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開拓団とは
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気を取り直して行こう。
それでジョンと出会って数日経って、ついに2人が関所の門を通る日になったが……。
俺はどうやって門を越えようか。
色々と調べてみたが、空を飛び越える方法も透明になって素通りする方法も、その他思いつくありとあらゆる方法が上手く行きそうだ。
元よりここは普通の人間の為の関所。
空を飛んだり『透明化』などのレアスキルを使われる事を想定してないのだろう。
要するに越える方法が多すぎて1つに絞り切れない。
……まあやろうと思えば一瞬だ。
そこまで深く考える必要もないだろう。
ジョンとクリエには先に行ってもらったし、少し時間を潰してから向かうとしよう。
そうと決まれば飯でも食いに、っと。
いつの間にか裏路地に出ている、考え事に集中しすぎたか。
「動くな」
振り返り路地から出ようとした俺の首に、冷たい物が添えられる。
視線を落とすと黒く塗られたナイフが隅に映る。
ナイフを首に当て、この脅し文句。
こいつ、秘密警察か。
それに俺の後ろを取った時、音も匂いもしなかった事から、『消音』や『消臭』に類するスキル持ちだろう。
「冒険者のヒトゥリだな。少し話を聞いてもらお……」
だが金属の光る小さな獲物なんて、俺には何の障害にもならない。
声を無視して前に一歩踏み出す。
「ちょっ……! 何やってんの!?」
高い叫び声が頭の後ろから届く。
こいつ女なのか。
血に濡れていく刃から勢い良く、体を振り抜いて壁に背を当て蹴りを放つ。
女の着ている一般的な冒険者の服装、革鎧に地味な服に俺の血が飛び散っている。
潜入でもしていた最中に俺を見つけたのか。
それは後で聞けばいいか、今はもう整った準備を実行するだけだ。
「『回帰欲求・腐食』……麻痺毒だ安心しろ」
みるみると俺の首の欠損が戻って行く。
シャワーのように飛び出していた出血は止まり、肉は埋まる。
だが飛び散った血だけは元に戻らない。
血は毒となり、女の体から力を奪う。
『邪龍毒血』の効果だ。
「か……」
声も出せずに倒れる女。
誰かに見られたら兵を呼ばれそうだな、適当な場所に運んで話を聞こう。
そう考えて、手を伸ばすと女に手を掴まれた。
毒の耐性持ちかと、反射的に拳を構えると、もう片方の手を挙げて女が降参の意を示す。
「わた……私はムラクモ。シュ……シャルロ局長から伝言を持ってきました。殺さないで」
毒が抜けきっていないにも関わらず、呂律は回っていないが話せている。
何かしらの耐性持ちか。
そしてそれよりも。
「シャルロから伝言だと? なら更に分からない。何故後ろから襲ったんだ」
「そ……れは。私の独断です。局長は正面から話しかけた方が良いと言っていましたが、貴方は上から目を付けられている重要人物です。いきなり正面から斬りつけられる可能性も……」
確かに俺は指名手配ではなくとも危険人物扱いだろう。
だから後ろから脅して一方的に用件を伝えて離脱しようとしていた、と。
「『結界術・人忌不寄』ならこの場で聞かせてもらおう。言え、俺に対して秘密警察を寄越して一体お前らは何を伝えるつもりだ」
コルク村に侵略しに来た皇国軍が使っていた結界術を小規模に発動する。
これでこの裏路地には誰も近寄らない。
存分にこの女を尋問できる。
「分かりました。ふう……やっと毒が抜けた」
女は毒が抜けきった様子で立ち上がり、こちらを見た。
顔は隠れていて表情が読めないが、角の形状からして魔人か。
手に持ったナイフは既に落としたが、マントで隠れた腰の裏、腕の内側、まだ武器は隠している。
毒の抜けも異常に早いし、油断はしない方が良さそうだ。
「まず私の名前はムラクモ。偽名ですが、本名は捨てたのでありません。今はこれが名前です。私が局長から託された伝言は1つだけでした。それはヒトゥリさんが、ライブラリア開拓団に関わらない様に忠告しろ、というものです」
「……俺がライブラリア開拓団に? なぜそんな事を」
「それは我々秘密警察と、ヒトゥリさん双方の為です」
分からん。
秘密警察とライブラリア開拓団は関係ないだろう。
秘密警察はあくまで国内の安全の為に活動する組織で、国外に働きかけるライブラリア開拓団に何が起ころうと知った事ではないはずだ。
「まず私はヒトゥリさんに会う為にこの関所にいたのではありません。ライブラリア開拓団に潜入しているのです」
「なるほど、秘密警察はライブラリア開拓団に目を付けているのか」
「はい。そしてつい2日前、私の元に局長から指令が届きました。それが……」
「俺がライブラリア開拓団に接触しない様に伝えろ、か」
それなら筋が通っている。
ライブラリア開拓団の主宰は国ではなく、貴族だと聞いている。
その関連で秘密警察が潜入しているのなら、俺が関わってかき回されるのは御免だろう。
「だが俺がここに来るとなぜ分かった。痕跡は誤魔かしていたはずだが」
「それは私達の機密事項です。とにかく、私達はヒトゥリさんがここに来ることを事前に知っていたので、こうして接触を図りライブラリア開拓団に関わらない様に忠告をしに来たのです。なにせあの開拓団は主宰が不明、その上魔族と関わりがあると我々は見ていますから」
主宰が不明で魔族と繋がり……要するに主宰が魔物かもしれないって事だろ?
