社則でモブ専ですが、束縛魔教主手懐けました〜悪役武侠女傑繚乱奇譚〜

はーこ

文字の大きさ
上 下
50 / 264
第一章『忍び寄る影編』

第四十六話 よみがえる記憶【前】

しおりを挟む
 名を呼ばれたような気がした。
 直後、ぷつり、となにかが切れるような感覚。
 はっと息を飲んだハヤメは、足をもつれさせてその場にくずれ落ちた。

梅姐姐メイおねえちゃんっ! だいじょうぶ!?」

 先を走っていた憂炎ユーエンがおどろき、駆け寄るも、見ひらかれた瑠璃るりの瞳はじわりとにじみ、血の気をうしなった唇がわなわなとふるえを訴える。

「あ……あぁ、あ……」

 突如おぼえた、喪失感のわけは。

紫月ズーユェ……そんな……いやぁ! 紫月っ、ずぅゆぇえええ!!」

 あぁ、そうか……と。
 泣きくずれるハヤメを前に、憂炎も悟った。
 命懸けで自分たちを逃がしてくれた彼は、もう戻らないのだ。

「……いこう」

 深谷しんこくの南門を飛びだして、ずいぶんと走った。
 どこまでも続く夜道を、いつまで走り続ければいいのかも、さっぱりわからない。
 それでも、立ち止まるわけにはいかないのだ。

紫哥哥ズーおにいちゃんのためにも、いかないと!」

 思いきり腕を引いて、ハヤメを立たせる。
 よろめいたからだを、すかさず支えた。

「憂炎っ……」

 胸もとほどの背丈しかない子が、自分の手を取って、寄り添ってくれている。
 ひたむきな憂炎のはげましは、最後の希望だった。

(そうだ……逃げて、生きのびなければ)

 死んでしまったら、紫月のために泣くこともできない。
 つらくて、かなしいけれど、歯を食いしばって顔を上げる。
 憂炎に支えられながら、おぼつかない足取りを一歩ずつ、ゆっくりでも進める。

 薄くふり積もった雪道。あたりは生い茂った木々にかこまれ、たのみの綱は月明かりだけ。
 そのわずかな道標さえも、悠然と立ちふさがった人影によってさえぎられてしまう。

「手こずらせてくれたな、ザオ梅雪メイシェ

 視界のみを確保した黒装束。
 紫月と斬り合っていた、主犯格の男だ。
 顔はわからずとも、その話し方、たたずまいから容易に推しはかれる。

「貴様のせいで、大勢の師弟おとうとたちが死んだ」
「そっちがさきに手をだしたんだろ! 梅姐姐のせいじゃない!」

 勇敢にも、憂炎が両手をひろげてハヤメをかばい立つ。
 やはり月白げっぱくの耳としっぽの毛は逆立っており、こどもとはいえ、その姿は牙をむきだして威嚇する狼そのものだ。
 敵意をあらわにした柘榴ざくろの瞳を受け、男の視線がハヤメからはずされた。

から命じられたのは、早梅雪の生け捕りのみ」
「憂炎!」

 夢中で叫んだのと、蒼炎そうえんが放たれたのは、ほぼ同時。

「頭が高いぞ」

 だが、はずした。

「犬は犬らしく、這いつくばっていればいいものを」

 そればかりか、一瞬にして距離をつめた男によって、首を締め上げられてしまったのだ。

「あッ……はッ……!」

 小柄な憂炎では、宙に浮いたからだをどうすることもできない。
 苦悶の表情でばたつかせた足が、地表をかすめるだけ。

「憂炎をはなせ」

 つと、男が視線を戻す。
 ハヤメはとっさに取りだした小刀を、おのれの首に当て、にらみ返した。

「なんの真似だ」
「おまえたちの目的は、私なんだろう」

 生け捕りというからには、死なれたら困る理由があるのだ。

「鬼ごっこで負けているのに、いまさら逃げようなんて思っちゃいないさ」

 むろん、冗談でもない。

 すこし力をかければ、刃がつぷりと首の表皮を裂き、ひとすじの血が流れだす。

 これは賭けだ。生と死の綱わたりだ。
 迷っている暇などない。
 選ぶのだ。最小限の犠牲ですむ道を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

転生からの魔法失敗で、1000年後に転移かつ獣人逆ハーレムは盛りすぎだと思います!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 異世界転生をするものの、物語の様に分かりやすい活躍もなく、のんびりとスローライフを楽しんでいた主人公・マレーゼ。しかしある日、転移魔法を失敗してしまい、見知らぬ土地へと飛ばされてしまう。  全く知らない土地に慌てる彼女だったが、そこはかつて転生後に生きていた時代から1000年も後の世界であり、さらには自身が生きていた頃の文明は既に滅んでいるということを知る。  そして、実は転移魔法だけではなく、1000年後の世界で『嫁』として召喚された事実が判明し、召喚した相手たちと婚姻関係を結ぶこととなる。  人懐っこく明るい蛇獣人に、かつての文明に入れ込む兎獣人、なかなか心を開いてくれない狐獣人、そして本物の狼のような狼獣人。この時代では『モテない』と言われているらしい四人組は、マレーゼからしたらとてつもない美形たちだった。  1000年前に戻れないことを諦めつつも、1000年後のこの時代で新たに生きることを決めるマレーゼ。  異世界転生&転移に巻き込まれたマレーゼが、1000年後の世界でスローライフを送ります! 【この作品は逆ハーレムものとなっております。最終的に一人に絞られるのではなく、四人同時に結ばれますのでご注意ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

処理中です...