそれが、己であろうとも。

「細君……」

 ただ寄り添うのみという息苦しさは、あと十三年という、永久なのだろう。
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