シャルロにも俺がドラゴンだって話は伝わっているだろうし……。
つまり俺が主宰と結託すると面倒だから、関わるなって事か。
だったら俺も無理に話をややこしくする必要もないか、いや待て!
「分かったが1つ条件がある」
「……言ってみてください」
「ライブラリア開拓団にはジョンというむさ苦しいエルフの男がいる。何かあった時はそいつの安全を保証しろ」
秘密警察の奴らなら、国の癌になる存在は全員消すとかやりかねない。
少なくともシャルロはそういう判断をしそうだ。
それ自体はドン引きするが、正直どうでも良い。
しかしジョンは友人だ。
その中にジョンが入るのは許せない。
「これが飲めないなら、俺が開拓団と関わらないという約束はできない」
何だったら俺自身が助けに行っても良い。
「ジョンというのは貴方と王都で関わっていたエルフですね。それくらいなら私個人の力でどうにかなるでしょうし、良いですよ」
「よし、それじゃあ約束しよう。俺はライブラリア開拓団には関わらない。その代わりムラクモもジョンの安全を保障する事、これでいいよな?」
「……? はい、それでいいですけど」
『契約魔法』発動。
ムラクモには気付かれていないが、これでお互いに結んだ約束を破れなくなった。
もしも破りそうになれば激痛が、破ってしまえばもう片方の契約者にそれが伝わり、破った契約に比例する命令を与えられる。
これくらいならシャルロを1度裏切らせるくらいはできそうだ。
「よし話が終わったし、これ以上一緒に居ても良い事はないだろう。それじゃあ俺は関所を越えないといけないんだ。それじゃあな、シャルロによろしく」
「はあ、それでは」
ムラクモの横を通り過ぎて俺は裏路地を出た。
それでジョンと出会って数日経って、ついに2人が関所の門を通る日になったが……。
俺はどうやって門を越えようか。
色々と調べてみたが、空を飛び越える方法も透明になって素通りする方法も、その他思いつくありとあらゆる方法が上手く行きそうだ。
元よりここは普通の人間の為の関所。
空を飛んだり『透明化』などのレアスキルを使われる事を想定してないのだろう。
要するに越える方法が多すぎて1つに絞り切れない。
……まあやろうと思えば一瞬だ。
そこまで深く考える必要もないだろう。
ジョンとクリエには先に行ってもらったし、少し時間を潰してから向かうとしよう。
そうと決まれば飯でも食いに、っと。
いつの間にか裏路地に出ている、考え事に集中しすぎたか。
「動くな」
振り返り路地から出ようとした俺の首に、冷たい物が添えられる。
視線を落とすと黒く塗られたナイフが隅に映る。
ナイフを首に当て、この脅し文句。
こいつ、秘密警察か。
それに俺の後ろを取った時、音も匂いもしなかった事から、『消音』や『消臭』に類するスキル持ちだろう。
「冒険者のヒトゥリだな。少し話を聞いてもらお……」
だが金属の光る小さな獲物なんて、俺には何の障害にもならない。
声を無視して前に一歩踏み出す。
「ちょっ……! 何やってんの!?」
高い叫び声が頭の後ろから届く。
こいつ女なのか。
血に濡れていく刃から勢い良く、体を振り抜いて壁に背を当て蹴りを放つ。
女の着ている一般的な冒険者の服装、革鎧に地味な服に俺の血が飛び散っている。
潜入でもしていた最中に俺を見つけたのか。
それは後で聞けばいいか、今はもう整った準備を実行するだけだ。
「『回帰欲求・腐食』……麻痺毒だ安心しろ」
みるみると俺の首の欠損が戻って行く。
シャワーのように飛び出していた出血は止まり、肉は埋まる。
だが飛び散った血だけは元に戻らない。
血は毒となり、女の体から力を奪う。
『邪龍毒血』の効果だ。
「か……」
声も出せずに倒れる女。
誰かに見られたら兵を呼ばれそうだな、適当な場所に運んで話を聞こう。
そう考えて、手を伸ばすと女に手を掴まれた。
毒の耐性持ちかと、反射的に拳を構えると、もう片方の手を挙げて女が降参の意を示す。
「わた……私はムラクモ。シュ……シャルロ局長から伝言を持ってきました。殺さないで」
毒が抜けきっていないにも関わらず、呂律は回っていないが話せている。
何かしらの耐性持ちか。
そしてそれよりも。
「シャルロから伝言だと? なら更に分からない。何故後ろから襲ったんだ」
