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第二章『瑞花繚乱編』
第七十九話 孤独な太陽【前】
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火照ったほほに、氷をあてられているようだ。
冷たい、きもちいい。
過剰に熱をもったからだの燻りが、鎮まってゆく。
「……もっと……」
みずからの寝言で、黒慧は目を覚ました。
しばらく夢見心地のまま宙を見つめていた黄金の瞳が、にわかに焦点をむすぶ。
間近に、少女がいた。仰向けで、規則的に胸を上下させている。
その吸いつくような白いほほに、黒慧は自身のほほをすり寄せていたことに気づいた。
とたん、なぐられたように覚醒をする。
「なっ、なっ……うわあああっ!!」
絶叫。手足がもつれ、寝台から転げ落ちる黒慧。
これぞまさに、青天の霹靂。
* * *
いつも肌寒かったのに、その朝は、身を炙るような熱の余韻があった。
「んー! よく寝たぁ……んっ?」
この上なく清々しい目覚め。
起き上がって思いきりのびをした早梅は、寝台の下にうずくまる黒い物体に気がついた。
「……たいへん申しわけありませんでした」
頭のてっぺんからつま先まで黒い身なりの少年が、なぜか土下座をくりだしてきたのだが。
「婦女の寝室に踏み入った挙句、寝込みをおそうとは……申しひらきのしようがございません」
「へっ、おそう?」
「むろん、責任はとらせていただく所存にて」
「責任? え?」
「僕と結婚してください、お優しくお美しい方!」
「んぇえええっ!?」
待ってほしい、落ち着いて状況の整理をしよう。
(いまにも倒れそうな黒慧を見かけたから、これは休ませなきゃと思って……)
それで、疲れてふらふらな烏を寝かしつけたら、結婚を申し込まれるという。急展開にもほどがある。
「ほんのちょっと仮眠をとるだけのつもりだったんです。でもここに来たら気分がふわふわして、冷たくてきもちよくて、やわらかくていい香りがして……うあああ!」
ちょっとどころか朝までがっつり眠り、素面にもどったらしい黒慧は、すばらしく悶絶していた。
というのも、烏の姿で室の隅に身を寄せるつもりだったのに、起きたら寝台で早梅にくっついていた自分が、信じられないらしい。
「肩こりよりもタチの悪い僕の疲労をふき飛ばすなんて、意味がわからない! あなたは女神さまですか! 太陽よりも輝いていらっしゃる!」
「ありがとう?」
しまいには逆ギレしながら褒めちぎるという、器用なことをやってのけた。
(この子、黒皇の弟なんだよね? 表情豊かだなぁ)
現代でいう高校生くらいの外見で、おとなびた物言いをするなぁと思いきや、年相応(?)な一面もある。
早梅としては、青くなったり赤くなったりをくり返す情緒のせわしなさがほほ笑ましく、心配でもあるが。
「元気になってよかったよ。結婚は遠慮させてもらうね」
「なぜですか、僕ではご不満なのですか」
「わわっ!」
食い気味に詰め寄られた。
まさかの反応に気圧されてしまった早梅は、当たり障りない言葉をさがす。
「や、君には私より、もっといいひとがいるだろうから」
「いません」
断言されてしまった。
「そんなの、いません。……僕がふれられるひとなんて、いないんです」
わずかに伏せられた黄金の瞳は、哀愁の色をおびている。
笑って受け流していい話題では、ないか。
「君は『さわると火傷をする』って言ってたけど……どうしてか訊いても?」
「僕の陽功は、ふれたものをすべて燃やしつくしてしまうんです。なのに、あなたは燃えなかった」
とつとつと語っていた黒慧が、背すじをのばし、早梅をあおぐ。
冷たい、きもちいい。
過剰に熱をもったからだの燻りが、鎮まってゆく。
「……もっと……」
みずからの寝言で、黒慧は目を覚ました。
しばらく夢見心地のまま宙を見つめていた黄金の瞳が、にわかに焦点をむすぶ。
間近に、少女がいた。仰向けで、規則的に胸を上下させている。
その吸いつくような白いほほに、黒慧は自身のほほをすり寄せていたことに気づいた。
とたん、なぐられたように覚醒をする。
「なっ、なっ……うわあああっ!!」
絶叫。手足がもつれ、寝台から転げ落ちる黒慧。
これぞまさに、青天の霹靂。
* * *
いつも肌寒かったのに、その朝は、身を炙るような熱の余韻があった。
「んー! よく寝たぁ……んっ?」
この上なく清々しい目覚め。
起き上がって思いきりのびをした早梅は、寝台の下にうずくまる黒い物体に気がついた。
「……たいへん申しわけありませんでした」
頭のてっぺんからつま先まで黒い身なりの少年が、なぜか土下座をくりだしてきたのだが。
「婦女の寝室に踏み入った挙句、寝込みをおそうとは……申しひらきのしようがございません」
「へっ、おそう?」
「むろん、責任はとらせていただく所存にて」
「責任? え?」
「僕と結婚してください、お優しくお美しい方!」
「んぇえええっ!?」
待ってほしい、落ち着いて状況の整理をしよう。
(いまにも倒れそうな黒慧を見かけたから、これは休ませなきゃと思って……)
それで、疲れてふらふらな烏を寝かしつけたら、結婚を申し込まれるという。急展開にもほどがある。
「ほんのちょっと仮眠をとるだけのつもりだったんです。でもここに来たら気分がふわふわして、冷たくてきもちよくて、やわらかくていい香りがして……うあああ!」
ちょっとどころか朝までがっつり眠り、素面にもどったらしい黒慧は、すばらしく悶絶していた。
というのも、烏の姿で室の隅に身を寄せるつもりだったのに、起きたら寝台で早梅にくっついていた自分が、信じられないらしい。
「肩こりよりもタチの悪い僕の疲労をふき飛ばすなんて、意味がわからない! あなたは女神さまですか! 太陽よりも輝いていらっしゃる!」
「ありがとう?」
しまいには逆ギレしながら褒めちぎるという、器用なことをやってのけた。
(この子、黒皇の弟なんだよね? 表情豊かだなぁ)
現代でいう高校生くらいの外見で、おとなびた物言いをするなぁと思いきや、年相応(?)な一面もある。
早梅としては、青くなったり赤くなったりをくり返す情緒のせわしなさがほほ笑ましく、心配でもあるが。
「元気になってよかったよ。結婚は遠慮させてもらうね」
「なぜですか、僕ではご不満なのですか」
「わわっ!」
食い気味に詰め寄られた。
まさかの反応に気圧されてしまった早梅は、当たり障りない言葉をさがす。
「や、君には私より、もっといいひとがいるだろうから」
「いません」
断言されてしまった。
「そんなの、いません。……僕がふれられるひとなんて、いないんです」
わずかに伏せられた黄金の瞳は、哀愁の色をおびている。
笑って受け流していい話題では、ないか。
「君は『さわると火傷をする』って言ってたけど……どうしてか訊いても?」
「僕の陽功は、ふれたものをすべて燃やしつくしてしまうんです。なのに、あなたは燃えなかった」
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