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眷属としての役割
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「ヒトゥリ、それじゃあ私は行くわね。それともしかしたら――しばらくこれから別行動になるかもね」
マリーが俺の背後に視線をやって笑った。
「それはどういう――」
「ヒトゥリ様!」
マリーの言葉の意味が分からず聞き返そうと出した声に、聞き慣れない、そして懐かしい声が被さる。
「お前は……オーガの長だったか?」
燃える様に赤い肌に、筋骨隆々の肉体。
間違いなくそれは記憶にあるオーガの長だったが、顔は記憶にない不満顔だった。
「あんまりじゃねえか! 数日前に帰って来た時歓迎しようと思ったら、すぐに旅立っちまう。またすぐに帰って来たと思ったら、今度は東に行くだなんて!」
「いやあ、悪いとは思うが俺にもやるべき事ってのがあって……」
言い訳しようとした俺の前にオーガが前のめりに立つ。
人間形態で見るとやっぱデカいなこいつ。
格下と分かっていても迫力がある。
「それは分かってる! 俺だってヒトゥリ様には自由でいてもらいたい! だが俺達は契約によって眷属になったんだ。ヒトゥリ様の役に立たなきゃ眷属とは言えねえ! このままじゃ、俺達は唯ヒトゥリ様の庇護の元に生きるだけ、無力な獣と変わらん!」
オーガの牙の生えた大口から息と大音量が飛びかかる。
流石にたまらずオーガの肩を両手で抑えて、押し戻して落ち着かせる。
「お前達の言い分は理解したよ。でもどうしろって言うんだ? 俺は東に行くのをやめるつもりはないぞ」
「俺達も東に連れて行ってくれ」
「は?」
一瞬頭が混乱した。
こいつらを東に?
確かあそこは環境的には快適で、こいつらでも生きていけるだろうが……。
俺達にはクリエという一般人の同行者がいる。
連れて行くのは無理だ。
「あのなあ、それは無……」
「ご心配なく! こいつらは責任持って私が連れていくッス、別行動で!」
断ろうとした言葉を遮り、フェイが現れる。
人間形態に成れるこいつには、クリエを頼んでおいたはずだが。
「クリエは洞窟に寝かせて、マリーから貰った魔物避けを貼っておいたので安心ッスよ! それよりも私は仮にもこの眷属達のまとめ役。ヒトゥリ様を支える為に東に行きたいと言うのなら、私の出番ッス!」
「ああ、フェイテールなら東にも慣れているだろうし安心だ。お願いだヒトゥリ様。どうか俺達も東に連れて行ってくれ!」
2人は俺に強く頭を下げた。
……そこまで言われると仕方がない。
クリエに見られなければ、こいつらが着いて来ても問題はないはずだし。
「分かった。それじゃあこれから、東エルクスに着くまでは別行動だ。それに東エルクスについても常に一緒に居られる訳じゃない。お前達が受け入れられない様な場所や、クリエのいる前では別行動をするが、それでもいいんだな?」
「……ああ! ありがとう、ヒトゥリ様!」
笑顔で感謝するオーガの長をあしらいながら、マリーを見る。
彼女も笑いながら、肩をすくめていた。
なんだろう、思っていたよりも旅に人が増えていく……。
と、言う事があって俺達は別行動をし始めたのだが。
(すまん、何の話だったっけ)
(この短時間で忘れるとか、汝はその歳でボケたのか? 敵対した天業竜達にどう対応するかじゃ)
(ああ、そうだったな。別にボケたとかじゃないんだが、色々思い出して少し疲れてな……)
敵対した天業竜、か。
正直今でもオーラには勝てる気はしない。
ルルドピーンやヴィデンタスがどの程度成長しているか分からないが、それでもあの2人には勝つ自信がある。
