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本編
*8* 落ちこぼれモノローグ
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「わーい、ふかふかオフトゥンだー」
街一番の格安素泊まり宿に一室を借りたわたしは、マジックバッグを投げ出すやいなや、ベッドにダイブする。
目をつむり、すん、と鼻をすすると、ほのかに雨のにおい。
「…………うぅ」
しとしとと、雨の足音が近づいてくる。
ねずみ色の雲に埋め尽くされて泣き出す空模様のように、ベッドに沈み込んだわたしの体調は、下り坂をころげ落ちていった。
* * *
上級ポーションを作れるくらい高品質な魔力をもって生まれたわたしだけど、燃費に関しては最悪だった。
低級ポーションの生産限度は、一日に五本。
上級ポーションは、一本作ると一週間はからだが使い物にならなくなる。
わたしが極貧生活となかなかおさらばできない、最大の理由だ。
今日作った低級ポーション五本は許容範囲内だけど、それは『ポーション製作』に限ったお話。
『特製キャンディ』は、作るために低級ポーションと同等の魔力を消費する。
それをふまえて、『お菓子配り』をするための、連日のキャンディ製作。
原料を採取するための森型ダンジョン遠征。
五徹の疲労と魔力回復が充分にできていない中で、ポーション製作。
なにが言いたいか。
明らかな、オーバーワークだったってことだ。
だからってさ、酷いあつかいを受けて、お腹を空かせた子を、見捨てたりできないでしょ? ひもじいのは嫌じゃん。心細いじゃん。
だれかといっしょにご飯食べたら、ホッとするかもじゃん? わたしなんかで悪いけど。
これはそう、しょうもない大人のプライド。
「……ばか。そんなこと、たのんでない」
朦朧とする意識で、くっそ重いまぶたを押し上げる。
夕焼けのまぶしさが目に痛い。思わず顔をしかめて、あれ……? と疑問をいだく。
だれか、いる。仰向けにされたわたしを、のぞき込んでる。
「だれが、助けろってたのんだ。だれが、看病しろってたのんだ」
茜色にかすむ視界で、彼をとらえる。
澄んだサファイアの瞳を水面みたいにゆらめかせていた、黒髪の少年は。
「あれぇ……さっきぶり」
へらりと、笑ってみせる。
思った以上に声がか細くて、なんだか可笑しくなる。
そんなわたしを目にして、少年が唇を噛んだ。
「傷が……からだ中についてた生傷が、ぜんぶなくなってた! 俺が言うことをきかないから、落ちこぼれだから、お仕置きされて当然だったのに……っ」
「なにいってるのか、わかんないなぁ……」
わたしはたぶん、夢を見てるんだ。じゃなきゃ、ろくに視線も合わせてくれなかったあの子が、わざわざさがしにきてくれるわけがないし。
これが夢なら、余計なことまでしゃべってもいいだろう。
「落ちこぼれだって、思い込んでるだけ……きみは、きみにしかできないことを、まだ見つけられてないだけ」
「──ッ!」
こぼれ落ちそうなくらい見ひらかれたサファイアみたいな瞳が、苦しげに細まる。
彼はそれからふところをさぐって、取り出したものを、乱雑に放るんだ。
「……キャンディの包み紙に、はさまってた」
ひらり、ひらりと視界の端を横切ったのは、折り目のついた一枚の紙幣だ。
街一番の格安素泊まり宿に一室を借りたわたしは、マジックバッグを投げ出すやいなや、ベッドにダイブする。
目をつむり、すん、と鼻をすすると、ほのかに雨のにおい。
「…………うぅ」
しとしとと、雨の足音が近づいてくる。
ねずみ色の雲に埋め尽くされて泣き出す空模様のように、ベッドに沈み込んだわたしの体調は、下り坂をころげ落ちていった。
* * *
上級ポーションを作れるくらい高品質な魔力をもって生まれたわたしだけど、燃費に関しては最悪だった。
低級ポーションの生産限度は、一日に五本。
上級ポーションは、一本作ると一週間はからだが使い物にならなくなる。
わたしが極貧生活となかなかおさらばできない、最大の理由だ。
今日作った低級ポーション五本は許容範囲内だけど、それは『ポーション製作』に限ったお話。
『特製キャンディ』は、作るために低級ポーションと同等の魔力を消費する。
それをふまえて、『お菓子配り』をするための、連日のキャンディ製作。
原料を採取するための森型ダンジョン遠征。
五徹の疲労と魔力回復が充分にできていない中で、ポーション製作。
なにが言いたいか。
明らかな、オーバーワークだったってことだ。
だからってさ、酷いあつかいを受けて、お腹を空かせた子を、見捨てたりできないでしょ? ひもじいのは嫌じゃん。心細いじゃん。
だれかといっしょにご飯食べたら、ホッとするかもじゃん? わたしなんかで悪いけど。
これはそう、しょうもない大人のプライド。
「……ばか。そんなこと、たのんでない」
朦朧とする意識で、くっそ重いまぶたを押し上げる。
夕焼けのまぶしさが目に痛い。思わず顔をしかめて、あれ……? と疑問をいだく。
だれか、いる。仰向けにされたわたしを、のぞき込んでる。
「だれが、助けろってたのんだ。だれが、看病しろってたのんだ」
茜色にかすむ視界で、彼をとらえる。
澄んだサファイアの瞳を水面みたいにゆらめかせていた、黒髪の少年は。
「あれぇ……さっきぶり」
へらりと、笑ってみせる。
思った以上に声がか細くて、なんだか可笑しくなる。
そんなわたしを目にして、少年が唇を噛んだ。
「傷が……からだ中についてた生傷が、ぜんぶなくなってた! 俺が言うことをきかないから、落ちこぼれだから、お仕置きされて当然だったのに……っ」
「なにいってるのか、わかんないなぁ……」
わたしはたぶん、夢を見てるんだ。じゃなきゃ、ろくに視線も合わせてくれなかったあの子が、わざわざさがしにきてくれるわけがないし。
これが夢なら、余計なことまでしゃべってもいいだろう。
「落ちこぼれだって、思い込んでるだけ……きみは、きみにしかできないことを、まだ見つけられてないだけ」
「──ッ!」
こぼれ落ちそうなくらい見ひらかれたサファイアみたいな瞳が、苦しげに細まる。
彼はそれからふところをさぐって、取り出したものを、乱雑に放るんだ。
「……キャンディの包み紙に、はさまってた」
ひらり、ひらりと視界の端を横切ったのは、折り目のついた一枚の紙幣だ。
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