194 / 263
第三章『焔魔仙教編』
第百九十話 己が意志にてつがう【中】
しおりを挟む
目前の茶杯を引っつかみ、まだ熱いその中身を床にぶちまける。
「梅雪ちゃん!」
「梅雪さま、ご無事ですか!」
すぐに六夜と五音が声をあげ、飛びつくように駆け寄ってくる。
突然の早梅の行動を責めるでもなく、むしろ火傷などしていないかと、案じてくれているほどだ。
「一心さま……私はいま、とても怒っています。一心さまのおっしゃることが、全然理解できないからです。まったく、これっぽっちも」
空になった茶杯を、ひっくり返したそのままに、卓へ叩きつける。
丸みをおびた琥珀の瞳が、そのさまを見つめていた。
「物を買うにしてもそう。なにかを得るために、なにかをさしだすのは、当たり前のことでしょう。それも一心さまが言っている『猫族の秘密』は、お金では買えない、猫族にとってたいせつなことなんですよね。お金の価値がつけられないなら、こころをさしだす。それって、対価としてまっとうなものだと思うんです」
「……まっとうな、もの?」
「そうです。それなのに一心さまときたら、まるでじぶんを悪人みたいに仕立てあげて、私に私自身を犠牲にしろって言うんです。みなさんに私をさしだすことは、私にとって損失なんですか? 『だいじなことを教えてくれてありがとう』って、感謝の気持ちでいちゃいけないんですか?」
とたん、息をのむ気配がある。
一心のみならない。六夜に、五音もだ。
「私が嫌がる前提で話を進めないでください! 私の気持ちを勝手に決めつけないでください! だから怒ってるんです、私は! ってゆーか、そもそも私が好き放題される前提なのも納得できません! 私だって女の色気でみなさんを骨抜きにしてやれるんですから、舐めないでくださいっ!」
きゃあきゃあとまくした立てたあとは、痛いくらいの静けさがおとずれる。
感情的になってしまい、最後のほうは突拍子もないことまで口走ってしまった気もするが、まぁいい。言いたいことはぜんぶ言ってやった。
「ぷっ……あははははっ!」
どっと笑い声をあげたのは、六夜だ。
「いやもう、なんていうか、梅雪ちゃんらしいっていうか。どこまで惚れさせれば気がすむんだか」
「ほんとうにね。ふふ、これは反則ですよ、梅雪さま」
「んっ?」
六夜だけでなく、五音も小刻みに肩をふるわせている。
「見事に一本とられましたねぇ、一心さま?」
六夜に名指しされた一心が、卓にひじをつき、頭をかかえている。
「もう……君ってひとは……っ!」
「わぁっ!」
かと思えば、がたりと椅子を鳴らして立ち上がり、飛びついてくるので、早梅は黒とキジトラと三毛、三匹の猫まみれになってしまった。
「昨日まで、あんなに嫌がってたじゃないですか……」
「嫌がってたわけじゃなくて……恥ずかしかったんです」
「……僕たちとするのが、嫌じゃなかった?」
「嫌なわけないですってば! みなさんが私をたいせつに想ってくださっていることは、よく知っているつもりですし……乱暴するわけないって、わかってますから」
恥ずかしさで発火してしまうくらいに顔が熱いけれど、この際だ、すべて白状してしまえ。
「すくなくとも、みなさんはどっかのロリコンくそやろうとちがって、遥かに魅力的な男性だと思います。だから、嫌では、ないです。私がその、恥ずかしかっただけですから……」
語尾はごにょごにょ……と消え入ってしまい、なんならこのまま消えてしまいたい早梅であった。
「よし、抱こう」
「これは抱かずにはいられませんね」
「ぜってぇ孕ます」
「ふぇっ!?」
なにやら不穏な会話が聞こえてきたのだが。
「あのあのっ……さ、三人同時に、ですか……?」
「逆にきくけど、俺たちのだれかをおあずけにして、そのあと無事でいられると思ってんの?」
「う……五音さま……」
「おや、私をご指名ですか? ふふ……あまり焦らされては、本気に、なってしまいますねぇ?」
「ひぇっ……」
「梅雪ちゃん、五音のやつ、こう見えて俺より性欲強いから」
「さぁ梅雪さま、寝台へおつれしましょうか」
「まってまってまって……!」
展開がはやい。いくらなんでもはやすぎる。
