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大祭り
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「はあ、今回は初対面だから許すけど、次子供と間違えたら怒るからね。……それでヒトゥリはなんでこんな所に1人で座ってるの? 皆は祭りの準備を見に行ってるのに」
「俺はこの里に異世界帰りの伝承を聞きに来た。その祭りとやらに参加する為に来たわけじゃない。それにお前こそ同じだろ。こんな所で何してる」
「暇を持て余してんのよ。この里は祭りのせいで誰かに構う余裕なんてないもの」
少し得意気にアカリは鼻を高く言った。
答えになってないと思いながらも、俺は立ち上がる
里長までもが祭りの会場――神社にいる事が分かった今、ここに留まる理由はなかった。
「そうか、それじゃあな暇人。俺は里長に会いに神社に行ってくる。お前も来るか?」
「んー、あたしはいいかな。どうせギスギスしてるんだろうし」
どういう事かと聞き返そうとしたが、既にアカリは背を向けていた。
アカリ、不思議な奴だ。
言葉通りに畦道を神社とは反対方向に辿るアカリを見送り、俺は里を見下ろす位置にある神社へと向かった。
石段を何十と踏み上がり、神社の境内に入る頃には陽は頭の直上に輝いていた。
つい先程まで祭りの神輿や櫓を作っていたであろう里人達も、昼の休憩に入り木陰や庇の下で各々休憩をしている。
その中に、見覚えのある一団がいた。
彼らは近づいてくる俺に気付くと手を振り、俺の入るスペースを開けてくれた。
「遅かったわねヒトゥリ。貴方、もしかして今までずっと誰もいない里の中を探索してた?」
席に着くなりおにぎりを頬張りながら、マリーがからかってくる。
聖達が西で魔法を作ってまで栽培していた米だが、東では昔から常食として普及しているらしい。
このおにぎりも里の魔物からの頂き物だろう。
俺も1つ掴もうと手を出した間に、フェイが言葉を返していた。
「何を言ってるッスか。ヒトゥリ様がそんな無駄な時間を過ごすわけないじゃないッスか。きっとこの里について調べ上げてるッス!!」
ちょっと耳に痛いフェイの言葉を聞き流し、おにぎりにかぶりつく。
新鮮な白米の塩によって引き立てられた旨味が舌にしみる。
具はよく分からない山菜だ。
「ん、美味いなこのおにぎり。……まあ俺の方も収穫はあったな。旅人にも出会ったし」
「ほう、旅人……ですか。珍しい。この土地にそんなに多くの来客が来るなど」
俺の言葉に反応を返したのは、初めて見る鹿の魔物だった。
立派な角に、痩せた印象を受ける髭、理的な……というよりは老境に入った事をかんじさせる丸眼鏡。
「ワシはシャカイ・マンサ。この里の鹿族の長をしております。あなたの事は話は聞いておりましたよ、ヒトゥリさん。里の伝承について聞きたがっているそうですね」
「そうだ。この里の異世界帰りの伝承を探してる。……長と言ったがお前が里長って認識でいいのか?」
「いえ、かなり違います。ワシはあくまでこの里に幾ばくか住み着いている【鹿族】の長。この里の長ではありません。――そしてあなたが聞きたがっている伝承は里長しか語る事を許されていない」
シャカイは簡潔に答えると、そのまま眼鏡の奥の黄色がかった瞳を閉じた。
ではその里長は誰なのか?
その疑問を言葉にする前に、いつの間にか近寄っていた狸の魔物が会話に口を挟んできた。
「まあ、そういう事ですわ。せっかく長旅までして訪問してくれて、悪いけどワイらも忙しいってこっちゃ。ああ、ワシは縫田貫。
ワイが里長になったら景気よく伝承でも何でも話したるから、よろしゅうな!」
信楽焼の狸みたいに丸い目をして、七福神の恵比寿みたいな髭をした、いかにも商売をしていそうな笑顔を張り付けた胡散臭いおっさん――俺が受けた第一印象だ。
奴はその笑顔のまま手を差し出し握手を求めてくるが、どうにも握る気分にはなれない。
その手を握ったら頭の中身まで見透かされそうな……狸の自信に満ちた笑顔がそう感じさせるのだろうか。
「……なんですの、その顔。えらく不機嫌なようやし、ワイが何かしてもうたか!?」
「そら、そうちゃうん? 胡散臭い狸の脂ぎった掌なんて、誰も握りたがりませんわ」
差し出された縫田の手を遮るように現れた、狐の魔物。
厭味ったらしく縫田の面を見下しながらも、その体は俺に背を向け警戒を示している。
口では縫田を嫌いつつ、本当に信用していないのは俺の方なのだろう。
「……アツネ。またお前か、このワイの手が脂ぎっとるやって? うらやましいんか? お前の手は干からびてしっわしわやもんなぁ? このババア!」
「あらあらこの美しい白魚のような手を見て干からびてるなんて、あんたの審美眼も朽ちとるんやない? それで商売人なんてお笑いやわ」
爪を剥き出し、手をにぎにぎと威嚇する縫田。
空に獣の手を伸ばしてゆらゆらと揺らすアツネ。
にらみ合いはやがて、激しい口論へと発展していく。
低い声と甲高い声が混じる中、俺はマリー達の元へと向かった。