だがオーラは別格だ。
アジ・ダハーカへと進化して、様々なユニークスキルと『回帰欲求・腐食』を手に入れたが、それでも駄目だ。
噂程度に聞いた『全てのスキルを使う力』『全てのスキルを管理する力』。
この2つが本当なら、例えオーラがエクシードスキルに干渉できなくとも、他のスキルを封殺すれば俺を殺せるだろう。
なんせ進化した今だから分かるが、オーラは恐らく俺と同じ唯一種だ。
長い時間、あるいは何かのきっかけで目覚めた独自の進化を遂げた種族。
そして俺のアジ・ダハーカより更に格上だ。
(うーん、それ程気にする必要はないんじゃないか? オーラが本気なら俺は今頃死んでいるだろうし、多分余計な目立ち方をしなければ放っておいてくれるだろうよ)
(なるほど。消極的な逃げを選ぶか。……妾と同じ道じゃな)
(同じ? 何がだ)
(なぁに、気にするな。重要な事ではない。そろそろ念話を切るぞ、フェイと交代の時間じゃ)
そう言ってミュウは念話を切断した。
何だったんだ。
一方的に話しかけて、ほとんど一方的に切っていった。
まあ……気にする方が無駄か。
ミュウの事、俺は何も知らないしな。
ミュウの過去も、オーラとの関係も、何故引きこもっていたのかも。
フェイなら知っているのかもしれないが、大した興味もない。
――だってミュウが気にしているのは多分、俺じゃなくてフェイの方だ。
だったら俺もミュウを気にしない。
大人として当然の対応だろう?
「ヒトゥリさーん! 見て見て! ほら、あれが神聖国かなー?」
顔を上げて、坂の先を行くクリエを見上げる。
登り切った所で彼女は遠くを指差している。
恐らくそこに神聖国の特徴的な生命樹が聳えているのだろう。
「クリエ、多分それが神聖国だが俺達は神聖国にはいかないぞ。このまま下って関所を通るんだ」
「えー、生命樹をもっと近くで見たかったのにー」
「したいのは冒険であって観光じゃない、じゃなかったのか?」
「それはそうだけど……うーん、今回はここから眺めるだけ、か」
そう言ってクリエは立ち止まって、神聖国を望む。
生命樹、全ての生命の源とか、進化の原因とか言われるが俺に今必要なのは地球に帰る方法だ。
聖を元の世界に帰したら、悠々と観光にでも行こうじゃないか。
マリーが俺の背後に視線をやって笑った。
「それはどういう――」
「ヒトゥリ様!」
マリーの言葉の意味が分からず聞き返そうと出した声に、聞き慣れない、そして懐かしい声が被さる。
「お前は……オーガの長だったか?」
燃える様に赤い肌に、筋骨隆々の肉体。
間違いなくそれは記憶にあるオーガの長だったが、顔は記憶にない不満顔だった。
「あんまりじゃねえか! 数日前に帰って来た時歓迎しようと思ったら、すぐに旅立っちまう。またすぐに帰って来たと思ったら、今度は東に行くだなんて!」
「いやあ、悪いとは思うが俺にもやるべき事ってのがあって……」
言い訳しようとした俺の前にオーガが前のめりに立つ。
人間形態で見るとやっぱデカいなこいつ。
格下と分かっていても迫力がある。
「それは分かってる! 俺だってヒトゥリ様には自由でいてもらいたい! だが俺達は契約によって眷属になったんだ。ヒトゥリ様の役に立たなきゃ眷属とは言えねえ! このままじゃ、俺達は唯ヒトゥリ様の庇護の元に生きるだけ、無力な獣と変わらん!」
オーガの牙の生えた大口から息と大音量が飛びかかる。
流石にたまらずオーガの肩を両手で抑えて、押し戻して落ち着かせる。
「お前達の言い分は理解したよ。でもどうしろって言うんだ? 俺は東に行くのをやめるつもりはないぞ」
「俺達も東に連れて行ってくれ」
「は?」
一瞬頭が混乱した。
こいつらを東に?