大混乱のさなか、五音にひょいと抱き上げられ、あっという間に寝台へ連行されてしまう。
「あぁ五音、梅雪さんをつぶさないように気をつけて」
「てか、なにしれっと抜け駆けしてんだよ。最初にだれを選ぶか決めんのは、梅雪ちゃんだろうが」
五音に組み敷かれた矢先、寝台には一心が腰かけ、六夜もひざを乗り上げてくる。
正気なのか。ほんとうにこれから、この三人の男たちを相手にしなければならないのか。
「梅雪さん。お嫌なら、僕たちの『字名』を呼んで、拒否してください。猫族の男は本能的に、つがいの命令にしたがってしまうのです」
完全に逃げ道をふさいでおいて、選択肢はあると、期待させるのか。
「……ずるいです」
ほんとうに、意地悪な猫たちだ。
「『玲音』さま」
「はい、私の愛しいひと」
五音が応え、するりと、指先をからませる。
「『天夜』さま」
「ん。梅雪ちゃんの言うとおりにするよ」
六夜がはにかみ、ちゅ、と唇でほほをくすぐる。
「『和心』さま」
「えぇ……僕はここに」
一心が吐息をもらし、掬いとった翡翠の髪に口づける。
「…………やさしく、してください」
たっぷりの間をへて、やっとの思いで口にすれば、一拍を置いて、猫たちが満面の笑みをほころばせた。
「お姫さまの、おおせのままに」
「梅雪ちゃん!」
「梅雪さま、ご無事ですか!」
すぐに六夜と五音が声をあげ、飛びつくように駆け寄ってくる。
突然の早梅の行動を責めるでもなく、むしろ火傷などしていないかと、案じてくれているほどだ。
「一心さま……私はいま、とても怒っています。一心さまのおっしゃることが、全然理解できないからです。まったく、これっぽっちも」
空になった茶杯を、ひっくり返したそのままに、卓へ叩きつける。
丸みをおびた琥珀の瞳が、そのさまを見つめていた。
「物を買うにしてもそう。なにかを得るために、なにかをさしだすのは、当たり前のことでしょう。それも一心さまが言っている『猫族の秘密』は、お金では買えない、猫族にとってたいせつなことなんですよね。お金の価値がつけられないなら、こころをさしだす。それって、対価としてまっとうなものだと思うんです」
「……まっとうな、もの?」
「そうです。それなのに一心さまときたら、まるでじぶんを悪人みたいに仕立てあげて、私に私自身を犠牲にしろって言うんです。みなさんに私をさしだすことは、私にとって損失なんですか? 『だいじなことを教えてくれてありがとう』って、感謝の気持ちでいちゃいけないんですか?」
とたん、息をのむ気配がある。
一心のみならない。六夜に、五音もだ。
「私が嫌がる前提で話を進めないでください! 私の気持ちを勝手に決めつけないでください! だから怒ってるんです、私は! ってゆーか、そもそも私が好き放題される前提なのも納得できません! 私だって女の色気でみなさんを骨抜きにしてやれるんですから、舐めないでくださいっ!」
きゃあきゃあとまくした立てたあとは、痛いくらいの静けさがおとずれる。
感情的になってしまい、最後のほうは突拍子もないことまで口走ってしまった気もするが、まぁいい。言いたいことはぜんぶ言ってやった。
「ぷっ……あははははっ!」
どっと笑い声をあげたのは、六夜だ。
「いやもう、なんていうか、梅雪ちゃんらしいっていうか。どこまで惚れさせれば気がすむんだか」
「ほんとうにね。ふふ、これは反則ですよ、梅雪さま」
「んっ?」
六夜だけでなく、五音も小刻みに肩をふるわせている。
「見事に一本とられましたねぇ、一心さま?」
六夜に名指しされた一心が、卓にひじをつき、頭をかかえている。
「もう……君ってひとは……っ!」
「わぁっ!」
かと思えば、がたりと椅子を鳴らして立ち上がり、飛びついてくるので、早梅は黒とキジトラと三毛、三匹の猫まみれになってしまった。
「昨日まで、あんなに嫌がってたじゃないですか……」
「嫌がってたわけじゃなくて……恥ずかしかったんです」
「……僕たちとするのが、嫌じゃなかった?」
「嫌なわけないですってば! みなさんが私をたいせつに想ってくださっていることは、よく知っているつもりですし……乱暴するわけないって、わかってますから」
