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第二章『瑞花繚乱編』

第八十話 孤独な太陽【中】

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梅雪メイシェさまにふれるのは、とても心地いいのです。それだけで、あなたは僕にとって特別な存在だといえます」
「うれしい話だけれど、いきなり結婚はびっくりするかな?」
「それはそうですがっ……でもっ」
「でも?」
「寝ぼけていたとはいえ、氷功ひょうこうを……梅雪さまの気をいただき、僕の陽功ようこうをおわたししましたから。この気交きこうは男女のま……まぐわいにも等しく、男子として責任をとらせていただくのが筋かと!」
「あぁ、それで『寝込みをおそった』ね。そういえば、気の交換をすると、内功が高まるんだったか」

 これは仮説だが、もしかすれば黒慧ヘイフゥイの陽功は、憂炎ユーエン炎功えんこうと似た性質をもつのではないだろうか。
 早梅はやめの氷功とは相反するもの。相剋そうこくの関係。

 早梅の『氷』が、疲労とともに蓄積した黒慧の熱を鎮めた。
 黒慧の『陽』が、早梅を悩ませていた寒さをふき飛ばした。
 打ち消そうと作用した力が、たがいの体内で乱れる気をととのえたのだ。

「ありがとう。君のおかげで調子がいいよ」
「僕は、お礼をいわれるようなことは」
「してる。そもそも、へやに招き入れたのは私なんだからね? 責任とか小難しいことは、気にしないでくれ。ね、黒慧?」
「それは……僕とはつがいになってくださらない、ということですか?」

 自分を責めるのはやめてほしい、という早梅の言い分を、黒慧は理解していた。
 だから黒慧が消沈しているのは、もう早梅への罪悪感にさいなまれているためではなく。
『早梅に拒絶された』と、受け取ってしまったため。

(そう来るか。困ったなぁ……)

 黒慧との会話は、どう転ぶのかがまったく予想できない。まるで、幼いこどもでも相手にしているようだ。

 そう、黒慧はこどもなんだろう。さびしいのが嫌、だから早梅を引きとめたくて、そのための手段が『結婚』だと思い込んでいる。
 恋に恋するお年ごろだろうと、軽くあしらうのも違う気がする。となれば。

「こっちに来てくれる? 黒慧」

 なにを言われたのかと、しばし呆けていた黒慧だが、はじかれたように腰を浮かせる。
 すぐさま、ほほ笑みを浮かべた早梅に差しのべられた手を取った。

 黒慧の手は、たしかに熱かった。熱湯の入った陶器の茶杯にふれているようだ。
 ともすれば、ひりひりと痛みすら感じる熱だが、ふれられないほどではない。

「私たちは出会ったばかりで、おたがいのことをよく知らないだろう? だから、君のことを教えて? お友だちになろうよ」

 そう焦らなくても、逃げたりしないよと。
 おどける早梅を映した黄金の瞳が、ゆらいだ。

「梅雪さま……」
「うん?」
「オトモダチって、なんですか?」

 僕わかりません、おしえてください、と。
 上目遣う黒慧の表情は、純粋無垢なものだった。

「……うんん??」

 まさかとは思うがこの少年、『お友だち』を知らないのか。『番』の意味を知っていて、なぜそこの情報だけがピンポイントでぬけているのか。

(あぁ……この子、黒皇ヘイファンの弟なんだった)

 だがそれを思いだしただけで、猛烈に納得できるという不思議。

 根は真面目なのに、どこかぬけている。
 なるほど、まごうことなき兄弟だ。

「失礼いたします。おはようございます、梅雪お嬢さま。窓があいたままですが、おからだを冷やしたりなどは……」

 うわさをすれば、なんとやら。
 声がもれ聞こえたのだろう。早梅が起きていると確信した口調で、聞き慣れた低音がひびいた。
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