お菓子配りの魔女と落ちこぼれ悪魔〜転生薬術師、ノリでひろった美少年が純情インキュバスでいろいろ詰む〜

はーこ

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本編

*5* 夜逃げならぬ朝逃げ

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 ただ、取引先へ向かう途中で娼館にも雇ってもらえなかった『彼ら』に路地裏に連れ込まれ、犯されそうになった経験も片手じゃ足りないくらいの回数はある。

 なので、奥の手として『特製キャンディ』を無料配布することでなんとか回避している。

 貞操を守るために、わたしだってなりふりかまってられないんだ。うるせぇ処女とかいうな。いや、前世から引き続く喪女ではあるけども……そこは身も心も清い乙女と言え!

「てか、『お菓子配りの魔女』とか呼ばれてたんか……厨二くさいな?」

 まぁ、全身をおおう黒いロングローブに、黒いフードをまぶかにかぶった怪しい女が、バスケット片手に夜な夜な『キャンディ』を売り歩いていたら、それくらいの弊害はあるか。

 褒められているのか、はなはだ判断に苦しむネーミングだ。

「ふわぁ……もういいや。寝よ」

 自宅の独創的ログハウス(やさしい表現)にとんぼ返りしたわたしは、ひと仕事を終え、考えることを放棄した。

 仕事をドタキャンしたとか、細かいことは考えたら負けだ。わたしは眠いんだ。

 大丈夫、明日のわたしがなんとかする!

 止まらないあくび。ベッドには先客がいるので、ラグを一枚敷いた床へそのままダイブする。

 ローブのフードをかぶって、赤ちゃんみたいに丸まったら、少しもしないうちに、睡魔がおむかえに来てくれた。


  *  *  *


 ダンダンダン!

 たてつけの悪い木製扉を乱暴に叩く音がする。

 むくり、と床から起き上がったわたしは、カーテンのない窓から射し込む朝陽の直撃を受け、完全に覚醒した。

「……やらかした」

 寝起きのせいか、声がカッスカスだ。
 頭が痛いのは、低血圧だからじゃない。

「なんてことしてくれちゃってんの、昨日のわたしーっ!」

 充分な睡眠を取り、正常な思考がはたらくようになったわたしは、頭をかかえて発狂した。

 昨日の取引相手がだれだったのかを、いまさら思い出したんだ。

「おい薬術師! いるんだろう、いますぐ出てこいっ!」

 ダンダンダンッ! と、怒号まじりのモーニングコールは鳴りやまない。

「そうだった、昨日は見栄とカネだけが取り柄のやり手ババア……んんっ、老舗娼館の美人女将との商談だった! 小娘に鼻っぱしへし折られて黙っちゃいないよねぇっ!」

 こっちが無理を言って定期購入にこぎつけたくせに、肝心の『商品』を納品しなかったんだ。

 その気がないとしても、「前払い金をちょろまかされた」と解釈されたって不思議じゃない。

「よし、逃げよう!」

 ヤミ金の取り立てのごとく寄こされた下男の様子から察するに、話し合いの場を求めたところで聞いちゃくれないだろう。

 使い古したマジックバッグに調薬で使う道具を片っぱしから放り込んでいる途中で、気づいた。

「────」

 ベッドから起き上がった見知らぬ少年が、こっちを睨みつけていることに。

「へっ……あっ、そうだったぁ!」

 パニックのあまり、昨日ノリでひろった彼のことをすっかりサッパリ忘れてた。

 どうする? ねぇこれどうする? 置いてく?

 いや、そんなことをしたら、罪のない少年に濡れ衣を着せることになってしまう。

 これでも人並みの倫理観は持ち合わせてるつもりだ。

「ねぇきみ!」
「っ……やめろ! はなせっ……」

 いきなり手首をつかんだから、驚いたんだろうか。

 とっさに振り払おうとする少年だけど、あんまり力が入ってなくて。

「ごめんっ、詳しく説明してるヒマはないの! わたしについてきてくれる!? いっしょにこの街を出よう!」

 足をもつれさせながらベッドから下りた少年の手を引いて、裏口から抜け出す。

 寝室の机の上に、バスケットいっぱいの『特製キャンディ』を置いて。
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