恥ずかしさで発火してしまうくらいに顔が熱いけれど、この際だ、すべて白状してしまえ。
「すくなくとも、みなさんはどっかのロリコンくそやろうとちがって、遥かに魅力的な男性だと思います。だから、嫌では、ないです。私がその、恥ずかしかっただけですから……」
語尾はごにょごにょ……と消え入ってしまい、なんならこのまま消えてしまいたい早梅であった。
「よし、抱こう」
「これは抱かずにはいられませんね」
「ぜってぇ孕ます」
「ふぇっ!?」
なにやら不穏な会話が聞こえてきたのだが。
「あのあのっ……さ、三人同時に、ですか……?」
「逆にきくけど、俺たちのだれかをおあずけにして、そのあと無事でいられると思ってんの?」
「う……五音さま……」
「おや、私をご指名ですか? ふふ……あまり焦らされては、本気に、なってしまいますねぇ?」
「ひぇっ……」
「梅雪ちゃん、五音のやつ、こう見えて俺より性欲強いから」
「さぁ梅雪さま、寝台へおつれしましょうか」
「まってまってまって……!」
展開がはやい。いくらなんでもはやすぎる。
大混乱のさなか、五音にひょいと抱き上げられ、あっという間に寝台へ連行されてしまう。
「あぁ五音、梅雪さんをつぶさないように気をつけて」
「てか、なにしれっと抜け駆けしてんだよ。最初にだれを選ぶか決めんのは、梅雪ちゃんだろうが」
五音に組み敷かれた矢先、寝台には一心が腰かけ、六夜もひざを乗り上げてくる。
正気なのか。ほんとうにこれから、この三人の男たちを相手にしなければならないのか。
「梅雪さん。お嫌なら、僕たちの『字名』を呼んで、拒否してください。猫族の男は本能的に、つがいの命令にしたがってしまうのです」
完全に逃げ道をふさいでおいて、選択肢はあると、期待させるのか。
「……ずるいです」
ほんとうに、意地悪な猫たちだ。
「『玲音』さま」
「はい、私の愛しいひと」
五音が応え、するりと、指先をからませる。
「『天夜』さま」
「ん。梅雪ちゃんの言うとおりにするよ」
六夜がはにかみ、ちゅ、と唇でほほをくすぐる。
「『和心』さま」
「えぇ……僕はここに」
一心が吐息をもらし、掬いとった翡翠の髪に口づける。
「…………やさしく、してください」
たっぷりの間をへて、やっとの思いで口にすれば、一拍を置いて、猫たちが満面の笑みをほころばせた。
「お姫さまの、おおせのままに」
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
【完結】帰れると聞いたのに……
ウミ
恋愛
聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。
※登場人物※
・ゆかり:黒目黒髪の和風美人
・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ
今日で婚約者の事を嫌いになります!ハイなりました!
キムラましゅろう
恋愛
うっうっうっ…もう頑張れないっ、もう嫌。
こんな思いをするくらいなら、彼を恋する気持ちなんて捨ててしまいたい!
もう嫌いになってしまいたい。
そうね、好きでいて辛いなら嫌いになればいいのよ!
婚約者の浮気(?)現場(?)を見てしまったアリス。
学園入学後から距離を感じる婚約者を追いかける事にちょっぴり疲れを感じたアリスは、彼への恋心を捨て自由に生きてやる!と決意する。
だけど結局は婚約者リュートの掌の上でゴロゴーロしているだけのような気が……しないでもない、そんなポンコツアリスの物語。
いつもながらに誤字脱字祭りになると予想されます。
お覚悟の上、お読み頂けますと幸いです。
完全ご都合展開、ノーリアリティノークオリティなお話です。
博愛主義の精神でお読みくださいませ。
小説家になろうさんにも投稿します。
転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!
高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。
転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる