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本編

*60* 突然意味がわからない

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 こがねの双眸が、極限まで見開かれる。

 刹那、目にも止まらぬ速さで腰の剣を抜き払った青年の残像を、揺らぐ視界で目の当たりにした。

「失礼いたします、レディー」

「わぁっ!? えっちょっ、ヴィオさん!?」

 何が起きたのかも理解しないうちに、きびすを返したヴィオさんに膝裏から抱き上げられていた。

 慌ててその首にしがみつけば、騎手を失ったトイ・ゴーレムが緑色の光を放ち、小さな積み木のパーツとなって、あたしの肩で「ンアー」とお口を開けたわらびに『ぱっくん』される。

「リアン、ネモ」

「はーい、ヴァイオレットお姉様」

「お任せください。ボサッとしてないで行きますよ、ジュリ様!」

「んぐっ……襟つかまないで……なんかネモ、オレの扱いひどくない!?」

 ヴィオさんに呼ばれ、心得たとばかりに返事をするリアンさん。呆けたジュリの首根っこをつかんで引きずるネモちゃん。

 何がどうしたっていうんだろう。颯爽と駆け出したヴィオさんの腕の中で、困惑するほかない。

「ヴィオさんあのっ……!」

「この場を離れます。巻き込まれますので」

「なんかすごく嫌な予感がするんですけど!?」

 ヴィオさんにしがみつきながら忙しなく辺りを見渡して、遠ざかる景色の向こうに濡れ羽色を見つけ出したはいいものの。

「ゼ──っひ!」

 名前すら呼ばせてもらえなかった。ギラリと何かが鈍く光ったかと思えば、風を切る音が目前まで迫っていたから。

「はぁッ!」

 あたしの前へ躍り出るネモちゃん。振り下ろされた大剣が、キンッと何かを弾き飛ばした。

「ちょっとー! なんなのこれ! 意味わかんないんだけどー!?」

「いつものことでーす、『ウインド・エッジ』」

「説明になってないからー! 『ホーリー・ランス』!」

 風が巻き起こり、閃光が走る。
 わちゃわちゃと言い合うかたわら、風の刃と光の槍を放ってリアンさんとジュリが防いでいたのは、矢。

 そう、ヴィオさんによって連れ出されたかと思えば、優雅な薔薇園が何故か無数の矢の飛び交うとんでもねぇ場所に早変わりしていたのだ。

 激しく意味がわかりません。

「やばない? これ冗談抜きでやばない? タユヤさんってやばい人なの!? あたしの身体を労ってくれたあれは幻覚!?」

「タユヤ様ご本人です。とにかく、あのドールのことは捨て置きましょう」

「なんでぇ!?」

「洗礼だから、です。さぁセリ様、あまりお声を張られてはいけませんよ。お身体に障ります」

 ぐぅ……上手いこと話を逸らしたつもりだな……!

 とはいえ身重なのは事実だ。ヴィオさんに抱かれたまま、大人しくするしかない。

 やがて矢の襲撃は止み、静寂が訪れる。

 ジュリを呼んだヴィオさんがあたしを託すと、この先の安全な場所へ隠れるよう指示した。
 リアンさんに案内され、複雑に入り組んだ薔薇の垣根の影へ身を寄せる。

 大剣を構えるネモちゃん。すぐに腰の片手剣を抜き払ったヴィオさんが肩を並べる。
 そんなふたりの背を、ジュリの腕の中でじっと見守るばかり。

「……ゼノ……」

 遠く離れた彼のことが、気がかりでならなかった。
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