遠雷の唄

はーこ

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第8話 線香花火よりも

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「私が海なら、アラシは空さぁね」

 15歳の夏。満天の星のもと。
 夜の浜辺にしゃがみ込んだ美波みなみが、突拍子もなく言い出したことを思い出した。

「いきなり意味がわからん」
「えぇ! なんかかっこよくない? ふたりでひとつ、みたいな!」
「こどもか」

 そうか、だから18にもなるくせに、「線香花火、どっちが長く続くか勝負しよう!」とかはしゃぐんだ。

「アラシくんが、今日もツンツンですぅー。もう『ミィナねぇね』って呼んでくれないしー」
「はいはい」

 となりあって線香花火。唇を尖らせた美波を、そっと見やる。
 パチパチと消えゆく儚い火花を見つめる横顔に、きゅっと胸が苦しくなる。

 3歳差。俺が中学に入れば、美波は高校生に。
 俺が高校受験を控えているいま、美波は沖縄本島の大学に進学を希望している。
 将来は島に帰ってきて、小学校の先生をしたいらしい。

 やっと美波の身長を抜いても、距離感は一向に縮まらない。
 ヤキモキして、ちょっとくらい、背のびしたくなった。
 断りもなく、美波のほほに顔を寄せる。
 けど、タイミングが悪かった。

「見てアラシ! 花火がっ……!」

 消えたと思った線香花火がふたたびはじけて、歓喜した美波が、こっちをふり返ったんだ。
 ゼロになる距離。
 ざ、ざぁー……と、波の音がやけにひびいて聞こえて。
 まぬけな美波の顔が、至近距離にあった。

「って……えっ?」
「ちょっ、おい美波!」
「いまなんかやわらかいのが、くちびるに……えっ?」
「ひと夏の甘酸っぱい想い出にするつもりだったのに! 三段飛ばしぐらいで階段のぼらされたわ! 俺の純情かえせぇーっ!」
「あう、ギブギブギブ……」

 意を決して行動に出たら、なんとも締まらない結果に。
 はぁ……これが俺たちってことか。
 美波にヘッドロックをかけるのは、照れ隠し以外の何物でもない。

「まさかやぁ……」
「やかましいわ」

 ……俺の顔、線香花火より赤いんだろな。
 どさくさにまぎれて、細い肩を、ぎゅっと抱きしめた。
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