【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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狂乱の花宴㈠

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 無人の屋上に独り残された付喪神は、すぐに主を追うことはしなかった。

「いけませぬなぁ……何事も、御身体が資本でしょうに」

 咎める口調でありながら、手元へ返された重箱の重みに、くつくつと笑みがこぼされる。
 この分ならば、半分も減っていないだろう。蓋を開けずとも見てとれる事実は、べにへ熱を与えた。

「わたし好みの身体になっておる……手ずから躾けた甲斐があるというもの」

 愉悦の声音と共に陽光へ差し出された重箱が、ぼう、と紅蓮の烈火に包まれる。

「もう、用済みであろう」

 ぜることも、煙を残すこともゆるされず、木の箱であったモノは、まばたきの刹那に消し炭と成り果てる。

 散った桜のようだ――と、華奢な右手のひらを掲げた紅は、春風にさらわれるソレを恍惚とした紅玉に焼きつけた。

 振りあおいだ視界は蒼。雲ひとつない天道を見据えれば、天界までも捉えることができるのではと、妙に浮き足立つ。

「――昼は過ぎました。万物はてんし、陰気につる。貴方様の舞台ですね」

 ざくの実が弾けたかのごとく、紅蓮の瞳が人影を捉える。

 金網へもたれた己の正面に、金属扉を背にした白衣の男が佇んでいる。その菫の瞳が、失笑した姿をしかと映し込んでいた。

「……貴様、人くさいが、人ではないな」

 視えているという時点で否定されることだ。とはいえ妖とも違う。いまの世に、これほど完璧に人の姿を模し得る大妖は存在しない。

たれそ」

 果たして、天の者か、国の者か。
 どちらにせよ、紅の取るべき行動はひとつに決まっていたが。

「それは、貴方様がよくご存知のはず」

 しかしながら、この返答によって、新たな選択肢が見出だされる。
 紅は男――さくの頬笑みに釘付けとなった。
 信じられぬ。だが、滲み出る神気には覚えがある。忘れられるはずがない。
 全てを悟った紅の身体は、憤怒に燃えたぎった。

「よくものうのうと姿を現しおって……この愚弟が……っ!」

 とたん、周囲の水分濃度が急降下する。
 激昂した紅を取り巻く烈火の神気に、干上がってしまったのだ。

 いまにも自身を焼き殺さんとする熱気にてられながらも、しかし朔馬は慌てない。それどころか、柳眉を八の字に下げ、口角を上げ、薄く頬笑むではないか。
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