異世界転性いーあーるさぶすく!〜ぼくら月極用心棒〜

はーこ

文字の大きさ
21 / 26

第20話 ひとはそれを自業自得という

しおりを挟む
「あらま、もうこんな時間。アタシはそろそろ失礼して……とその前に。これは今回の契約書ね。それと、ひとつお願いしてもいいかしら? ユイちゃん」

 美玉メイユーさんはそういって、さらさらと一筆したためた書面とは別に、おもむろに衿元から一通の手紙を取り出した。

「この文を、わたしてほしいひとがいるんだけど」

「だれですか? 僕でもわかるひとかな……」

「愉快な用心棒のオジサマよ」

松君ソンジュンさんですね……」

 知り合いだったんだ。それに意外だな。おなじ商人同士、てっきりファンさん宛かと思ったのに。

「あれ? でも松君さんなら、このお屋敷のどこかにいるはずですけど、呼びましょうか?」

「いいえ、すがたが見えないんじゃなくて、見せないのよ。ったく、勘の鋭いオトコだわ」

「えぇっと……?」

 美玉さんが野太い低音で悪態をつくので、畏縮してしまう僕。

「雨ちゃん、あの野郎に伝えておいて」

 最後に目にした美玉さんを言葉で表現するなら、そうだな。

 熊も逃げ出す形相だった、とだけ言っておこう。


  *  *  *


「というわけで美玉さんから、『恋・文・よ?』だそうです」

「イヤァアアアア!!」

 昼すぎから顔を見ないなと疑問に思っていたことが、解決した。

 逃げていたんだ。美玉さんから、全力で。


 絶賛逃走中の松君さんは、僕の寝室の天井に張りついていたところを発見した。

 夕暮れ時、明かりをともす前の薄暗い室内だったこともあり、軽くホラーだった。発狂しなかった僕をほめてほしい。枕は投げつけたけど。

 そして落っこちてきた松君さんは、マイに噛まれ、引っ掻かれていた。自業自得。

 で、なんやかんやあって、現在にいたる。

「どんな恨み買ったんですか、松君さん……」

「しんがーい! 心外だヨ、雨少年! ワタシに非があること前提なのしんがーい!」

「あなた何歳児ですか……」

「ていうか、一方的に言い寄られてるのはワタシですゥ! ワタシのほうが被害者ですゥ!」

「はいはい……とにかく、わたしましたからね」

 一般人からのお手紙に恐怖している用心棒ってどうなんだろう、と思わなくもないけど、ややこしいことになるので胸のうちにとどめておく。

「シクシク……」とわざとらしく泣き真似をしている松君さんなんか知らない。この人ほんとうに腕の立つ武人なんだろうか。

 ……なにはともあれ。

「美玉さんのおかげで、資金が用意できたね。これで、氾さんにもちょっとはお返しができるかな?」

 このままお世話になってばかりじゃいられないから、働きに出たいと考えていたところだ。

「働き口の紹介もしてるみたいだから、こんど氾さんに相談してみようね」

 寝台に腰かけて、ひざの上で丸まった麦の背中をなでる。

 すこしずつ、すこしずつ、未来のことが見えてくる気がした。

 でも、前に進めてるって感じていたのは、僕だけだったのかな。

「────」

 ぴくり、と大きな三角耳を立てた麦が、僕のひざから飛び降りる。

「麦……?」

 どうしたの、と問いかける間もなく、淡い橙色の髪の少年が現れる。

 鼈甲飴色の瞳に見つめられると、ドクン、と心臓が脈打ち、いまさらになってからだの芯から熱くなってくる。

(僕はバカか……キス、されたっていうのに)

 伸びてきた右手が、ほほにふれる。僕の正面にたたずんでいた麦が、ぐ、と腰を折り、至近距離までのぞき込んできた。

 吐息が、ふれる。

「なんか、近くない? 急にどうしたのかな、はは……」

 笑って背けようとした顔は、反対側のほほもつつまれたことで、もとの位置へ連れ戻されてしまう。

 麦の様子が、変だ。深刻な面持ちで、まるで僕の言動に異を唱えるみたいに……

「……え?」

 はくはくと、またもや口を動かしていた麦。

 なぜだろう。今回はどうしてか、読めてしまった。

 麦の唇の動きが。

 麦が、なにを伝えようとしているのかが。


 ──だ、め。

 ──あ、ぶ、な、い。


「……『危ない』……?」

「ム? これは……」

 僕が一時思考停止したのと、美玉さんからの手紙を読んでいた松君さんがハッとしたような声をあげたのは、ほぼ同時で。
 
「失礼いたします。人魚さまはいらっしゃいますでしょうか……?」

 へやの扉をノックする音、そして聞き慣れない女の子の声が耳に届いたのも、そんなときだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...