【R18】たまゆらの花篝り〜風雷の香〜

はーこ

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本編

滲む水無月㈢

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 友達がほしい。ぼっちダメ、ゼッタイ。

 望んで集団の輪を外れたわけではない穂花ほのかなだけに、渇望したその機会がよもや唐突に訪れるなど、予想できるはずもなく。

「ねーえ、葦原あしはらさーん」

 授業終了と共に昼休みの開始を、チャイムが告げる。
 梅雨という時期に見合い、ガラス一枚を隔てた向こう側は、正しく雨。
 いつものように屋上へ向かえるはずもなく、紅手製の重箱を抱え、自身の席でさてどうしたのもかと頭をも抱えていたとき、鼻にかかったような声に名前を呼ばれた。

 胸を躍らせたのも束の間、即座に現実へと引き戻される。正面に立ってにこにこと浮かべられる笑みに、見覚えがありすぎて。

「あのね、今日の放課後なんだけどぉ」

 ランチのお誘いであるわけがなかった。

 提出物の集配? 係の雑用?
 委員会の仕事で、図書委員オススメの一冊の紹介文を代筆したこともある。
 ちなみに穂花は美化委員だ。新しく花瓶に生けたい花だとか、掃除用具の不備に関する相談なら、喜んで承りたい。

「ごめんなさい……放課後は、用事があって」

 友達はほしい。ほしいけれど……〝こういうもの〟は、友達とは呼ばない。
 声は少し震えてしまったけれど、いつの日か紅に気づかされた真実に、勇気を持って向き合ってみた。

「あーね……」

 たった一言。その調子は、段違いに低音を紡いだ。
 役立たずめと、女子生徒の表情は物語っている。

 困ったときは任せて! とたしかに見栄を張ったけれど、あなたの大事な用事っていうのは、〝友達〟とのカラオケじゃない、ショッピングじゃない。

 いっそ叫んでしまいたかったが、軋む胸を押さえ、乾いた笑みを張りつける癖から簡単に抜け出せそうにない。

「葦原さんってさ、高千穂たかちほ先生と仲いいよね」

 そんな中、突拍子もなく振られた話題に、反応が遅れてしまう。

「……そう、かな」

 サクヤとは夫婦だが、教師と生徒という立場上、十二分に身を弁えているつもりだ。それは、サクヤも同じはず。

「だって葦原さん、入学してから一度も欠席したことなかったのに、最近保健室に行ったり、休みがちだよね?」

 そりゃ、色々色々あったんですって。

 ちょっと大人の階段を上らされたり、神様の世界に拉致られましたなんて事実を打ち明けたところで、電波だのなんだの言われている自分の頭上にアンテナが増えるだけである。

 サクヤが赴任してきた時期と同じくして、穂花が保健室に入り浸るようになった。彼女にとって重要なのは、その一点のみだ。

 利用できないと知れたら、あっという間に手のひらを返す。人間、とりわけ女という生き物ほど恐ろしいものを、穂花は知らなかった。
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