8 / 100
本編
*7* ランチタイムのち、さようなら
しおりを挟む
採取したチーゴの花を手早く処理して低級ポーションを作るのに、二時間。
それから隣街まで歩くこと、さらに三時間。
「低級ポーション五本で、千ゴールドだ。ほらよ」
「ありがとうございます!」
冒険者ギルドで買い取りをしてもらうころには、すっかり昼をすぎていた。
千ゴールドか。てことはひとり五百ゴールド。ちょっとリッチなサンドイッチに、ソフトドリンクもつけられるな。
冒険者ギルドでランチ代を稼いだあとは、大通りの屋台でふたり分のサンドイッチとジュースを購入する。
「おうい少年! おまちかねのランチだよー!」
「まってない、うるさい、静かにしろ」
相変わらず少年は名前を教えてくれないし、わたしへの風当たりもキツイけど、どこにも行かないでちゃんと待ってくれてるんだよね。
「ふひひ……」
「不気味……」
「まって、それガチなトーン」
過労死からの壮絶転生人生を送ってきたので、何事にも動じない虚無顔がデフォルメになっていたけど、しまりなくゆるんでしまってたみたいだ。
「ほら、お手伝いが立派にできたえらいボクちゃんに、お駄賃よ。たんとお食べ」
「……だから、こどもあつかいするなって」
紙で個包装されたサンドイッチと、紙製のカップに注がれたジュースを手わたすと、憎まれ口を叩きながらも受け取ってくれた。
ツンデレってやつか……お姉さん、ほほ笑ましいわ。
またにへらと顔がゆるんでしまいそうになるのをこらえて、広場にある噴水前のベンチに腰かける。
包み紙を剥いてサンドイッチにかぶりつくと、シャキシャキレタスの食感のあとに、厚切りベーコンの肉汁がじゅわっとひろがった。
かと思えば、とろけるチーズの香ばしいかおりが、鼻腔をすっと通り抜ける。
「はっ……なんだこれ、はちゃめちゃに美味しいじゃん……この値段でこの美味しさは、詐欺なのでは……!? ねぇ少年、ジュースも飲んでみてよ! さっき話したチーゴの実のジュースだよ! これは食べごろに熟したやつ!」
「だまって食えないのか」
「ウッス……サーセン」
年下に食事のマナーを注意されてしまった。落ち着きのないダメ大人ですんません。
「うぅ……だって、うれしかったんだもん……だれかとごはん食べるのなんて、ひさしぶりだから……」
「……うれしかった? 俺と、食事したくらいで? なんで……」
「はいはい、たかが食事でテンションが上がる単純なやつですよーだ。ぼっちナメんなよー」
ふてくされて、ズズ……とジュースをすする。おっと、また怒られてしまうと思ってたら、当の少年がなにやら考え込んでて。
「ねー、少年」
「……こんどはなんだ」
「きみ、きれいだね」
「どういう意味──」
「食べ方がきれい。そうやってきれいに食べてもらえて、食材たちもうれしいと思うよ」
「ッ……!」
目にしたことに素直な感想を述べただけなんだけど、少年の肩が異様なほどビクついた。
こっちをふり返った彼の顔は、また真っ赤になってた。
サファイアの瞳の奥では、羞恥とか、ほかにもいろんな感情がごちゃごちゃになってて、言葉にならないみたいだった。
「よし! お腹もいっぱいになったことだし、わたしはそろそろ行こっかな」
「はっ……?」
ベンチから立ち上がったとき、間の抜けた声をもらしたのは、少年だ。
これは思わぬ反応だ。わたしも首をかしげる。
「え? 今日のお宿をさがしに行こうと思うんだけど。超特急でポーション作ったり、歩き回って疲れちゃったし。きみはこれから、この街を見て回るんだよね?」
見たところ無一文みたいだし、少年の今後の選択肢としては、働き口をさがすのがベストだろう。
昨日家に連れ帰ったあとに、一応泥まみれのからだを拭いてあるし、着てた服も一度洗濯、絶妙な火・風魔法で乾燥させて、きれいにしてある。
清潔感のある黒髪美少年なら、引く手あまただろう。
「この先にあったレストランのウェイターとかどう? モテモテでチップもはずむかもよ、イケメンく~ん?」
「ちょっと……おい」
なにか言いたげな少年の手に、キャンディをにぎらせる。あ、これはごくふつうのキャンディね。
「ふふっ、お姉さんからの餞別だ。疲れたときになめると元気が出るよ。さぁがんばりたまえ、少年!」
「おいっ!」
隣街までっていう約束に、嫌々付き合わせてたんだ。これ以上、未来ある若者の時間を奪うのも忍びない。
「またどこかで会えたらいいねー!」
ちょっぴり寂しいけど、格好くらいつけさせてよ。
それが、大人のプライドってもんです。
笑顔で手をふったあとは、もうふり返らなかった。
それから隣街まで歩くこと、さらに三時間。
「低級ポーション五本で、千ゴールドだ。ほらよ」
「ありがとうございます!」
冒険者ギルドで買い取りをしてもらうころには、すっかり昼をすぎていた。
千ゴールドか。てことはひとり五百ゴールド。ちょっとリッチなサンドイッチに、ソフトドリンクもつけられるな。