「そ……れは。私の独断です。局長は正面から話しかけた方が良いと言っていましたが、貴方は上から目を付けられている重要人物です。いきなり正面から斬りつけられる可能性も……」
確かに俺は指名手配ではなくとも危険人物扱いだろう。
だから後ろから脅して一方的に用件を伝えて離脱しようとしていた、と。
「『結界術・人忌不寄』ならこの場で聞かせてもらおう。言え、俺に対して秘密警察を寄越して一体お前らは何を伝えるつもりだ」
コルク村に侵略しに来た皇国軍が使っていた結界術を小規模に発動する。
これでこの裏路地には誰も近寄らない。
存分にこの女を尋問できる。
「分かりました。ふう……やっと毒が抜けた」
女は毒が抜けきった様子で立ち上がり、こちらを見た。
顔は隠れていて表情が読めないが、角の形状からして魔人か。
手に持ったナイフは既に落としたが、マントで隠れた腰の裏、腕の内側、まだ武器は隠している。
毒の抜けも異常に早いし、油断はしない方が良さそうだ。
「まず私の名前はムラクモ。偽名ですが、本名は捨てたのでありません。今はこれが名前です。私が局長から託された伝言は1つだけでした。それはヒトゥリさんが、ライブラリア開拓団に関わらない様に忠告しろ、というものです」
「……俺がライブラリア開拓団に? なぜそんな事を」
「それは我々秘密警察と、ヒトゥリさん双方の為です」
分からん。
秘密警察とライブラリア開拓団は関係ないだろう。
秘密警察はあくまで国内の安全の為に活動する組織で、国外に働きかけるライブラリア開拓団に何が起ころうと知った事ではないはずだ。
「まず私はヒトゥリさんに会う為にこの関所にいたのではありません。ライブラリア開拓団に潜入しているのです」
「なるほど、秘密警察はライブラリア開拓団に目を付けているのか」
「はい。そしてつい2日前、私の元に局長から指令が届きました。それが……」
「俺がライブラリア開拓団に接触しない様に伝えろ、か」
それなら筋が通っている。
ライブラリア開拓団の主宰は国ではなく、貴族だと聞いている。
その関連で秘密警察が潜入しているのなら、俺が関わってかき回されるのは御免だろう。
「だが俺がここに来るとなぜ分かった。痕跡は誤魔かしていたはずだが」
「それは私達の機密事項です。とにかく、私達はヒトゥリさんがここに来ることを事前に知っていたので、こうして接触を図りライブラリア開拓団に関わらない様に忠告をしに来たのです。なにせあの開拓団は主宰が不明、その上魔族と関わりがあると我々は見ていますから」
主宰が不明で魔族と繋がり……要するに主宰が魔物かもしれないって事だろ?
シャルロにも俺がドラゴンだって話は伝わっているだろうし……。
つまり俺が主宰と結託すると面倒だから、関わるなって事か。
だったら俺も無理に話をややこしくする必要もないか、いや待て!
「分かったが1つ条件がある」
「……言ってみてください」
「ライブラリア開拓団にはジョンというむさ苦しいエルフの男がいる。何かあった時はそいつの安全を保証しろ」
秘密警察の奴らなら、国の癌になる存在は全員消すとかやりかねない。
少なくともシャルロはそういう判断をしそうだ。
それ自体はドン引きするが、正直どうでも良い。
しかしジョンは友人だ。
その中にジョンが入るのは許せない。
「これが飲めないなら、俺が開拓団と関わらないという約束はできない」
何だったら俺自身が助けに行っても良い。
「ジョンというのは貴方と王都で関わっていたエルフですね。それくらいなら私個人の力でどうにかなるでしょうし、良いですよ」
「よし、それじゃあ約束しよう。俺はライブラリア開拓団には関わらない。その代わりムラクモもジョンの安全を保障する事、これでいいよな?」
「……? はい、それでいいですけど」
『契約魔法』発動。
ムラクモには気付かれていないが、これでお互いに結んだ約束を破れなくなった。
もしも破りそうになれば激痛が、破ってしまえばもう片方の契約者にそれが伝わり、破った契約に比例する命令を与えられる。
これくらいならシャルロを1度裏切らせるくらいはできそうだ。
「よし話が終わったし、これ以上一緒に居ても良い事はないだろう。それじゃあ俺は関所を越えないといけないんだ。それじゃあな、シャルロによろしく」
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