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第三章『焔魔仙教編』
第百七十一話 偏愛の烙印【後】
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「じゃあ遠慮なく、甘えちゃおうっと」
「ゆうえ……」
本能的に『まずい』予感がして逃げ腰になるも、手遅れだった。
「えっと、近……んっ!」
はむ、と唇を食まれる。
「……ふふ、やわらかいね……ん」
一瞬のことで呆気にとられている合間にも、一度顔をはなし、笑みを深めた憂炎が、ふたたび顔の距離を詰めてきて。
「……んんぅっ」
かぷ、と、こんどはそっと噛みつかれる。
するどい牙の先で、やわやわと甘噛みをされるいまの状況は、いったい。
「っは……くちあけて、おねえちゃん」
「ふぁ……く、ち……?」
「した、いれたい」
した……舌? 入れてどうするのだろうか。よくわからない。
でも憂炎が、可愛い憂炎がねだっているから、聞いてあげないわけにもいかなくて。
ぼんやりと熱に浮かされた早梅が、うっすらと唇にすきまをあけるのを、憂炎はひどく楽しげにながめていた。
「──んむっ!?」
ぬるり、と口内に押し入った熱いものが、たちまちに呼吸を奪う。
これは口づけだ。じゃれあいのスキンシップではなく、恋人にするような。
ようやく理解するにいたり、脳内の霧が吹き飛ぶように理性を取りもどす早梅だけれども、それもつかの間のことだった。
「っ……ゆうえっ、まっ……!」
「ふふ、きもちいいねぇ、きもちいいでしょ? はっ……」
煮つめた砂糖のごとく声音を蕩けさせた憂炎が、唇に噛みつき、舌を絡め、唾液をかき混ぜる。
同時にぐ、ぐ、とのどを指圧されるせいで、口内にあふれるものを、反射的に飲み下してしまう。
そのたびに、するりと腹に落ちたものが、じんともどかしい熱をともす。
くちゅり、くちゅりとひびく水音が、鼓膜に張りついてはなれない。
(からだが、あつい……あたまが、おかしくなりそうだ……)
憂炎の胸を押し返そうとした両手は、力が抜けきり、だらんと垂れる。
もはや足もともおぼつかない。よろめいた早梅が壁づたいにずるずるとくずれ落ちると、憂炎も後を追うように口づけを続けながら、ひざをつき。
「瞳がとろっとろ……かわいいね、おねえちゃん」
糸を引く唾液を舐めとると、早梅の帯をわずかにゆるめる。
「……あまいにおいがする。たまらない」
そしてくつろいだ衿もとからのぞく白い肌へ、かぶりついた。
「ひゃあんっ!?」
ずぷり、と左肩に食い込む牙の感触。
いたい、痛いはずだ。だけど、それなのに、脳が障害を起こしたように痛みをほとんど感じない。
それよりも遥かに熾烈な感覚が、熱の奔流となって皮下から沸き上がる。
「だ……めだ憂炎、これは、だめ、だめ……」
なけなしの理性をかき集めて抗うも、くすくす、と笑い声がきこえるだけで。
──ぢゅうっ!
「あっ、あ……あぁあんッ!!」
刺傷部を強く吸われた刹那、視界がばちりと白くはじけ、早梅はかん高い悲鳴をあげた。
腕のなかでびくびくとおののく華奢な肢体をきつく抱きしめた憂炎は、緩慢な仕草で乙女の柔肌から牙を抜くと、とろりとあふれる血液をちゅうっと啜った。
「んっ……あまい……あなたのからだは、どこもあまいね……」
ぺろり、ぺろり。肩の傷口を舐められながら、早梅はなおも、は、は……と浅い呼吸がおさまらない。
いったい、なにが起きたのか。
呆然と脱力する早梅のからだを、しなやかな腕が抱き込む。
「左肩──前にも噛んだでしょ? 狼族の雄はね、番に噛みつくの。噛みついて、その血の味とにおいを絶対に忘れない。どこにいても見つけだす。だからあなたは俺の番。生涯にたったひとりの伴侶」
「あっ……」
くすぐるように傷口へ口づけていた唇が、こんどは耳朶によせられ、吐息を吹き込む。
「あぁ……それと、噛みつく場合はもうひとつ。交尾のときね。雄の唾液は、番には媚薬の効果があるから……噛みついただけで、イッちゃったでしょ?」
「あ、んんっ……」
「っはは、厭らしい顔……ここを俺でいっぱいにしたら、どうなっちゃうんだろうね?」
あつい……押しつけられたからだが、熱い。
円を描くように、ずんと熱をおびる下腹部をひとなでされ、ぴくんぴくんとからだが反応する
軽くふれるだけの口づけが落とされ、ろくに力が入らないからだを、抱き上げられた。
「だいじょうぶ……焦らないから、これからじっくり、俺のものだってからだにわからせてあげるからね……梅姐姐?」
