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本編
*42* きみは天才
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「これまたユニークなかたちだね?」
「ライスをぎゅっと握りました。やっぱ定番は三角形の塩むすびでしょう」
「こっちの細長いオムレツは?」
「だし巻き玉子だよ。ひとくちサイズに切り分けたらいくらでも食べられちゃうんだよなー、これが」
「嗅いだことのない香りのスープがある……」
「いわゆる味噌スープです。和食には欠かせないものです」
「ミソ……?」
「ペースト状の調味料を溶かして、スープに味つけをするのよ。具材はわかめとお豆腐があれば完璧。異論は認める」
「それで、これが」
「本日のメインディッシュにして日本人のソウルフード、肉じゃがです。やわらかーい牛肉を、味がしみしみでホクホクなじゃがいもと一緒に召し上がれ!」
ついでにあたしも召し上がるわ。手を合わせて、いただきます!
「はぁあ……しみるわぁ……!」
お味噌汁をひとくち飲んで、ほぅ……とため息。これよ、この味よ……!
全身へしみ渡る旨味に、あたしは天才かと自画自賛したくなる。
いや、前世の記憶を頼りに作物を品種改良し、自家製の調味料を作り上げ、調理器具までもそろえたオリーヴ様のおかげです。
「後でわらびさんに、食材と、調味料や調理器具一式をお渡ししておきましょうか」
「あなたは女神様か?」
いよいよ本気で、オリヴェイラ・ウィンローズという女神様を信仰するための教会を建てたほうがいいかもしれない。
後片付けをするときに、アンジーさんにもお礼を言っておこう。お仕事中にありがとうございます、助かりました。
とまぁこんな感じで、オリーヴも交えてゲストルームでランチを摂っていると、瞳をぱちくりとさせるジュリに気づいた。
「どうしたの?」
「母さんとオリーヴさんが、不思議なものを持っている……」
「うん? あぁこれ? お箸っていうの。こうやってつまんでね、食べるんだよ」
あたしたちが何気なく使っていたものが、ジュリには物珍しかったようで。
「この2本の棒でつまむ……あれ、難しいな?」
見よう見まねでお箸を手に取るジュリだけど、手元はぎこちなく、ぽろん、とじゃがいもがお皿に落っこちてしまう。
「あたしが教えたげるから、使い方は追々練習しようね」
「きっと使えるようになりますわ。うちの子たちだって使えるんですもの」
「なぬ! じゃあヴィオさんやリアンさんも?」
「もちろん。月に一度は、わたくしが和食をご馳走していますからね」
驚いたけど、同時に納得もした。
何でもそつなくこなすヴィオさんやリアンさんだ。普段の何気ない所作すら洗練されてるんだから、お箸が使えたって不思議じゃない。
そこへ「ネモもモネもアンジーもよ」と付け加えるオリーヴ。
「わたくしが育てました」と誇らしげに胸を張るもんだから、ふたりして吹き出す。
「そうだね、レクチャーをおねがいしようかなぁ」
つられて笑ったジュリは、使い慣れたスプーンに持ち変えた。
お味噌汁から始まり、自慢の肉じゃが定食を口にしていく。
「何だろう、はじめて食べる味……素朴だけど深みがあって、やさしい味だ」
そうです、その通り。見た目はシンプルながら奥が深い。それが和食、とりわけおふくろの味なのです。
「ほっとする……」
おいしいね、とはにかんだ表情を目にしたら、それだけで胸までいっぱいになる。
やっぱりジュリは、あたしを笑顔にさせる天才だね。
「ライスをぎゅっと握りました。やっぱ定番は三角形の塩むすびでしょう」
「こっちの細長いオムレツは?」
「だし巻き玉子だよ。ひとくちサイズに切り分けたらいくらでも食べられちゃうんだよなー、これが」
「嗅いだことのない香りのスープがある……」
「いわゆる味噌スープです。和食には欠かせないものです」
「ミソ……?」
「ペースト状の調味料を溶かして、スープに味つけをするのよ。具材はわかめとお豆腐があれば完璧。異論は認める」
「それで、これが」
「本日のメインディッシュにして日本人のソウルフード、肉じゃがです。やわらかーい牛肉を、味がしみしみでホクホクなじゃがいもと一緒に召し上がれ!」
ついでにあたしも召し上がるわ。手を合わせて、いただきます!
「はぁあ……しみるわぁ……!」
お味噌汁をひとくち飲んで、ほぅ……とため息。これよ、この味よ……!
全身へしみ渡る旨味に、あたしは天才かと自画自賛したくなる。
いや、前世の記憶を頼りに作物を品種改良し、自家製の調味料を作り上げ、調理器具までもそろえたオリーヴ様のおかげです。
「後でわらびさんに、食材と、調味料や調理器具一式をお渡ししておきましょうか」
「あなたは女神様か?」
いよいよ本気で、オリヴェイラ・ウィンローズという女神様を信仰するための教会を建てたほうがいいかもしれない。
後片付けをするときに、アンジーさんにもお礼を言っておこう。お仕事中にありがとうございます、助かりました。
とまぁこんな感じで、オリーヴも交えてゲストルームでランチを摂っていると、瞳をぱちくりとさせるジュリに気づいた。
「どうしたの?」
「母さんとオリーヴさんが、不思議なものを持っている……」
「うん? あぁこれ? お箸っていうの。こうやってつまんでね、食べるんだよ」
あたしたちが何気なく使っていたものが、ジュリには物珍しかったようで。
「この2本の棒でつまむ……あれ、難しいな?」
見よう見まねでお箸を手に取るジュリだけど、手元はぎこちなく、ぽろん、とじゃがいもがお皿に落っこちてしまう。
「あたしが教えたげるから、使い方は追々練習しようね」
「きっと使えるようになりますわ。うちの子たちだって使えるんですもの」
「なぬ! じゃあヴィオさんやリアンさんも?」
「もちろん。月に一度は、わたくしが和食をご馳走していますからね」
驚いたけど、同時に納得もした。
何でもそつなくこなすヴィオさんやリアンさんだ。普段の何気ない所作すら洗練されてるんだから、お箸が使えたって不思議じゃない。
そこへ「ネモもモネもアンジーもよ」と付け加えるオリーヴ。
「わたくしが育てました」と誇らしげに胸を張るもんだから、ふたりして吹き出す。
「そうだね、レクチャーをおねがいしようかなぁ」
つられて笑ったジュリは、使い慣れたスプーンに持ち変えた。
お味噌汁から始まり、自慢の肉じゃが定食を口にしていく。
「何だろう、はじめて食べる味……素朴だけど深みがあって、やさしい味だ」
そうです、その通り。見た目はシンプルながら奥が深い。それが和食、とりわけおふくろの味なのです。
「ほっとする……」
おいしいね、とはにかんだ表情を目にしたら、それだけで胸までいっぱいになる。
やっぱりジュリは、あたしを笑顔にさせる天才だね。
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