止めようにも、周囲の里人の反応を見る限りこれが平常運転みたいだからな。
やはり話を聞くにはこの祭りの騒動をどうにかするしかなさそうだ。
「俺はこの里に異世界帰りの伝承を聞きに来た。その祭りとやらに参加する為に来たわけじゃない。それにお前こそ同じだろ。こんな所で何してる」
「暇を持て余してんのよ。この里は祭りのせいで誰かに構う余裕なんてないもの」
少し得意気にアカリは鼻を高く言った。
答えになってないと思いながらも、俺は立ち上がる
里長までもが祭りの会場――神社にいる事が分かった今、ここに留まる理由はなかった。
「そうか、それじゃあな暇人。俺は里長に会いに神社に行ってくる。お前も来るか?」
「んー、あたしはいいかな。どうせギスギスしてるんだろうし」
どういう事かと聞き返そうとしたが、既にアカリは背を向けていた。
アカリ、不思議な奴だ。
言葉通りに畦道を神社とは反対方向に辿るアカリを見送り、俺は里を見下ろす位置にある神社へと向かった。
石段を何十と踏み上がり、神社の境内に入る頃には陽は頭の直上に輝いていた。
つい先程まで祭りの神輿や櫓を作っていたであろう里人達も、昼の休憩に入り木陰や庇の下で各々休憩をしている。
その中に、見覚えのある一団がいた。
彼らは近づいてくる俺に気付くと手を振り、俺の入るスペースを開けてくれた。
「遅かったわねヒトゥリ。貴方、もしかして今までずっと誰もいない里の中を探索してた?」
席に着くなりおにぎりを頬張りながら、マリーがからかってくる。
聖達が西で魔法を作ってまで栽培していた米だが、東では昔から常食として普及しているらしい。
このおにぎりも里の魔物からの頂き物だろう。
俺も1つ掴もうと手を出した間に、フェイが言葉を返していた。
「何を言ってるッスか。ヒトゥリ様がそんな無駄な時間を過ごすわけないじゃないッスか。きっとこの里について調べ上げてるッス!!」
ちょっと耳に痛いフェイの言葉を聞き流し、おにぎりにかぶりつく。
新鮮な白米の塩によって引き立てられた旨味が舌にしみる。
具はよく分からない山菜だ。
「ん、美味いなこのおにぎり。……まあ俺の方も収穫はあったな。旅人にも出会ったし」
「ほう、旅人……ですか。珍しい。この土地にそんなに多くの来客が来るなど」
俺の言葉に反応を返したのは、初めて見る鹿の魔物だった。
立派な角に、痩せた印象を受ける髭、理的な……というよりは老境に入った事をかんじさせる丸眼鏡。
「ワシはシャカイ・マンサ。この里の鹿族の長をしております。あなたの事は話は聞いておりましたよ、ヒトゥリさん。里の伝承について聞きたがっているそうですね」
「そうだ。この里の異世界帰りの伝承を探してる。……長と言ったがお前が里長って認識でいいのか?」
「いえ、かなり違います。ワシはあくまでこの里に幾ばくか住み着いている【鹿族】の長。この里の長ではありません。――そしてあなたが聞きたがっている伝承は里長しか語る事を許されていない」
シャカイは簡潔に答えると、そのまま眼鏡の奥の黄色がかった瞳を閉じた。
ではその里長は誰なのか?
その疑問を言葉にする前に、いつの間にか近寄っていた狸の魔物が会話に口を挟んできた。
「まあ、そういう事ですわ。せっかく長旅までして訪問してくれて、悪いけどワイらも忙しいってこっちゃ。ああ、ワシは縫田貫。
ワイが里長になったら景気よく伝承でも何でも話したるから、よろしゅうな!」
信楽焼の狸みたいに丸い目をして、七福神の恵比寿みたいな髭をした、いかにも商売をしていそうな笑顔を張り付けた胡散臭いおっさん――俺が受けた第一印象だ。
奴はその笑顔のまま手を差し出し握手を求めてくるが、どうにも握る気分にはなれない。
その手を握ったら頭の中身まで見透かされそうな……狸の自信に満ちた笑顔がそう感じさせるのだろうか。
「……なんですの、その顔。えらく不機嫌なようやし、ワイが何かしてもうたか!?」
「そら、そうちゃうん? 胡散臭い狸の脂ぎった掌なんて、誰も握りたがりませんわ」
差し出された縫田の手を遮るように現れた、狐の魔物。
厭味ったらしく縫田の面を見下しながらも、その体は俺に背を向け警戒を示している。
口では縫田を嫌いつつ、本当に信用していないのは俺の方なのだろう。
「……アツネ。またお前か、このワイの手が脂ぎっとるやって? うらやましいんか? お前の手は干からびてしっわしわやもんなぁ? このババア!」
「あらあらこの美しい白魚のような手を見て干からびてるなんて、あんたの審美眼も朽ちとるんやない? それで商売人なんてお笑いやわ」
爪を剥き出し、手をにぎにぎと威嚇する縫田。
空に獣の手を伸ばしてゆらゆらと揺らすアツネ。
にらみ合いはやがて、激しい口論へと発展していく。
低い声と甲高い声が混じる中、俺はマリー達の元へと向かった。
止めようにも、周囲の里人の反応を見る限りこれが平常運転みたいだからな。
やはり話を聞くにはこの祭りの騒動をどうにかするしかなさそうだ。
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