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港町ポートポール

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 国境戦線後、俺がドラゴンであるという情報は、連邦と王国での上層部内でのせき止められ一般市民が知る事は無かった。
 国民の混乱を抑える為という目的だ。

「邪龍め……この私から逃れられると思ったのか? この軍勢を持って貴様を地の果てまで追い潰してやる!」

 しかし連邦、王国内の双方で人の内に潜り込むドラゴンを敵視する声は抑えられず勇者レイオンが軍を率いて、失踪した俺を捜索し始める。
 正確には国外に逃げ出した指名手配犯を追跡する新設された軍団に、ドラゴンを討伐する任務を追加で与えた形になるが、ともあれ。
 レイオンの率いる【絢爛たる血の聖団】改め【竜葬聖血騎士団】は東に手を伸ばし始めた。

 と、いうのが『回帰欲求・腐食リバースドライブ』の過去探査能力で知った現状だ。
 そういえばあの場にレイオンもいたなと、ふと思いついて探るとこうだ。
 レイオンの奴俺に執着し過ぎじゃないか?
 俺がやらかした事が大きいからそうなるのも分かるし、今の俺ならレイオンに勝てるだろうし、1対1ならどうにでもなるけど……。
 クリエを連れてる状況で社会的に追われるのは御免被る。
 レイオンの情報を仕入れつつ、回避する方針で旅を続けよう。

 そう考えたのが出発初日、1週間前だった。
 それが何故か、今俺はクリエと2人で海岸沿いを散歩している。
 港に出入りする船から、屈強な船員が荷を下ろしていく。
 ここは港町ポートポール、王都と並んで他国との貿易の要となるセラフィ王国の重要都市だ。

「わー! 見て見てヒトゥリさん、向こうに何もない! 山も森もないよ、水ばっかり! この向こうには何があるのかな……」

 セラフィ王国で最も大きいこの港町は、【死の大陸】側に突き出ている。
 だから向こう側には荒涼とした大地しかないんだが。
 言わない方が……クリエは世界を旅する事が目的だし教えてやってもいいのか?

「ねえ、そういえばマリーお姉ちゃん達は本当に後で合流できるの? 東エルクスに行く道ってここか王都を通らないと、ないんでしょ? マリーお姉ちゃん達は森から抜けていくって言ってたけど、大丈夫――」

「良く知ってるなクリエ。それとそれは内緒だから大きな声で言わない様に」

 俺はクリエの言葉を遮って、止めた。
 マリーはオーラから話を、フェイは俺の眷属を集めて東に行く為に、それぞれの目的の為に2人は別行動をしている。
 そうなったのには理由があるんだが……。
 それを思い出すのは後で良いだろう。

「あ、そうだった。ごめんなさいヒトゥリさん」

 クリエは素直に頭を下げて、しょんぼりしている。
 ああ、またフィアだったらやらない行動だ。
 口を滑らせたり、こんな分かりやすく感情表現をするなんてあいつは……。

「いいんだ。それで2人が合流できるかだけど、心配しなくていい。あいつらは普通の人達より少しだけ強いし旅慣れてる。ちゃんと来てくれるさ」

 俺はそう言ってクリエの頭を撫でた。
 狼の耳はしっかり生えている。
 やっぱり、こいつはちゃんとフェイの体だ。
 だったら俺は間違っていたのかも……。

「わ、急に撫でないでよ。女の子の頭撫でるなんてデリカシーないよ!」

 クリエが頭を振って俺の手を払う。
 振り払われた手をじっと見て、俺は呟いた。

「……ごめんな、クリエ」

「うん? 分かったならいいけど、なんでそんな変な顔してるのさ」

 不思議そうにこちらを見上げるクリエの目は、夕日を受けて暗い綺麗な青を僅かに茶色に似せていた。

「何でもないんだ。さあ、日が暮れる前に宿に戻ろう」

 クリエの手を引いて宿への道を行く。
 うん、やっぱり間違ってない。
 体は男だけど、中身は女、別の部屋を取った事は正解だったよな?