確かあそこは環境的には快適で、こいつらでも生きていけるだろうが……。
俺達にはクリエという一般人の同行者がいる。
連れて行くのは無理だ。
「あのなあ、それは無……」
「ご心配なく! こいつらは責任持って私が連れていくッス、別行動で!」
断ろうとした言葉を遮り、フェイが現れる。
人間形態に成れるこいつには、クリエを頼んでおいたはずだが。
「クリエは洞窟に寝かせて、マリーから貰った魔物避けを貼っておいたので安心ッスよ! それよりも私は仮にもこの眷属達のまとめ役。ヒトゥリ様を支える為に東に行きたいと言うのなら、私の出番ッス!」
「ああ、フェイテールなら東にも慣れているだろうし安心だ。お願いだヒトゥリ様。どうか俺達も東に連れて行ってくれ!」
2人は俺に強く頭を下げた。
……そこまで言われると仕方がない。
クリエに見られなければ、こいつらが着いて来ても問題はないはずだし。
「分かった。それじゃあこれから、東エルクスに着くまでは別行動だ。それに東エルクスについても常に一緒に居られる訳じゃない。お前達が受け入れられない様な場所や、クリエのいる前では別行動をするが、それでもいいんだな?」
「……ああ! ありがとう、ヒトゥリ様!」
笑顔で感謝するオーガの長をあしらいながら、マリーを見る。
彼女も笑いながら、肩をすくめていた。
なんだろう、思っていたよりも旅に人が増えていく……。
と、言う事があって俺達は別行動をし始めたのだが。
(すまん、何の話だったっけ)
(この短時間で忘れるとか、汝はその歳でボケたのか? 敵対した天業竜達にどう対応するかじゃ)
(ああ、そうだったな。別にボケたとかじゃないんだが、色々思い出して少し疲れてな……)
敵対した天業竜、か。
正直今でもオーラには勝てる気はしない。
ルルドピーンやヴィデンタスがどの程度成長しているか分からないが、それでもあの2人には勝つ自信がある。
だがオーラは別格だ。
アジ・ダハーカへと進化して、様々なユニークスキルと『回帰欲求・腐食』を手に入れたが、それでも駄目だ。
噂程度に聞いた『全てのスキルを使う力』『全てのスキルを管理する力』。
この2つが本当なら、例えオーラがエクシードスキルに干渉できなくとも、他のスキルを封殺すれば俺を殺せるだろう。
なんせ進化した今だから分かるが、オーラは恐らく俺と同じ唯一種だ。
長い時間、あるいは何かのきっかけで目覚めた独自の進化を遂げた種族。
そして俺のアジ・ダハーカより更に格上だ。
(うーん、それ程気にする必要はないんじゃないか? オーラが本気なら俺は今頃死んでいるだろうし、多分余計な目立ち方をしなければ放っておいてくれるだろうよ)
(なるほど。消極的な逃げを選ぶか。……妾と同じ道じゃな)
(同じ? 何がだ)
(なぁに、気にするな。重要な事ではない。そろそろ念話を切るぞ、フェイと交代の時間じゃ)
そう言ってミュウは念話を切断した。
何だったんだ。
一方的に話しかけて、ほとんど一方的に切っていった。
まあ……気にする方が無駄か。
ミュウの事、俺は何も知らないしな。
ミュウの過去も、オーラとの関係も、何故引きこもっていたのかも。
フェイなら知っているのかもしれないが、大した興味もない。
――だってミュウが気にしているのは多分、俺じゃなくてフェイの方だ。
だったら俺もミュウを気にしない。
大人として当然の対応だろう?
「ヒトゥリさーん! 見て見て! ほら、あれが神聖国かなー?」
顔を上げて、坂の先を行くクリエを見上げる。
登り切った所で彼女は遠くを指差している。
恐らくそこに神聖国の特徴的な生命樹が聳えているのだろう。
「クリエ、多分それが神聖国だが俺達は神聖国にはいかないぞ。このまま下って関所を通るんだ」
「えー、生命樹をもっと近くで見たかったのにー」
「したいのは冒険であって観光じゃない、じゃなかったのか?」
「それはそうだけど……うーん、今回はここから眺めるだけ、か」
そう言ってクリエは立ち止まって、神聖国を望む。
生命樹、全ての生命の源とか、進化の原因とか言われるが俺に今必要なのは地球に帰る方法だ。
聖を元の世界に帰したら、悠々と観光にでも行こうじゃないか。
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