上 下
43 / 70
本編

*42* きみは天才

しおりを挟む
「これまたユニークなかたちだね?」

「ライスをぎゅっと握りました。やっぱ定番は三角形の塩むすびでしょう」

「こっちの細長いオムレツは?」

「だし巻き玉子だよ。ひとくちサイズに切り分けたらいくらでも食べられちゃうんだよなー、これが」

「嗅いだことのない香りのスープがある……」

「いわゆる味噌スープです。和食には欠かせないものです」

「ミソ……?」

「ペースト状の調味料を溶かして、スープに味つけをするのよ。具材はわかめとお豆腐があれば完璧。異論は認める」

「それで、これが」

「本日のメインディッシュにして日本人のソウルフード、肉じゃがです。やわらかーい牛肉を、味がしみしみでホクホクなじゃがいもと一緒に召し上がれ!」

 ついでにあたしも召し上がるわ。手を合わせて、いただきます!

「はぁあ……しみるわぁ……!」

 お味噌汁をひとくち飲んで、ほぅ……とため息。これよ、この味よ……!
 全身へしみ渡る旨味に、あたしは天才かと自画自賛したくなる。
 いや、前世の記憶を頼りに作物を品種改良し、自家製の調味料を作り上げ、調理器具までもそろえたオリーヴ様のおかげです。

「後でわらびさんに、食材と、調味料や調理器具一式をお渡ししておきましょうか」

「あなたは女神様か?」

 いよいよ本気で、オリヴェイラ・ウィンローズという女神様を信仰するための教会を建てたほうがいいかもしれない。
 後片付けをするときに、アンジーさんにもお礼を言っておこう。お仕事中にありがとうございます、助かりました。

 とまぁこんな感じで、オリーヴも交えてゲストルームでランチを摂っていると、瞳をぱちくりとさせるジュリに気づいた。

「どうしたの?」

「母さんとオリーヴさんが、不思議なものを持っている……」

「うん? あぁこれ? お箸っていうの。こうやってつまんでね、食べるんだよ」

 あたしたちが何気なく使っていたものが、ジュリには物珍しかったようで。

「この2本の棒でつまむ……あれ、難しいな?」

 見よう見まねでお箸を手に取るジュリだけど、手元はぎこちなく、ぽろん、とじゃがいもがお皿に落っこちてしまう。

「あたしが教えたげるから、使い方は追々練習しようね」

「きっと使えるようになりますわ。うちの子たちだって使えるんですもの」

「なぬ! じゃあヴィオさんやリアンさんも?」

「もちろん。月に一度は、わたくしが和食をご馳走していますからね」

 驚いたけど、同時に納得もした。
 何でもそつなくこなすヴィオさんやリアンさんだ。普段の何気ない所作すら洗練されてるんだから、お箸が使えたって不思議じゃない。

 そこへ「ネモもモネもアンジーもよ」と付け加えるオリーヴ。
「わたくしが育てました」と誇らしげに胸を張るもんだから、ふたりして吹き出す。

「そうだね、レクチャーをおねがいしようかなぁ」

 つられて笑ったジュリは、使い慣れたスプーンに持ち変えた。
 お味噌汁から始まり、自慢の肉じゃが定食を口にしていく。

「何だろう、はじめて食べる味……素朴だけど深みがあって、やさしい味だ」

 そうです、その通り。見た目はシンプルながら奥が深い。それが和食、とりわけおふくろの味なのです。

「ほっとする……」

 おいしいね、とはにかんだ表情を目にしたら、それだけで胸までいっぱいになる。
 やっぱりジュリは、あたしを笑顔にさせる天才だね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】星夜に種を

はーこ
恋愛
人が樹から生まれる異世界で、唯一こどもを生むことのできる『マザー』に。 さながら聖女ならぬ聖母ってか? ビビリなOLが、こどもを生んで世界を救う!  ◇ ◇ ◇ 異世界転移したビビリなOLが聖母になり、ツッコミを入れたり絶叫しながらイケメンの息子や絡繰人形や騎士と世界を救っていく、ハートフルラブコメファンタジー(笑)です。 ★基本コメディ、突然のシリアスの温度差。グッピーに優しくない。 ★無自覚ヒロイン愛され。 ★男性×女性はもちろん、女性×女性の恋愛、いわゆる百合描写があります。お花が咲きまくってる。 ★麗しのイケメンお姉様から口説かれたい方集まれ。 ********** ◆『第16回恋愛小説大賞』にエントリー中です。投票・エールお願いします!

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

処理中です...