冒険者ギルドでランチ代を稼いだあとは、大通りの屋台でふたり分のサンドイッチとジュースを購入する。
「おうい少年! おまちかねのランチだよー!」
「まってない、うるさい、静かにしろ」
相変わらず少年は名前を教えてくれないし、わたしへの風当たりもキツイけど、どこにも行かないでちゃんと待ってくれてるんだよね。
「ふひひ……」
「不気味……」
「まって、それガチなトーン」
過労死からの壮絶転生人生を送ってきたので、何事にも動じない虚無顔がデフォルメになっていたけど、しまりなくゆるんでしまってたみたいだ。
「ほら、お手伝いが立派にできたえらいボクちゃんに、お駄賃よ。たんとお食べ」
「……だから、こどもあつかいするなって」
紙で個包装されたサンドイッチと、紙製のカップに注がれたジュースを手わたすと、憎まれ口を叩きながらも受け取ってくれた。
ツンデレってやつか……お姉さん、ほほ笑ましいわ。
またにへらと顔がゆるんでしまいそうになるのをこらえて、広場にある噴水前のベンチに腰かける。
包み紙を剥いてサンドイッチにかぶりつくと、シャキシャキレタスの食感のあとに、厚切りベーコンの肉汁がじゅわっとひろがった。
かと思えば、とろけるチーズの香ばしいかおりが、鼻腔をすっと通り抜ける。
「はっ……なんだこれ、はちゃめちゃに美味しいじゃん……この値段でこの美味しさは、詐欺なのでは……!? ねぇ少年、ジュースも飲んでみてよ! さっき話したチーゴの実のジュースだよ! これは食べごろに熟したやつ!」
「だまって食えないのか」
「ウッス……サーセン」
年下に食事のマナーを注意されてしまった。落ち着きのないダメ大人ですんません。
「うぅ……だって、うれしかったんだもん……だれかとごはん食べるのなんて、ひさしぶりだから……」
「……うれしかった? 俺と、食事したくらいで? なんで……」
「はいはい、たかが食事でテンションが上がる単純なやつですよーだ。ぼっちナメんなよー」
ふてくされて、ズズ……とジュースをすする。おっと、また怒られてしまうと思ってたら、当の少年がなにやら考え込んでて。
「ねー、少年」
「……こんどはなんだ」
「きみ、きれいだね」
「どういう意味──」
「食べ方がきれい。そうやってきれいに食べてもらえて、食材たちもうれしいと思うよ」
「ッ……!」
目にしたことに素直な感想を述べただけなんだけど、少年の肩が異様なほどビクついた。
こっちをふり返った彼の顔は、また真っ赤になってた。
サファイアの瞳の奥では、羞恥とか、ほかにもいろんな感情がごちゃごちゃになってて、言葉にならないみたいだった。
「よし! お腹もいっぱいになったことだし、わたしはそろそろ行こっかな」
「はっ……?」
ベンチから立ち上がったとき、間の抜けた声をもらしたのは、少年だ。
これは思わぬ反応だ。わたしも首をかしげる。
「え? 今日のお宿をさがしに行こうと思うんだけど。超特急でポーション作ったり、歩き回って疲れちゃったし。きみはこれから、この街を見て回るんだよね?」
見たところ無一文みたいだし、少年の今後の選択肢としては、働き口をさがすのがベストだろう。
昨日家に連れ帰ったあとに、一応泥まみれのからだを拭いてあるし、着てた服も一度洗濯、絶妙な火・風魔法で乾燥させて、きれいにしてある。
清潔感のある黒髪美少年なら、引く手あまただろう。
「この先にあったレストランのウェイターとかどう? モテモテでチップもはずむかもよ、イケメンく~ん?」
「ちょっと……おい」
なにか言いたげな少年の手に、キャンディをにぎらせる。あ、これはごくふつうのキャンディね。
「ふふっ、お姉さんからの餞別だ。疲れたときになめると元気が出るよ。さぁがんばりたまえ、少年!」
「おいっ!」
隣街までっていう約束に、嫌々付き合わせてたんだ。これ以上、未来ある若者の時間を奪うのも忍びない。
「またどこかで会えたらいいねー!」
ちょっぴり寂しいけど、格好くらいつけさせてよ。
それが、大人のプライドってもんです。
笑顔で手をふったあとは、もうふり返らなかった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話
めるの
恋愛
仕事に疲れたアラサー女子ですが、気付いたら超絶美少女であるアナスタシアのからだの中に!
魅了の魔力を持つせいか、わがまま勝手な天才魔術師や犬属性の宰相子息、Sっ気が強い王様に気に入られ愛される毎日。
幸せだけど、いつか醒めるかもしれない夢にどっぷり浸ることは難しい。幸せになりたいけれど何が幸せなのかわからなくなってしまった主人公が、人から愛され大切にされることを身をもって知るお話。
※主人公以外の視点が多いです。※他サイトからの転載です
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる