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狂乱の花宴㈡
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「まだ、弟でいさせて頂けるのですね……嬉しいです」
すぐさま失言に気づいた紅は、弁解ではなく舌打ちを返す。
「魂依代を手に入れたか……殺しても殺しても、貴様はわたしの前へ現れる。黄泉の女王はなにをしているのだ……」
「お待ちください、兄上。私は貴方様を貶めるつもりなどございません」
「黙れ! 貴様に兄などと喚ばれたくないわ! わたしからあの方を奪っておきながら……この痴れ者めが!」
草笛の声色は嫉妬の焔に燻り、澄み渡った空に暗雲を喚ぶ。
「渡さぬ……あの方はわたしのものだ。邪魔立てするというなら、この場で焼き殺してやろうぞ……っ!」
「兄上、どうかお待ちを」
「命乞いは聞かぬ!!」
「兄上! ……あの方をお慕いしておりますのは、我らのみになりません」
刹那、嫉妬の炎が鳴りをひそめる。
はたと気づかされた脳裏に、たしかに思い当たる節を見つけた為だ。
「やはりあの男……彼の天津神であったか」
よぎる飴色を、この手で直ちに燃やしてしまいたい。さすれば跡形もなく溶け去るだろうに。
「ふふ……はははっ! わたしというものがありながら、貴女様もおひとが悪い。些かお優し過ぎるのです。騒がしい羽虫は、わたしが叩き潰して差し上げましょう……」
「兄上……」
「よかろう。貴様の望み通り、誓約を執り行おうではないか」
ゆらり――……
頬笑みを刻んだ紅蓮の宝石は、妖しく、危うく翳り、燻っている。
「あの方は、必ずやわたしをお選びになる……」
うっとりと甘やかに紡がれる盲目的な言の葉を、朔馬は息をのんで聴きとどめる。
「貴女様を愛でるも散らすも、わたしの、わたしだけの自由でございましょう? ふふ……今宵が愉しみでありますな、細君――我が妻の君よ」
しゃらり、しゃらり。
可笑しげに震える肩、転がる鈴が、愉悦を唄う。
「貴女様に、至高の花篝りを――」
狐の面から覗くは、 昏き愛憎の頬笑み。
一介の付喪神には過ぎた瘴気が、静寂の屋上に立ち込める。
時は満ちる。
狂乱の花宴が始まらんとすることを、純真な乙女のみが与り知らぬ。
すぐさま失言に気づいた紅は、弁解ではなく舌打ちを返す。
「魂依代を手に入れたか……殺しても殺しても、貴様はわたしの前へ現れる。黄泉の女王はなにをしているのだ……」
「お待ちください、兄上。私は貴方様を貶めるつもりなどございません」
「黙れ! 貴様に兄などと喚ばれたくないわ! わたしからあの方を奪っておきながら……この痴れ者めが!」
草笛の声色は嫉妬の焔に燻り、澄み渡った空に暗雲を喚ぶ。
「渡さぬ……あの方はわたしのものだ。邪魔立てするというなら、この場で焼き殺してやろうぞ……っ!」
「兄上、どうかお待ちを」
「命乞いは聞かぬ!!」
「兄上! ……あの方をお慕いしておりますのは、我らのみになりません」
刹那、嫉妬の炎が鳴りをひそめる。
はたと気づかされた脳裏に、たしかに思い当たる節を見つけた為だ。
「やはりあの男……彼の天津神であったか」
よぎる飴色を、この手で直ちに燃やしてしまいたい。さすれば跡形もなく溶け去るだろうに。
「ふふ……はははっ! わたしというものがありながら、貴女様もおひとが悪い。些かお優し過ぎるのです。騒がしい羽虫は、わたしが叩き潰して差し上げましょう……」
「兄上……」
「よかろう。貴様の望み通り、誓約を執り行おうではないか」
ゆらり――……
頬笑みを刻んだ紅蓮の宝石は、妖しく、危うく翳り、燻っている。
「あの方は、必ずやわたしをお選びになる……」
うっとりと甘やかに紡がれる盲目的な言の葉を、朔馬は息をのんで聴きとどめる。
「貴女様を愛でるも散らすも、わたしの、わたしだけの自由でございましょう? ふふ……今宵が愉しみでありますな、細君――我が妻の君よ」
しゃらり、しゃらり。
可笑しげに震える肩、転がる鈴が、愉悦を唄う。
「貴女様に、至高の花篝りを――」
狐の面から覗くは、 昏き愛憎の頬笑み。
一介の付喪神には過ぎた瘴気が、静寂の屋上に立ち込める。
時は満ちる。
狂乱の花宴が始まらんとすることを、純真な乙女のみが与り知らぬ。
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