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本編
*30* プレゼント攻撃炸裂!
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この街で黒いレンガ造りの建物を目にするのも、慣れたものになってきた。
専用窓口で『ギルド認定薬術師』のライセンス発行手続きをして、処理が終わるまでは自由時間。
「おまたせ!」
小一時間ほどたったころかな。ノアが、待ち合わせにしていた二階フロアのカフェテリアにやってきた。
パタパタと足取り軽く駆け寄ってくるその両手には、紙袋を提げている。
「すごい大荷物だね」
「リオにプレゼント。はいっ、どうぞ!」
ノアはわたしの向かいの席に腰かけると、みっつある紙袋のうち、ふたつを差し出してきた。
「こんなにもらっていいの? ……わっ、かわいいローブだ!」
ひとつには、魔術師系の冒険者が好んで着るローブが入っていた。
クマのぬいぐるみみたいなテディブラウンカラーのフードつきロング丈ローブで、裏地がストロベリーピンク。胸もとで、ピンクゴールドのサテンリボンを結ぶデザインだ。
「ローブは、俺とおそろいにしてみた」
ノアがもっていた紙袋から取り出したローブはネイビーで、裏地がサファイアブルー。リボンの代わりに、シルバーグレーのクロスタイになっていた。
デザインはほとんどいっしょで、色違いのペアルックって感じ。
おそろいがよかったのか。ふふっ、なんかかわいい。
「それで、こっちが本命」
ノアに指さされて、もうひとつの紙袋を開けてみる。そこには、ショルダーバッグが。
フェイクレザーでできたふっくらとしたシルエットで、ちょっとしたおでかけによさそうな小ぶりサイズ。
これもストロベリーピンクで、留め具がリボン型のピンクゴールドになっている、かわいらしいデザインのショルダーバッグだった。
「これ、マジックバッグなんだよ。リオがいま使ってるのより、たくさん入ると思う」
「えっ、こんなにちいさいのに!?」
「調薬の道具とか、いろんな薬草とか、もっといっぱい入るようにってね。俺からのお祝いだよ。認定ライセンス取得おめでとう、リオ」
「ノア……」
安物じゃないって、ひと目でわかる。ノアがこれまで貯めたクエスト報酬で、一生懸命えらんでくれたんだろう。
「ちょっと、わたしにはかわいすぎないかな?」
「ぴったりだよ。リオの瞳とおんなじ、ピンク色だ。絶対似合う、絶対かわいい」
断言するノアに、ポカンとする。
そうだ……そうだったっけ。
黒髪に黒目の日本人じゃなくて、いまのわたしは、クルッとしたマロンの髪に、ストロベリーピンクの瞳の、リオなんだった。
ゆっくり鏡を見ておしゃれをする余裕もないくらい、がむしゃらに働いてきて……わたし自身ですら気にかけられなかったわたしを、かわいいって、ノアはほめてくれる。
独りで死んで、独りで生きてきたわたしを、やっと見つけてもらえたような、そんな気持ちになった。
「こんな素敵なプレゼントもらったの、はじめて……ほんとうにありがとう……うれしい」
「んッ……」
変な声をもらして、口をおさえるノア。
すぐにガタッと音を立てて椅子から立ち上がったと思えば、ばさり。プレゼントしてくれたばかりのローブを羽織らせてくる。
フードをまぶかにかぶらせて、サテンリボンもしっかり結んでくれる、いたれりつくせり待遇。
ノアの突然な行動のわけに、はてなを浮かべるしかない。
「もぉー、そういう顔、俺以外に見せちゃだめだよ?」
「えっ? どういう顔?」
「食べちゃいたいくらい、かわいい顔」
「えぇえっ!?」
「外じゃなかったら、もう食べてるのになぁ……」
「いやいやいや!」
「あっこら、またそんな真っ赤にかわいくなって!」
「だれかっ、だれかノアくんを止めてぇーっ!」
口をひらけば、かわいい、かわいいって。
お砂糖を煮つめても敵わないような甘い口説き文句を、サラッと口にするんだもんなぁ、この子は!
ジリリリリ!