陽の落ちゆく薄闇のなか、紅蓮の双眸だけが、煌々と燃えさかっていた。
「ゆうえ……」
本能的に『まずい』予感がして逃げ腰になるも、手遅れだった。
「えっと、近……んっ!」
はむ、と唇を食まれる。
「……ふふ、やわらかいね……ん」
一瞬のことで呆気にとられている合間にも、一度顔をはなし、笑みを深めた憂炎が、ふたたび顔の距離を詰めてきて。
「……んんぅっ」
かぷ、と、こんどはそっと噛みつかれる。
するどい牙の先で、やわやわと甘噛みをされるいまの状況は、いったい。
「っは……くちあけて、おねえちゃん」
「ふぁ……く、ち……?」
「した、いれたい」
した……舌? 入れてどうするのだろうか。よくわからない。
でも憂炎が、可愛い憂炎がねだっているから、聞いてあげないわけにもいかなくて。
ぼんやりと熱に浮かされた早梅が、うっすらと唇にすきまをあけるのを、憂炎はひどく楽しげにながめていた。
「──んむっ!?」
ぬるり、と口内に押し入った熱いものが、たちまちに呼吸を奪う。
これは口づけだ。じゃれあいのスキンシップではなく、恋人にするような。
ようやく理解するにいたり、脳内の霧が吹き飛ぶように理性を取りもどす早梅だけれども、それもつかの間のことだった。
「っ……ゆうえっ、まっ……!」
「ふふ、きもちいいねぇ、きもちいいでしょ? はっ……」
煮つめた砂糖のごとく声音を蕩けさせた憂炎が、唇に噛みつき、舌を絡め、唾液をかき混ぜる。
同時にぐ、ぐ、とのどを指圧されるせいで、口内にあふれるものを、反射的に飲み下してしまう。
そのたびに、するりと腹に落ちたものが、じんともどかしい熱をともす。
くちゅり、くちゅりとひびく水音が、鼓膜に張りついてはなれない。
(からだが、あつい……あたまが、おかしくなりそうだ……)
憂炎の胸を押し返そうとした両手は、力が抜けきり、だらんと垂れる。
もはや足もともおぼつかない。よろめいた早梅が壁づたいにずるずるとくずれ落ちると、憂炎も後を追うように口づけを続けながら、ひざをつき。
「瞳がとろっとろ……かわいいね、おねえちゃん」
糸を引く唾液を舐めとると、早梅の帯をわずかにゆるめる。
「……あまいにおいがする。たまらない」
そしてくつろいだ衿もとからのぞく白い肌へ、かぶりついた。
「ひゃあんっ!?」
ずぷり、と左肩に食い込む牙の感触。
いたい、痛いはずだ。だけど、それなのに、脳が障害を起こしたように痛みをほとんど感じない。
それよりも遥かに熾烈な感覚が、熱の奔流となって皮下から沸き上がる。
「だ……めだ憂炎、これは、だめ、だめ……」
なけなしの理性をかき集めて抗うも、くすくす、と笑い声がきこえるだけで。
──ぢゅうっ!
「あっ、あ……あぁあんッ!!」
刺傷部を強く吸われた刹那、視界がばちりと白くはじけ、早梅はかん高い悲鳴をあげた。
腕のなかでびくびくとおののく華奢な肢体をきつく抱きしめた憂炎は、緩慢な仕草で乙女の柔肌から牙を抜くと、とろりとあふれる血液をちゅうっと啜った。
「んっ……あまい……あなたのからだは、どこもあまいね……」
ぺろり、ぺろり。肩の傷口を舐められながら、早梅はなおも、は、は……と浅い呼吸がおさまらない。
いったい、なにが起きたのか。
呆然と脱力する早梅のからだを、しなやかな腕が抱き込む。
「左肩──前にも噛んだでしょ? 狼族の雄はね、番に噛みつくの。噛みついて、その血の味とにおいを絶対に忘れない。どこにいても見つけだす。だからあなたは俺の番。生涯にたったひとりの伴侶」
「あっ……」
くすぐるように傷口へ口づけていた唇が、こんどは耳朶によせられ、吐息を吹き込む。
「あぁ……それと、噛みつく場合はもうひとつ。交尾のときね。雄の唾液は、番には媚薬の効果があるから……噛みついただけで、イッちゃったでしょ?」
「あ、んんっ……」
「っはは、厭らしい顔……ここを俺でいっぱいにしたら、どうなっちゃうんだろうね?」
あつい……押しつけられたからだが、熱い。
円を描くように、ずんと熱をおびる下腹部をひとなでされ、ぴくんぴくんとからだが反応する
軽くふれるだけの口づけが落とされ、ろくに力が入らないからだを、抱き上げられた。
「だいじょうぶ……焦らないから、これからじっくり、俺のものだってからだにわからせてあげるからね……梅姐姐?」
陽の落ちゆく薄闇のなか、紅蓮の双眸だけが、煌々と燃えさかっていた。
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