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第三章『焔魔仙教編』
第百九十話 己が意志にてつがう【中】
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目前の茶杯を引っつかみ、まだ熱いその中身を床にぶちまける。
「梅雪ちゃん!」
「梅雪さま、ご無事ですか!」
すぐに六夜と五音が声をあげ、飛びつくように駆け寄ってくる。
突然の早梅の行動を責めるでもなく、むしろ火傷などしていないかと、案じてくれているほどだ。
「一心さま……私はいま、とても怒っています。一心さまのおっしゃることが、全然理解できないからです。まったく、これっぽっちも」
空になった茶杯を、ひっくり返したそのままに、卓へ叩きつける。
丸みをおびた琥珀の瞳が、そのさまを見つめていた。
「物を買うにしてもそう。なにかを得るために、なにかをさしだすのは、当たり前のことでしょう。それも一心さまが言っている『猫族の秘密』は、お金では買えない、猫族にとってたいせつなことなんですよね。お金の価値がつけられないなら、こころをさしだす。それって、対価としてまっとうなものだと思うんです」
「……まっとうな、もの?」
「そうです。それなのに一心さまときたら、まるでじぶんを悪人みたいに仕立てあげて、私に私自身を犠牲にしろって言うんです。みなさんに私をさしだすことは、私にとって損失なんですか? 『だいじなことを教えてくれてありがとう』って、感謝の気持ちでいちゃいけないんですか?」
とたん、息をのむ気配がある。
一心のみならない。六夜に、五音もだ。
「私が嫌がる前提で話を進めないでください! 私の気持ちを勝手に決めつけないでください! だから怒ってるんです、私は! ってゆーか、そもそも私が好き放題される前提なのも納得できません! 私だって女の色気でみなさんを骨抜きにしてやれるんですから、舐めないでくださいっ!」
きゃあきゃあとまくした立てたあとは、痛いくらいの静けさがおとずれる。
感情的になってしまい、最後のほうは突拍子もないことまで口走ってしまった気もするが、まぁいい。言いたいことはぜんぶ言ってやった。
「ぷっ……あははははっ!」
どっと笑い声をあげたのは、六夜だ。
「いやもう、なんていうか、梅雪ちゃんらしいっていうか。どこまで惚れさせれば気がすむんだか」
「ほんとうにね。ふふ、これは反則ですよ、梅雪さま」
「んっ?」
六夜だけでなく、五音も小刻みに肩をふるわせている。
「見事に一本とられましたねぇ、一心さま?」
六夜に名指しされた一心が、卓にひじをつき、頭をかかえている。
「もう……君ってひとは……っ!」
「わぁっ!」
かと思えば、がたりと椅子を鳴らして立ち上がり、飛びついてくるので、早梅は黒とキジトラと三毛、三匹の猫まみれになってしまった。
「昨日まで、あんなに嫌がってたじゃないですか……」
「嫌がってたわけじゃなくて……恥ずかしかったんです」
「……僕たちとするのが、嫌じゃなかった?」
「嫌なわけないですってば! みなさんが私をたいせつに想ってくださっていることは、よく知っているつもりですし……乱暴するわけないって、わかってますから」
恥ずかしさで発火してしまうくらいに顔が熱いけれど、この際だ、すべて白状してしまえ。
「すくなくとも、みなさんはどっかのロリコンくそやろうとちがって、遥かに魅力的な男性だと思います。だから、嫌では、ないです。私がその、恥ずかしかっただけですから……」
語尾はごにょごにょ……と消え入ってしまい、なんならこのまま消えてしまいたい早梅であった。
「よし、抱こう」
「これは抱かずにはいられませんね」
「ぜってぇ孕ます」
「ふぇっ!?」
なにやら不穏な会話が聞こえてきたのだが。
「あのあのっ……さ、三人同時に、ですか……?」
「逆にきくけど、俺たちのだれかをおあずけにして、そのあと無事でいられると思ってんの?」
「う……五音さま……」
「おや、私をご指名ですか? ふふ……あまり焦らされては、本気に、なってしまいますねぇ?」
「ひぇっ……」
「梅雪ちゃん、五音のやつ、こう見えて俺より性欲強いから」
「さぁ梅雪さま、寝台へおつれしましょうか」
「まってまってまって……!」
展開がはやい。いくらなんでもはやすぎる。
大混乱のさなか、五音にひょいと抱き上げられ、あっという間に寝台へ連行されてしまう。
「あぁ五音、梅雪さんをつぶさないように気をつけて」
「てか、なにしれっと抜け駆けしてんだよ。最初にだれを選ぶか決めんのは、梅雪ちゃんだろうが」
五音に組み敷かれた矢先、寝台には一心が腰かけ、六夜もひざを乗り上げてくる。
正気なのか。ほんとうにこれから、この三人の男たちを相手にしなければならないのか。
「梅雪さん。お嫌なら、僕たちの『字名』を呼んで、拒否してください。猫族の男は本能的に、つがいの命令にしたがってしまうのです」
完全に逃げ道をふさいでおいて、選択肢はあると、期待させるのか。
「……ずるいです」
ほんとうに、意地悪な猫たちだ。
「『玲音』さま」
「はい、私の愛しいひと」
五音が応え、するりと、指先をからませる。
「『天夜』さま」
「ん。梅雪ちゃんの言うとおりにするよ」
六夜がはにかみ、ちゅ、と唇でほほをくすぐる。
「『和心』さま」
「えぇ……僕はここに」
一心が吐息をもらし、掬いとった翡翠の髪に口づける。
「…………やさしく、してください」