そこへ、救世主とも呼べる音色が鳴りひびく。
わたしの懐からきこえるベルは、懐中時計にセットしていたアラームの音だ。
「あっ、時間みたい! そろそろライセンスの発行手続きが終わってるだろうから、ささっと受け取りに行ってくるねっ! ノアはさきにランチ食べてて!」
「ちょっと、リオっ!?」
呼びとめる声はきこえなかったふりで、あわてて駆け出す。
……顔が火照ってしかたないのは、ダッシュしたからだ。きっとそう。
専用窓口で『ギルド認定薬術師』のライセンス発行手続きをして、処理が終わるまでは自由時間。
「おまたせ!」
小一時間ほどたったころかな。ノアが、待ち合わせにしていた二階フロアのカフェテリアにやってきた。
パタパタと足取り軽く駆け寄ってくるその両手には、紙袋を提げている。
「すごい大荷物だね」
「リオにプレゼント。はいっ、どうぞ!」
ノアはわたしの向かいの席に腰かけると、みっつある紙袋のうち、ふたつを差し出してきた。
「こんなにもらっていいの? ……わっ、かわいいローブだ!」
ひとつには、魔術師系の冒険者が好んで着るローブが入っていた。
クマのぬいぐるみみたいなテディブラウンカラーのフードつきロング丈ローブで、裏地がストロベリーピンク。胸もとで、ピンクゴールドのサテンリボンを結ぶデザインだ。
「ローブは、俺とおそろいにしてみた」
ノアがもっていた紙袋から取り出したローブはネイビーで、裏地がサファイアブルー。リボンの代わりに、シルバーグレーのクロスタイになっていた。
デザインはほとんどいっしょで、色違いのペアルックって感じ。
おそろいがよかったのか。ふふっ、なんかかわいい。
「それで、こっちが本命」
ノアに指さされて、もうひとつの紙袋を開けてみる。そこには、ショルダーバッグが。
フェイクレザーでできたふっくらとしたシルエットで、ちょっとしたおでかけによさそうな小ぶりサイズ。
これもストロベリーピンクで、留め具がリボン型のピンクゴールドになっている、かわいらしいデザインのショルダーバッグだった。
「これ、マジックバッグなんだよ。リオがいま使ってるのより、たくさん入ると思う」
「えっ、こんなにちいさいのに!?」
「調薬の道具とか、いろんな薬草とか、もっといっぱい入るようにってね。俺からのお祝いだよ。認定ライセンス取得おめでとう、リオ」
「ノア……」
安物じゃないって、ひと目でわかる。ノアがこれまで貯めたクエスト報酬で、一生懸命えらんでくれたんだろう。
「ちょっと、わたしにはかわいすぎないかな?」
「ぴったりだよ。リオの瞳とおんなじ、ピンク色だ。絶対似合う、絶対かわいい」
断言するノアに、ポカンとする。
そうだ……そうだったっけ。
黒髪に黒目の日本人じゃなくて、いまのわたしは、クルッとしたマロンの髪に、ストロベリーピンクの瞳の、リオなんだった。
ゆっくり鏡を見ておしゃれをする余裕もないくらい、がむしゃらに働いてきて……わたし自身ですら気にかけられなかったわたしを、かわいいって、ノアはほめてくれる。
独りで死んで、独りで生きてきたわたしを、やっと見つけてもらえたような、そんな気持ちになった。
「こんな素敵なプレゼントもらったの、はじめて……ほんとうにありがとう……うれしい」
「んッ……」
変な声をもらして、口をおさえるノア。
すぐにガタッと音を立てて椅子から立ち上がったと思えば、ばさり。プレゼントしてくれたばかりのローブを羽織らせてくる。
フードをまぶかにかぶらせて、サテンリボンもしっかり結んでくれる、いたれりつくせり待遇。
ノアの突然な行動のわけに、はてなを浮かべるしかない。
「もぉー、そういう顔、俺以外に見せちゃだめだよ?」
「えっ? どういう顔?」
「食べちゃいたいくらい、かわいい顔」
「えぇえっ!?」
「外じゃなかったら、もう食べてるのになぁ……」
「いやいやいや!」
「あっこら、またそんな真っ赤にかわいくなって!」
「だれかっ、だれかノアくんを止めてぇーっ!」
口をひらけば、かわいい、かわいいって。
お砂糖を煮つめても敵わないような甘い口説き文句を、サラッと口にするんだもんなぁ、この子は!
ジリリリリ!
そこへ、救世主とも呼べる音色が鳴りひびく。
わたしの懐からきこえるベルは、懐中時計にセットしていたアラームの音だ。
「あっ、時間みたい! そろそろライセンスの発行手続きが終わってるだろうから、ささっと受け取りに行ってくるねっ! ノアはさきにランチ食べてて!」
「ちょっと、リオっ!?」
呼びとめる声はきこえなかったふりで、あわてて駆け出す。
……顔が火照ってしかたないのは、ダッシュしたからだ。きっとそう。
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