【R18】たまゆらの花篝り〜風雷の香〜

はーこ

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本編

新たな芽吹き㈡

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 すでに制服姿であったため、まさかとは思ったが、やはりというか、それから当然のごとく一緒に登校する運びとなった。
「別にいいじゃない。青春を謳歌するのも、学生の本分だよ」とは、物言いたげな穂花ほのかの先手を取った、綺羅きらの言である。

「きみはさ、もっと他人を利用したほうがいいよ」

 ホームルームを終え、机上で教科書の角を揃えていたとき、そんな発言が隣から届いた。
 言わずもがな、綺羅のもの。

 穂花の浮かないため息のわけが、気怠い週明けの一限目から苦手な化学であることだけはないのを、見透かしていた口ぶりだ。

 続々と移動するクラスメイトたち。べに真知まちの作った蝋人形の器で校内に紛れ込んでいるが、神体であったこれまで同様、基本的に休み時間以外は姿を現さない。
 ほかに誘う友もない穂花と綺羅だけが、静まり返った教室に取り残される。

「いきなりだね……」
「見てるこっちが焦れったいんだよね。きみと高千穂たかちほ先生──コノハナサクヤヒメはさ」

 綺羅が紅の師であるなら、サクヤのことを知らないはずはなかった。
 少し考えればわかるはずなのに、不意討ちを食らったかのように、穂花の脳は思考を停止してしまう。
 そうだとしても、綺羅が言葉を止める理由にはならない。

「発破はかけといたから。ぐずぐずしてると、僕がほのちゃんもらっちゃうよって」
「うそっ、さくになに言ってくれちゃってるの!?」
「んー、ちょっと個人的な仕返し? 彼、案外見かけによらないんだねぇ。あの反応は見物だったな。でもま、そういうことだから」
「どういうことですか……」
「僕からきみを奪っていった男らしく、怖い顔もできるひとだった、ってこと」

 サクヤの怖い顔。紅と真知が諍いを起こしていたときに、一瞬だけ目にしたことはあるが……余程のことがない限り、底抜けに心根の優しい桜の神が怒ることはないはずなのだ。

 ──余程のことだったのだ。サクヤにとって、己のことは。

「たしかに、綺羅くんのものじゃあない、かなぁ」

 そっと呟いた反撃は、身体の芯に灯った熱を誤魔化す以外の何物でもない。

「へぇ……言うじゃない」

 柄でもない反撃を仕掛けたのだ。綺羅の性格上、黙って受け流すはずもない。
 事実、声を低めた綺羅が、うっそりと笑んだ。獲物を狙う、獰猛なまなざしそのものだ。

「ツンツンしちゃって、僕に意地悪されたいの? ほんと、素直じゃないんだから」
「違っ……」

 はたと気づいたところで、時は巻いて戻せない。

「いけない子」

 鼓膜へ吐息を吹き込んだ唇が、左の耳朶をやわく食む。
 ぞくぞくと脊髄から込み上げる感覚。堪らず顔を背けてしまえば、綺羅の思う壺。

 するりと顎の稜線をなぞった指先が、く……と僅かな力を込める。
 いじらしい反抗を見せる少女の視線を連れ戻すことに、そう苦心はしない。
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