12 / 61
本編
滲む水無月㈢
しおりを挟む
友達がほしい。ぼっちダメ、ゼッタイ。
望んで集団の輪を外れたわけではない穂花なだけに、渇望したその機会がよもや唐突に訪れるなど、予想できるはずもなく。
「ねーえ、葦原さーん」
授業終了と共に昼休みの開始を、チャイムが告げる。
梅雨という時期に見合い、ガラス一枚を隔てた向こう側は、正しく雨。
いつものように屋上へ向かえるはずもなく、紅手製の重箱を抱え、自身の席でさてどうしたのもかと頭をも抱えていたとき、鼻にかかったような声に名前を呼ばれた。
胸を躍らせたのも束の間、即座に現実へと引き戻される。正面に立ってにこにこと浮かべられる笑みに、見覚えがありすぎて。
「あのね、今日の放課後なんだけどぉ」
ランチのお誘いであるわけがなかった。
提出物の集配? 係の雑用?
委員会の仕事で、図書委員オススメの一冊の紹介文を代筆したこともある。
ちなみに穂花は美化委員だ。新しく花瓶に生けたい花だとか、掃除用具の不備に関する相談なら、喜んで承りたい。
「ごめんなさい……放課後は、用事があって」
友達はほしい。ほしいけれど……〝こういうもの〟は、友達とは呼ばない。
声は少し震えてしまったけれど、いつの日か紅に気づかされた真実に、勇気を持って向き合ってみた。
「あーね……」
たった一言。その調子は、段違いに低音を紡いだ。
役立たずめと、女子生徒の表情は物語っている。
困ったときは任せて! とたしかに見栄を張ったけれど、あなたの大事な用事っていうのは、〝友達〟とのカラオケじゃない、ショッピングじゃない。
いっそ叫んでしまいたかったが、軋む胸を押さえ、乾いた笑みを張りつける癖から簡単に抜け出せそうにない。
「葦原さんってさ、高千穂先生と仲いいよね」
そんな中、突拍子もなく振られた話題に、反応が遅れてしまう。
「……そう、かな」
サクヤとは夫婦だが、教師と生徒という立場上、十二分に身を弁えているつもりだ。それは、サクヤも同じはず。
「だって葦原さん、入学してから一度も欠席したことなかったのに、最近保健室に行ったり、休みがちだよね?」
そりゃ、色々色々あったんですって。
ちょっと大人の階段を上らされたり、神様の世界に拉致られましたなんて事実を打ち明けたところで、電波だのなんだの言われている自分の頭上にアンテナが増えるだけである。
サクヤが赴任してきた時期と同じくして、穂花が保健室に入り浸るようになった。彼女にとって重要なのは、その一点のみだ。
利用できないと知れたら、あっという間に手のひらを返す。人間、とりわけ女という生き物ほど恐ろしいものを、穂花は知らなかった。
望んで集団の輪を外れたわけではない穂花なだけに、渇望したその機会がよもや唐突に訪れるなど、予想できるはずもなく。
「ねーえ、葦原さーん」
授業終了と共に昼休みの開始を、チャイムが告げる。
梅雨という時期に見合い、ガラス一枚を隔てた向こう側は、正しく雨。
いつものように屋上へ向かえるはずもなく、紅手製の重箱を抱え、自身の席でさてどうしたのもかと頭をも抱えていたとき、鼻にかかったような声に名前を呼ばれた。
胸を躍らせたのも束の間、即座に現実へと引き戻される。正面に立ってにこにこと浮かべられる笑みに、見覚えがありすぎて。
「あのね、今日の放課後なんだけどぉ」
ランチのお誘いであるわけがなかった。
提出物の集配? 係の雑用?
委員会の仕事で、図書委員オススメの一冊の紹介文を代筆したこともある。
ちなみに穂花は美化委員だ。新しく花瓶に生けたい花だとか、掃除用具の不備に関する相談なら、喜んで承りたい。
「ごめんなさい……放課後は、用事があって」
友達はほしい。ほしいけれど……〝こういうもの〟は、友達とは呼ばない。
声は少し震えてしまったけれど、いつの日か紅に気づかされた真実に、勇気を持って向き合ってみた。
「あーね……」
たった一言。その調子は、段違いに低音を紡いだ。
役立たずめと、女子生徒の表情は物語っている。
困ったときは任せて! とたしかに見栄を張ったけれど、あなたの大事な用事っていうのは、〝友達〟とのカラオケじゃない、ショッピングじゃない。
いっそ叫んでしまいたかったが、軋む胸を押さえ、乾いた笑みを張りつける癖から簡単に抜け出せそうにない。
「葦原さんってさ、高千穂先生と仲いいよね」
そんな中、突拍子もなく振られた話題に、反応が遅れてしまう。
「……そう、かな」
サクヤとは夫婦だが、教師と生徒という立場上、十二分に身を弁えているつもりだ。それは、サクヤも同じはず。
「だって葦原さん、入学してから一度も欠席したことなかったのに、最近保健室に行ったり、休みがちだよね?」
そりゃ、色々色々あったんですって。
ちょっと大人の階段を上らされたり、神様の世界に拉致られましたなんて事実を打ち明けたところで、電波だのなんだの言われている自分の頭上にアンテナが増えるだけである。
サクヤが赴任してきた時期と同じくして、穂花が保健室に入り浸るようになった。彼女にとって重要なのは、その一点のみだ。
利用できないと知れたら、あっという間に手のひらを返す。人間、とりわけ女という生き物ほど恐ろしいものを、穂花は知らなかった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる