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本編
*49* 星を抱く月
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「……つい先ほどまでは、どうやってもふれることができなかった」
あたしはただ、振り仰いだ彼の独白を呆然と目の当たりにすることしかできなくて。
「それなのに……今は両手からこぼれそうなほどの星の光が、まぶしくて、堪らないんです」
影が揺らいで、つぶやきが震える。
「これは、セリ様……? それとも、ジュリ様の感情ですか……?」
頬に手を添えられ、目じりを親指の腹でなぞられて、自分が泣いていたことを自覚する。
はたと呼吸を止めたジュリも、同じようだった。
あたしたちの涙を拭ったゼノもまた、こがねの瞳からふたすじの雫を伝わせていた。
「……泣いてほしくないはずなのに、まったく嫌な気持ちじゃない……それどころか、胸が熱くなって、ずっとこのままでいたいとさえ思える……やはり私は、がらくたなんでしょうか」
あたしが泣いて、ジュリも泣いて。
共鳴したあたしたちの心の境目が溶けてしまって、ゼノもわけがわかんなくなっちゃったんだろう。
あまり多くを語らないゼノが堰を切ったように心情を吐露して、それでまた泣けてきちゃうんだから、あたしってやつは。
「嬉しくても、涙が出るんだよ」
「嬉しくても……? 私は、嬉しいと、感じているのですか……?」
「そうだよ、器用なもんでしょ」
右手を伸ばして、ぽろぽろと雫を伝わせる頬に指先でふれる。
「泣きながら笑うなんて器用な芸当ができるのは、人間だけだよ。ゼノは、がらくたなんかじゃないよ」
心臓を持たなくても、そこには心があって、あたしたちと同じように泣いたり笑ったりする。
血の繋がりとかなくたって、別にいいんだよ。
一緒に過ごした日々さえあれば、それで充分じゃない。
「ゼノも、あたしたちの家族だよ」
「──っ」
お兄ちゃん? いや、しっかりしてるように見えて意外と天然で甘えただから、弟かな。やきもち妬きで、子供みたいなところもあるし。
「ゼノも……ずっと一緒にいてね。どっかいっちゃやだからね」
「……はい……」
大きな手のひらに右の手のひらを包み込まれて、繰り返し頬をすり寄せられる。
「私はどこにも行きません……ずっとずっと、一緒です」
ぽろぽろと、相変わらずとめどない涙があふれていたけど、紡がれた声音は凪いでいる。
あたしを捉えたこがねの双眸は、晴れやかに笑みをたたえていた。
虹が架かったかのようなその美しさに、思わず呼吸も忘れて見惚れてしまう。
微笑んだゼノは、本当に心臓に悪い。
その顔の良さで、世界だって救えるんじゃないだろうかとか、どうでもいいことを考えた。
「私が……お守りします」
噛みしめるようにつぶやいたゼノは、いっそうの力を込めて腕を回してくる。
しなやかな腕で、ジュリもろともあたしを抱き込んで。
極限まで丸みを帯びるオニキスの瞳。ゼノの胸に顔を埋めたジュリの肩は、小刻みに震えていた。
「この輝きは、誰にも翳らせません」
囁くように誓う青年の面影に、子を想う父のようなたくましさを覚えながら、肩にもたれて体重を預ける。
まぶたを閉じても、脳裏に焼きついたこがねの煌めきが、まぶしくて仕方なかった。
あたしはただ、振り仰いだ彼の独白を呆然と目の当たりにすることしかできなくて。
「それなのに……今は両手からこぼれそうなほどの星の光が、まぶしくて、堪らないんです」
影が揺らいで、つぶやきが震える。
「これは、セリ様……? それとも、ジュリ様の感情ですか……?」
頬に手を添えられ、目じりを親指の腹でなぞられて、自分が泣いていたことを自覚する。
はたと呼吸を止めたジュリも、同じようだった。
あたしたちの涙を拭ったゼノもまた、こがねの瞳からふたすじの雫を伝わせていた。
「……泣いてほしくないはずなのに、まったく嫌な気持ちじゃない……それどころか、胸が熱くなって、ずっとこのままでいたいとさえ思える……やはり私は、がらくたなんでしょうか」
あたしが泣いて、ジュリも泣いて。
共鳴したあたしたちの心の境目が溶けてしまって、ゼノもわけがわかんなくなっちゃったんだろう。
あまり多くを語らないゼノが堰を切ったように心情を吐露して、それでまた泣けてきちゃうんだから、あたしってやつは。
「嬉しくても、涙が出るんだよ」
「嬉しくても……? 私は、嬉しいと、感じているのですか……?」
「そうだよ、器用なもんでしょ」
右手を伸ばして、ぽろぽろと雫を伝わせる頬に指先でふれる。
「泣きながら笑うなんて器用な芸当ができるのは、人間だけだよ。ゼノは、がらくたなんかじゃないよ」
心臓を持たなくても、そこには心があって、あたしたちと同じように泣いたり笑ったりする。
血の繋がりとかなくたって、別にいいんだよ。
一緒に過ごした日々さえあれば、それで充分じゃない。
「ゼノも、あたしたちの家族だよ」
「──っ」
お兄ちゃん? いや、しっかりしてるように見えて意外と天然で甘えただから、弟かな。やきもち妬きで、子供みたいなところもあるし。
「ゼノも……ずっと一緒にいてね。どっかいっちゃやだからね」
「……はい……」
大きな手のひらに右の手のひらを包み込まれて、繰り返し頬をすり寄せられる。
「私はどこにも行きません……ずっとずっと、一緒です」
ぽろぽろと、相変わらずとめどない涙があふれていたけど、紡がれた声音は凪いでいる。
あたしを捉えたこがねの双眸は、晴れやかに笑みをたたえていた。
虹が架かったかのようなその美しさに、思わず呼吸も忘れて見惚れてしまう。
微笑んだゼノは、本当に心臓に悪い。
その顔の良さで、世界だって救えるんじゃないだろうかとか、どうでもいいことを考えた。
「私が……お守りします」
噛みしめるようにつぶやいたゼノは、いっそうの力を込めて腕を回してくる。
しなやかな腕で、ジュリもろともあたしを抱き込んで。
極限まで丸みを帯びるオニキスの瞳。ゼノの胸に顔を埋めたジュリの肩は、小刻みに震えていた。
「この輝きは、誰にも翳らせません」
囁くように誓う青年の面影に、子を想う父のようなたくましさを覚えながら、肩にもたれて体重を預ける。
まぶたを閉じても、脳裏に焼きついたこがねの煌めきが、まぶしくて仕方なかった。
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