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憧憬と嫉妬㈡
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「おはようございます、先輩っ!」
「あぁ、おはよう」
桜が立ち並ぶ十字路の右手側から、見知った青年が穂花へ歩み寄る。
すっとした輪郭。春風になびく男子にしては少し長い髪は飴色。彫りの深い切れ長の双眸も、同様の色を宿す。
「思ったより、元気だったな」
「あ、私がバカみたいな言い方やめてくださいよー」
「なら、やんちゃとでも言っておくか。敬語なんて軽口叩くくらいには」
「怒ってます?」
「……怒ってない。けど、ちょっと違和感がある」
「ごめんね、まちくん」
「何度も言わせるなよな」
淡々と抑揚がなくとも、長年の付き合いがあれば、おのずと機微にふれることができる。
怒ることは滅多になく、その心根は慈愛に満ちあふれたかのごとく優しい。ゆえに凛然と端正な顔に柳眉を寄せたわけは、穂花の他人行儀な言動が要因にほかならない。
近寄りがたいようで、その実は心配性な世話焼き。穂花が慕うひとつ年嵩の金丸真知は、そういう青年だ。
「そろそろ、高校にも慣れたか?」
桜の舞う歩道を、連れ立って歩き出す。
まだひとけの少ない通学路は静かで、鶯もまどろんでいるらしい。
「結構クラスメイトとも打ち解けてきたよ。友だちだってできたし」
「……男か?」
「女の子だよ! 私がいつまでもやんちゃだと思ったら、大間違いなんだから!」
幾度となく交わしてきた会話だ。「性別間違えたんじゃないのか」と真知も呆れてしまうほど、同性に縁がなかった穂花である。てっきり今回も、やんちゃをたしなめられたものだと思っていた。
「そうか……ならいい」
思っていたのだが……違ったらしい。
心底安堵したような真知は、いつの記憶をたどってもいない。
穂花に遊び相手がいないことを懸念する一方で、いざ友人ができたとなると複雑な顔色を見せる。十年来の付き合いがある穂花も、幼馴染の心情が上手くつかめなくなってしまった。
「あぁ、おはよう」
桜が立ち並ぶ十字路の右手側から、見知った青年が穂花へ歩み寄る。
すっとした輪郭。春風になびく男子にしては少し長い髪は飴色。彫りの深い切れ長の双眸も、同様の色を宿す。
「思ったより、元気だったな」
「あ、私がバカみたいな言い方やめてくださいよー」
「なら、やんちゃとでも言っておくか。敬語なんて軽口叩くくらいには」
「怒ってます?」
「……怒ってない。けど、ちょっと違和感がある」
「ごめんね、まちくん」
「何度も言わせるなよな」
淡々と抑揚がなくとも、長年の付き合いがあれば、おのずと機微にふれることができる。
怒ることは滅多になく、その心根は慈愛に満ちあふれたかのごとく優しい。ゆえに凛然と端正な顔に柳眉を寄せたわけは、穂花の他人行儀な言動が要因にほかならない。
近寄りがたいようで、その実は心配性な世話焼き。穂花が慕うひとつ年嵩の金丸真知は、そういう青年だ。
「そろそろ、高校にも慣れたか?」
桜の舞う歩道を、連れ立って歩き出す。
まだひとけの少ない通学路は静かで、鶯もまどろんでいるらしい。
「結構クラスメイトとも打ち解けてきたよ。友だちだってできたし」
「……男か?」
「女の子だよ! 私がいつまでもやんちゃだと思ったら、大間違いなんだから!」
幾度となく交わしてきた会話だ。「性別間違えたんじゃないのか」と真知も呆れてしまうほど、同性に縁がなかった穂花である。てっきり今回も、やんちゃをたしなめられたものだと思っていた。
「そうか……ならいい」
思っていたのだが……違ったらしい。
心底安堵したような真知は、いつの記憶をたどってもいない。
穂花に遊び相手がいないことを懸念する一方で、いざ友人ができたとなると複雑な顔色を見せる。十年来の付き合いがある穂花も、幼馴染の心情が上手くつかめなくなってしまった。
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