 宿に戻った俺は隣の部屋のクリエが寝静まった事を確認すると、魔法で罠と鍵をかけて外に出る。
 最大の港町という事もあり、日暮れ後の町は盛んだった。
 あちこちで酔っ払いや客引きの騒がしい声がしている。
 俺はその中で適当に1つの宿屋を選んで足を運んだ。
 酒を飲みたい訳でも、欲に溺れたい訳でもない。

「おっと、その前に『認識阻害』」

 自分に魔法をかけて顔を隠す。
 誰かが指名手配されてる俺の顔を知っているかもしれないしな。
 カウンター席に座ると、酒を頼んで店主らしき男に声を掛けた。

「なあ俺は旅をしてるんだが、そろそろ路銀も尽きそうなんだ。何か良い感じの話はないか?」

 そう、俺はここに情報を集めに来た。
 特に俺を追っているレイオンの話とか。
 本当だったら冒険者ギルドで情報を集めるが最適だが、俺のギルドカードを使えばレイオンに場所がバレるだろう。

「金? 冒険者ギルドに行くなり、そこらの船の雑用や荷下ろしを手伝えばいい」

 蓄えた髭で隠れた口をぼそぼそと、動かしながら店主が答える。
 視線も寄越さずグラスとジョッキを、ひっくり返している。
 ここまでは予想通りだ。

「そうじゃなくてな。俺は気ままに旅をしてるんだよ。1つの場所に何日も滞在するのはごめんだ。だから一発で大金を稼げたり……そうだな賞金首とか。後は遠くに行ける護衛もいいな。なあ、何か知らないか?」

「大金、護衛か。……賞金首なら今朝も、そこの掲示板に役人が貼っていった。護衛なら王都に行け」

 店主の指した方を振り向くと確かに賞金首の人相が掛かれた手配書が、大量に貼られている。
 俺の顔はその中にはない、つまり俺は指名手配されていないって事だ。
 なんでだ。
 商会の力は……ないか。
 流石に貴族が戦争で暴れたドラゴンを見逃させる様な事できないだろうし。
 ドラゴンだと公表できない以上は、秘密裡に暗殺して混乱を起こさせないつもりだろうか。

「賞金首ね。もう1つの護衛の方は? 王都で何かあったのか?」

 本命の俺の情報が知れた以上は、会話の繋ぎのつもりだった。
 なるべく不自然にならない様にして宿に帰る為と。
 しかし店主の言葉は想定外に俺の好奇心を刺激した。

「ライブラリアの開拓団が設立された。学者、護衛、雑用、住人……人手が必要らしいから、あんたが何もできな奴だとしても同行させてくれるだろう」

「へえ……ライブラリア。あんな所にセラフィ王国が開拓団を?」

「国家事業ではない。金持ちの貴族共だ。皇国と連邦の戦争が終わって金の種がなくなったから、新天地を目指してるんだろう」

 店主は吐き捨てる様に言うと、他の客に追加の酒を頼まれて裏に引っ込んだ。
 どうやら店主は金持ちが嫌いらしい。
 
「それにしてもライブラリアか。あんな所に何で王国の人間が?」

 話相手の居なくなった俺は、ジョッキの底に残った酒を一気に流し込み席を立った。
 ライブラリア、【星の大書庫】があるとされる大陸。
 それ以外には何もなく山脈が連なるばかりで、そして【星の大書庫】は唯の人間が知り得る物ではない。
 世界の管理者を自負する天業竜達が重要地点と指定していた施設だ。
 凡そこの世界の管理に関係する物だ。
 名称から推測するに、この星の知識が集められているのだろう。

「待てよ……そんな場所なら異世界人を元の世界に戻す方法も、分かるんじゃないか?」

 東エルクスの探索が終われば、そこに行くのも悪くない。
 マリー達と合流できたら提案してみよう。
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