たっぷりの間をへて、やっとの思いで口にすれば、一拍を置いて、猫たちが満面の笑みをほころばせた。
「お姫さまの、おおせのままに」
「梅雪ちゃん!」
「梅雪さま、ご無事ですか!」
すぐに六夜と五音が声をあげ、飛びつくように駆け寄ってくる。
突然の早梅の行動を責めるでもなく、むしろ火傷などしていないかと、案じてくれているほどだ。
「一心さま……私はいま、とても怒っています。一心さまのおっしゃることが、全然理解できないからです。まったく、これっぽっちも」
空になった茶杯を、ひっくり返したそのままに、卓へ叩きつける。
丸みをおびた琥珀の瞳が、そのさまを見つめていた。
「物を買うにしてもそう。なにかを得るために、なにかをさしだすのは、当たり前のことでしょう。それも一心さまが言っている『猫族の秘密』は、お金では買えない、猫族にとってたいせつなことなんですよね。お金の価値がつけられないなら、こころをさしだす。それって、対価としてまっとうなものだと思うんです」
「……まっとうな、もの?」
「そうです。それなのに一心さまときたら、まるでじぶんを悪人みたいに仕立てあげて、私に私自身を犠牲にしろって言うんです。みなさんに私をさしだすことは、私にとって損失なんですか? 『だいじなことを教えてくれてありがとう』って、感謝の気持ちでいちゃいけないんですか?」
とたん、息をのむ気配がある。
一心のみならない。六夜に、五音もだ。
「私が嫌がる前提で話を進めないでください! 私の気持ちを勝手に決めつけないでください! だから怒ってるんです、私は! ってゆーか、そもそも私が好き放題される前提なのも納得できません! 私だって女の色気でみなさんを骨抜きにしてやれるんですから、舐めないでくださいっ!」
きゃあきゃあとまくした立てたあとは、痛いくらいの静けさがおとずれる。
感情的になってしまい、最後のほうは突拍子もないことまで口走ってしまった気もするが、まぁいい。言いたいことはぜんぶ言ってやった。
「ぷっ……あははははっ!」
どっと笑い声をあげたのは、六夜だ。
「いやもう、なんていうか、梅雪ちゃんらしいっていうか。どこまで惚れさせれば気がすむんだか」
「ほんとうにね。ふふ、これは反則ですよ、梅雪さま」
「んっ?」
六夜だけでなく、五音も小刻みに肩をふるわせている。
「見事に一本とられましたねぇ、一心さま?」
六夜に名指しされた一心が、卓にひじをつき、頭をかかえている。
「もう……君ってひとは……っ!」
「わぁっ!」
かと思えば、がたりと椅子を鳴らして立ち上がり、飛びついてくるので、早梅は黒とキジトラと三毛、三匹の猫まみれになってしまった。
「昨日まで、あんなに嫌がってたじゃないですか……」
「嫌がってたわけじゃなくて……恥ずかしかったんです」
「……僕たちとするのが、嫌じゃなかった?」
「嫌なわけないですってば! みなさんが私をたいせつに想ってくださっていることは、よく知っているつもりですし……乱暴するわけないって、わかってますから」
恥ずかしさで発火してしまうくらいに顔が熱いけれど、この際だ、すべて白状してしまえ。
「すくなくとも、みなさんはどっかのロリコンくそやろうとちがって、遥かに魅力的な男性だと思います。だから、嫌では、ないです。私がその、恥ずかしかっただけですから……」
語尾はごにょごにょ……と消え入ってしまい、なんならこのまま消えてしまいたい早梅であった。
「よし、抱こう」
「これは抱かずにはいられませんね」
「ぜってぇ孕ます」
「ふぇっ!?」
なにやら不穏な会話が聞こえてきたのだが。
「あのあのっ……さ、三人同時に、ですか……?」
「逆にきくけど、俺たちのだれかをおあずけにして、そのあと無事でいられると思ってんの?」
「う……五音さま……」
「おや、私をご指名ですか? ふふ……あまり焦らされては、本気に、なってしまいますねぇ?」
「ひぇっ……」
「梅雪ちゃん、五音のやつ、こう見えて俺より性欲強いから」
「さぁ梅雪さま、寝台へおつれしましょうか」
「まってまってまって……!」
展開がはやい。いくらなんでもはやすぎる。
大混乱のさなか、五音にひょいと抱き上げられ、あっという間に寝台へ連行されてしまう。
「あぁ五音、梅雪さんをつぶさないように気をつけて」
「てか、なにしれっと抜け駆けしてんだよ。最初にだれを選ぶか決めんのは、梅雪ちゃんだろうが」
五音に組み敷かれた矢先、寝台には一心が腰かけ、六夜もひざを乗り上げてくる。
正気なのか。ほんとうにこれから、この三人の男たちを相手にしなければならないのか。
「梅雪さん。お嫌なら、僕たちの『字名』を呼んで、拒否してください。猫族の男は本能的に、つがいの命令にしたがってしまうのです」
完全に逃げ道をふさいでおいて、選択肢はあると、期待させるのか。
「……ずるいです」
ほんとうに、意地悪な猫たちだ。
「『玲音』さま」
「はい、私の愛しいひと」
五音が応え、するりと、指先をからませる。
「『天夜』さま」
「ん。梅雪ちゃんの言うとおりにするよ」
六夜がはにかみ、ちゅ、と唇でほほをくすぐる。
「『和心』さま」
「えぇ……僕はここに」
一心が吐息をもらし、掬いとった翡翠の髪に口づける。
「…………やさしく、してください」
たっぷりの間をへて、やっとの思いで口にすれば、一拍を置いて、猫たちが満面の笑みをほころばせた。
「お姫さまの、おおせのままに」
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