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第1章『リンゴンの街編』
第8話 はじめてのお仕事見学
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「はぁい、アタクシがクリベリン邸の女主人、ロリンダざます。あいにく主人は不在ですので、アタクシがご案内するざます」
「ざます……?」
「シッ……スルースキルというのも、ヒトとヒトとのおつきあいで必要なものですよ」
「スルースキル……なるほど、あえてふれないやさしさってやつですね。勉強になります!」
いろんなところを旅してきて、僕もたまに日雇いではたらいたこともあったけど、モンスターのお世話ははじめてだもんなぁ。
完全に未知の世界だ。でもなんか、わくわくする!
「クリベリン夫人、本日のご依頼内容についてのご確認をしても?」
エントランスから入り、上の階へ続くらせん階段をのぼりながら、オーバーオールの胸ポケットから契約書を取り出すシュシュさん。
「いいざますわよ」
「ありがとうございます。『スライム』のお世話内容が『フリー』となっていますね。この場合、ごはんやおさんぽをこちらで判断したタイミングでおこないますが、よろしいでしょうか?」
テキパキと依頼内容の確認をするシュシュさんは、なんていうか、かっこいい! 『お仕事モード』ってやつかな!
「えぇ? あぁ、まぁ、はい」
「……? ではさしつかえなければ、もうすこし質問させてください。『スライム』のごはんは、いつもどうされていますか?」
「え?」
「『自然界のお掃除係』と呼ばれているように、『スライム』は一般的にゴミとされているものを取り込んで、溶かす能力があります。しかし対象が有機物と無機物、どちらか一方に限っておりまして、『キライ』なほうを食べさせてはいけませんから」
「有機物、無機物……?」
「ふだん食べさせているものを教えていただければ、けっこうです」
「あぁ、それなら、子供が割ってしまった花瓶のガラス片だとか、くずかごのなかの書き損じのお手紙ざますわ」
「……ほう?」
ぴょこん、と双葉のバンダナが反応する。
シュシュさんは、口もとに手をあてて、なにやら考え込んでしまった。
僕も僕で、「あれ?」と疑問に思う。
上手く言えないけど、クリベリン夫人の返事に違和感があるっていうか……
「『スライム』は、どんな見た目をしていますか? お名前は? ニックネームなどがあれば、それも教えていただけるとうれしいです」
「手のひらサイズのちいさな『スライム』ざます。青っぽいゼリー状のからだで、さわるとひんやりしていますの。名前は……なんだったかしら? 子供が次から次へとニックネームを変えるので、わからなくなってしまいましたわ、オホホホ!」
真っ赤に塗った口もとを扇子でおおったクリベリン夫人が、階段をのぼりきると、「こちらざます」と口早に言って、とある部屋のほうへそそくさと向かってしまう。
その背がなんだか、「これ以上きかないで」と拒否しているように思えた僕は、こころが狭いのかな。
「……妙、ですね」
だけど、モヤモヤした僕の心境を肯定するつぶやきがあった。シュシュさんだ。
「奇妙なにおいがプンプンします。でも豪華なお花をそこらじゅうに飾っても、シュシュの鼻はごまかせませんよ」
それは、僕が「なんかおかしい」と感じていた違和感の正体に、シュシュさんは確信をもっている口ぶりだった。
「行きましょう、トッティ、ソラくん」
「ウ!」
「──!」
廊下を飾る豪華な絵画や花瓶には、目もくれない。
シュシュさんは前だけを見ているから、僕も。
「はいっ!」
僕も、このヒトを信じてついていくだけ。
いまも、むかしも。
「ざます……?」
「シッ……スルースキルというのも、ヒトとヒトとのおつきあいで必要なものですよ」
「スルースキル……なるほど、あえてふれないやさしさってやつですね。勉強になります!」
いろんなところを旅してきて、僕もたまに日雇いではたらいたこともあったけど、モンスターのお世話ははじめてだもんなぁ。
完全に未知の世界だ。でもなんか、わくわくする!
「クリベリン夫人、本日のご依頼内容についてのご確認をしても?」
エントランスから入り、上の階へ続くらせん階段をのぼりながら、オーバーオールの胸ポケットから契約書を取り出すシュシュさん。
「いいざますわよ」
「ありがとうございます。『スライム』のお世話内容が『フリー』となっていますね。この場合、ごはんやおさんぽをこちらで判断したタイミングでおこないますが、よろしいでしょうか?」
テキパキと依頼内容の確認をするシュシュさんは、なんていうか、かっこいい! 『お仕事モード』ってやつかな!
「えぇ? あぁ、まぁ、はい」
「……? ではさしつかえなければ、もうすこし質問させてください。『スライム』のごはんは、いつもどうされていますか?」
「え?」
「『自然界のお掃除係』と呼ばれているように、『スライム』は一般的にゴミとされているものを取り込んで、溶かす能力があります。しかし対象が有機物と無機物、どちらか一方に限っておりまして、『キライ』なほうを食べさせてはいけませんから」
「有機物、無機物……?」
「ふだん食べさせているものを教えていただければ、けっこうです」
「あぁ、それなら、子供が割ってしまった花瓶のガラス片だとか、くずかごのなかの書き損じのお手紙ざますわ」
「……ほう?」
ぴょこん、と双葉のバンダナが反応する。
シュシュさんは、口もとに手をあてて、なにやら考え込んでしまった。
僕も僕で、「あれ?」と疑問に思う。
上手く言えないけど、クリベリン夫人の返事に違和感があるっていうか……
「『スライム』は、どんな見た目をしていますか? お名前は? ニックネームなどがあれば、それも教えていただけるとうれしいです」
「手のひらサイズのちいさな『スライム』ざます。青っぽいゼリー状のからだで、さわるとひんやりしていますの。名前は……なんだったかしら? 子供が次から次へとニックネームを変えるので、わからなくなってしまいましたわ、オホホホ!」
真っ赤に塗った口もとを扇子でおおったクリベリン夫人が、階段をのぼりきると、「こちらざます」と口早に言って、とある部屋のほうへそそくさと向かってしまう。
その背がなんだか、「これ以上きかないで」と拒否しているように思えた僕は、こころが狭いのかな。
「……妙、ですね」
だけど、モヤモヤした僕の心境を肯定するつぶやきがあった。シュシュさんだ。
「奇妙なにおいがプンプンします。でも豪華なお花をそこらじゅうに飾っても、シュシュの鼻はごまかせませんよ」
それは、僕が「なんかおかしい」と感じていた違和感の正体に、シュシュさんは確信をもっている口ぶりだった。
「行きましょう、トッティ、ソラくん」
「ウ!」
「──!」
廊下を飾る豪華な絵画や花瓶には、目もくれない。
シュシュさんは前だけを見ているから、僕も。
「はいっ!」
僕も、このヒトを信じてついていくだけ。
いまも、むかしも。
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