83 / 264
第二章『瑞花繚乱編』
第七十九話 孤独な太陽【前】
しおりを挟む
火照ったほほに、氷をあてられているようだ。
冷たい、きもちいい。
過剰に熱をもったからだの燻りが、鎮まってゆく。
「……もっと……」
みずからの寝言で、黒慧は目を覚ました。
しばらく夢見心地のまま宙を見つめていた黄金の瞳が、にわかに焦点をむすぶ。
間近に、少女がいた。仰向けで、規則的に胸を上下させている。
その吸いつくような白いほほに、黒慧は自身のほほをすり寄せていたことに気づいた。
とたん、なぐられたように覚醒をする。
「なっ、なっ……うわあああっ!!」
絶叫。手足がもつれ、寝台から転げ落ちる黒慧。
これぞまさに、青天の霹靂。
* * *
いつも肌寒かったのに、その朝は、身を炙るような熱の余韻があった。
「んー! よく寝たぁ……んっ?」
この上なく清々しい目覚め。
起き上がって思いきりのびをした早梅は、寝台の下にうずくまる黒い物体に気がついた。
「……たいへん申しわけありませんでした」
頭のてっぺんからつま先まで黒い身なりの少年が、なぜか土下座をくりだしてきたのだが。
「婦女の寝室に踏み入った挙句、寝込みをおそうとは……申しひらきのしようがございません」
「へっ、おそう?」
「むろん、責任はとらせていただく所存にて」
「責任? え?」
「僕と結婚してください、お優しくお美しい方!」
「んぇえええっ!?」
待ってほしい、落ち着いて状況の整理をしよう。
(いまにも倒れそうな黒慧を見かけたから、これは休ませなきゃと思って……)
それで、疲れてふらふらな烏を寝かしつけたら、結婚を申し込まれるという。急展開にもほどがある。
「ほんのちょっと仮眠をとるだけのつもりだったんです。でもここに来たら気分がふわふわして、冷たくてきもちよくて、やわらかくていい香りがして……うあああ!」
ちょっとどころか朝までがっつり眠り、素面にもどったらしい黒慧は、すばらしく悶絶していた。
というのも、烏の姿で室の隅に身を寄せるつもりだったのに、起きたら寝台で早梅にくっついていた自分が、信じられないらしい。
「肩こりよりもタチの悪い僕の疲労をふき飛ばすなんて、意味がわからない! あなたは女神さまですか! 太陽よりも輝いていらっしゃる!」
「ありがとう?」
しまいには逆ギレしながら褒めちぎるという、器用なことをやってのけた。
(この子、黒皇の弟なんだよね? 表情豊かだなぁ)
現代でいう高校生くらいの外見で、おとなびた物言いをするなぁと思いきや、年相応(?)な一面もある。
早梅としては、青くなったり赤くなったりをくり返す情緒のせわしなさがほほ笑ましく、心配でもあるが。
「元気になってよかったよ。結婚は遠慮させてもらうね」
「なぜですか、僕ではご不満なのですか」
「わわっ!」
食い気味に詰め寄られた。
まさかの反応に気圧されてしまった早梅は、当たり障りない言葉をさがす。
「や、君には私より、もっといいひとがいるだろうから」
「いません」
断言されてしまった。
「そんなの、いません。……僕がふれられるひとなんて、いないんです」
わずかに伏せられた黄金の瞳は、哀愁の色をおびている。
笑って受け流していい話題では、ないか。
「君は『さわると火傷をする』って言ってたけど……どうしてか訊いても?」
「僕の陽功は、ふれたものをすべて燃やしつくしてしまうんです。なのに、あなたは燃えなかった」
とつとつと語っていた黒慧が、背すじをのばし、早梅をあおぐ。
冷たい、きもちいい。
過剰に熱をもったからだの燻りが、鎮まってゆく。
「……もっと……」
みずからの寝言で、黒慧は目を覚ました。
しばらく夢見心地のまま宙を見つめていた黄金の瞳が、にわかに焦点をむすぶ。
間近に、少女がいた。仰向けで、規則的に胸を上下させている。
その吸いつくような白いほほに、黒慧は自身のほほをすり寄せていたことに気づいた。
とたん、なぐられたように覚醒をする。
「なっ、なっ……うわあああっ!!」
絶叫。手足がもつれ、寝台から転げ落ちる黒慧。
これぞまさに、青天の霹靂。
* * *
いつも肌寒かったのに、その朝は、身を炙るような熱の余韻があった。
「んー! よく寝たぁ……んっ?」
この上なく清々しい目覚め。
起き上がって思いきりのびをした早梅は、寝台の下にうずくまる黒い物体に気がついた。
「……たいへん申しわけありませんでした」
頭のてっぺんからつま先まで黒い身なりの少年が、なぜか土下座をくりだしてきたのだが。
「婦女の寝室に踏み入った挙句、寝込みをおそうとは……申しひらきのしようがございません」
「へっ、おそう?」
「むろん、責任はとらせていただく所存にて」
「責任? え?」
「僕と結婚してください、お優しくお美しい方!」
「んぇえええっ!?」
待ってほしい、落ち着いて状況の整理をしよう。
(いまにも倒れそうな黒慧を見かけたから、これは休ませなきゃと思って……)
それで、疲れてふらふらな烏を寝かしつけたら、結婚を申し込まれるという。急展開にもほどがある。
「ほんのちょっと仮眠をとるだけのつもりだったんです。でもここに来たら気分がふわふわして、冷たくてきもちよくて、やわらかくていい香りがして……うあああ!」
ちょっとどころか朝までがっつり眠り、素面にもどったらしい黒慧は、すばらしく悶絶していた。
というのも、烏の姿で室の隅に身を寄せるつもりだったのに、起きたら寝台で早梅にくっついていた自分が、信じられないらしい。
「肩こりよりもタチの悪い僕の疲労をふき飛ばすなんて、意味がわからない! あなたは女神さまですか! 太陽よりも輝いていらっしゃる!」
「ありがとう?」
しまいには逆ギレしながら褒めちぎるという、器用なことをやってのけた。
(この子、黒皇の弟なんだよね? 表情豊かだなぁ)
現代でいう高校生くらいの外見で、おとなびた物言いをするなぁと思いきや、年相応(?)な一面もある。
早梅としては、青くなったり赤くなったりをくり返す情緒のせわしなさがほほ笑ましく、心配でもあるが。
「元気になってよかったよ。結婚は遠慮させてもらうね」
「なぜですか、僕ではご不満なのですか」
「わわっ!」
食い気味に詰め寄られた。
まさかの反応に気圧されてしまった早梅は、当たり障りない言葉をさがす。
「や、君には私より、もっといいひとがいるだろうから」
「いません」
断言されてしまった。
「そんなの、いません。……僕がふれられるひとなんて、いないんです」
わずかに伏せられた黄金の瞳は、哀愁の色をおびている。
笑って受け流していい話題では、ないか。
「君は『さわると火傷をする』って言ってたけど……どうしてか訊いても?」
「僕の陽功は、ふれたものをすべて燃やしつくしてしまうんです。なのに、あなたは燃えなかった」
とつとつと語っていた黒慧が、背すじをのばし、早梅をあおぐ。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません
めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。
家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。
しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。
調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。
だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。
煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!?
///////////////////////////////
※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。
///////////////////////////////
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる