【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

文字の大きさ
上 下
20 / 77

散りゆく此花㈡

しおりを挟む
「……先ほど、愚弟と言を交わしまして」

 くすぶる声音をひそめた紅に、真知は腕を組み、「へぇ」と興味深げに片眉を持ち上げた。

「で、景気よく恒例の火だるま祭り?」
「まさか。れっきとした真剣勝負――今宵、誓約うけいを執り行いまする。貴方様もお越しになるとよろしかろう」
「対価は」
「己が命」
「褒美は」
「無論、八百やおよろずにふたつとない麗しき花を。貴方様がご所望であれば、ですけれど」
「ふ……愚問だな」

 起伏に乏しい頬の筋肉を弛め、真知は薄笑う。

「もう二度と、あいつは散らせない」

 凛然たる宣言の余韻に、対峙する二柱。

 その間を春の夕風が肩身を狭そうにして吹き抜け、宵の向こうへ消えてしまった。

「かしこまりまして。では――」

 優雅な所作で辞儀をするものと思われた一瞬のうちに、鈍い輝きが鼈甲をよぎる。

「愉しみに、しておりますね……?」

 穂花の後を継いだ右手は、竹箒を握っていたはずと記憶していたが。
 押し当てられた硬質なそれは、研ぎ澄まされた冷たさで頸動脈をしかと捉えていた。
 白銀の片手剣。構えの風格から、にわか仕込みでないことは容易に見て取れよう。

「宜しく」

 微塵も動じぬ単調な返答に、花の笑みがひとつ、ほころぶ。
 茜に散らされ、舞い狂う薄桃の、此花このはなのように。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

【完結】神々の戯れ《序》 〜世界の終わりと始まりの場所〜

千鶴
大衆娯楽
神も神とて、恋はする。 それも時には、人間にだって—— 「ねえオシリス。あなたは誰に、恋をする?」 恋人、家族、同志、 「人間はちっぽけだ。でも人間は、常に我々の想像を超えてくる」 これはエジプト神話を題材にした、群像劇ファンタジー。 冥界、黄泉、過去、そして未来。 さまざまな舞台を股にかけ、果ては日本。 五千年後の昭和六十一年へと、ひとりの神がトリップする。 「我はどこまで行こうと、諦めない。たとえ果てのない苦海を、永遠に泳ぐことになろうとも」 ※こちらの作品は カエルレア探偵事務所〜始まりの花〜 カエルレア探偵事務所〜アクビスの里〜 カエルレア探偵事務所〜ねじれ鏡の披露宴〜 上記長編3部作のスピンオフストーリーとなっております。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

処理中です...