【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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艶色の朝㈠

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 四季は巡り、十数年の時が流れる。

「……も、わぎも、吾妹」

 この日も平穏な朝を迎える――はずだった。

「もう朝じゃ。学舎に遅れてもよいのか?」

 まどろみの中、布団のかたわらで草笛の音色が耳をくすぐる。
 勿論よくはない。よくはないとわかっているけれど、

「ぅう~……いま、おき……れない~……」

 伸びをした傍から、睡魔に抗えず布団へ逆戻りと相成る。

「成程、職務放棄か。つくづく困ったものよ」

 呆れたようで満更でもなさげな声が、頭上より吹き下ろす。まだ清明でない意識の中、揺らぐ影にぼんやりとまぶたを押し上げたところ、

「では、此方も遠慮なくゆかせてもらうぞ。我が細君……?」

 清涼な朝に相応しくない艶声で、ほのは覚醒した。
 弾かれたように寝返りを打つが、視界には一向に木造りの天井が映り込まない。一面を覆う色は――翠。

ようやくお目覚めか。お早う」
「え……あ、ちょ……っ!」

 太陽のごとき笑顔を向けられるが、横たわった身体には違和感が這う。気のせいではない。

「ちょっと、なにして……!」
「ご覧の通り。可憐な花を愛でておるだけじゃ」
「こらっ、どこさわって……やめなさい、べにっ!」

 名を喚ばれ、一度は休まる手であるが、夜着のえり元を乱していたそれは、あろうことか布越しに穂花の腰をなぞった。

「ぎゃっ!?」

 うら若き乙女らしからぬ奇声を上げた直後、羞恥の最中に可笑しげな笑いが鼓膜を震わせる。

「ふむ……もう少し色気のある声を出して頂きたいのだが?」

 ねだるように首をかたむけられ、翠の髪が鎖骨を掠める。「ひッ……!」と抑えきれなかった悲鳴を、耳聡い彼の神が聴きこぼすはずもない。

「嗚呼、良い顔だ……お望み通り、枕を交わしましょうぞ」

 いかにも上品な言い回しであるが、オブラートに包まれた真意を汲み取れぬほど、穂花も無知ではない。
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