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第1話 予報はずれの雷雨
しおりを挟む『別れよう』
右耳に当てた薄い金属の板が、ひと月ぶりに恋人の声をつたえる。
自動音声アナウンスみたいに、感情のない声を。
「…………は?」
信号待ち。
チカチカと目に痛いヘッドライトや、車道を流れる無数の排気音が、俺の五感からフェードアウトする。
『あんたとはもう冷めたの』
「……いきなり意味がわからへん、なんでや」
『さようなら、金城嵐さん』
「待てってば美波、みなっ──!」
プツン。ツー、ツー……
一方的に切られた通話。
『19:07』と表示したスマートフォンのホーム画面が、きっかり10秒後に消灯した。
「別れよう……? そんなん納得できるわけないやろがッ!」
怒りにまかせ、左手に提げていた荷物を地面に叩きつける。
眠らない街、銀座。
道ゆく赤の他人の視線が全方位から突き刺さって、最悪なんてもんじゃなかった。
足もとに散乱するのは、ブリーフケース。
そして、くしゃりとへこんだショッパー。
3ヶ月分の給料と引き換えに手に入れた純白の手提げ袋を見下ろして、ハッと嘲笑いがもれた。
地面を睨みつける俺の頭上で、ゴロゴロと、空が重苦しくうなり出す。
予報はずれの、雷雨だった。
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