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帰巣

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 つい先日まで戦火に巻き込まれていたとは思えない穏やかな森に、高く昇った陽の光が差し込んでいる。
 静かで、そして遠くから飯の匂いが漂ってくる。
 匂いを辿って森を抜けると、見覚えのある街が広がっていた。
 王都よりも狭く、そして未舗装の道が目立つ街シルバーウッド。
 しかしここはそれでもコルク村よりは広く発展していた。

「ヒトゥリ様、ここにいるッスね?」

 隣に立つフェイに「ああ」と簡潔に返事を返して、街の外れを見る。
 そこには急ごしらえで作られたであろうテントが幾つも並んでいた。
 テントの中には見知った顔も幾人か。

 フェイと合流し、再びコルク村の村人が避難した洞窟に戻ったが、そこには誰の姿もなく、その代わりに俺の魔力に反応する様に組まれた魔法によるメッセージが残されていた。
『住人の避難と食料の供給の為にシルバーウッドに向かう――マリーより』
 俺はそのメッセージを見て、その日のうちにこの街へ向かった。

「……いた。あの青髪の女がそうだ。――マリー!」

 数人の村人と話をしているマリーに手を振る。
 それに気づいた彼女はこちらを見て笑っている。
 にこりと笑って表情も変えずに能面みたいに笑っている。
 さて、突然飛び出しことをどう説明したものか。
 対応を間違ったら仲間関係を解消するなんて事になりかねないぞ……。


「別に怒ってないわ。へえ、貴方がヒトゥリの言っていた眷属ね」

「はい! これから旅に同行するッス! ミュウともどもよろしくッス!」

 恐る恐る言葉を選んで説明を終え謝罪した俺を、マリーはあっけなく許した。
 欠片も怒った様子はなく、むしろそんな事があったのかとフェイの方を興味深そうに見ている。
 
「ちょ、ちょっと待て! なんでだ? 俺は仕事を放って1週間近く音信不通だったんだぞ、怒る所じゃないのか!?」

「なんでって言われても……あの後、国境線近くの戦場で暴れてた黒いドラゴンって貴方の事でしょ?」

「そうだけど……」

 その時の記憶は消えていたし、正確には暴れていたのは俺じゃなくて俺の体を使っていた『欲望の繭』なんだけど言う必要もないな。

「ならいいじゃない。あれのおかげで戦争が終わって、難民を受け入れる目処が立ってようやくシルバーウッドに入れたのよ。結果的に一番の重責だったコルク村の人達の受け入れ先を探すっていう問題は解決したんだし、いいんじゃない?」

 なら、いいのか?
 言われればその通り、あの洞窟に長期間滞在していたら村人達の体調も悪化していただろうし……。
 それにソリティアの納品期限もギリギリだったしな。
 じゃあいいか。

「そうか、そう言ってくれるなら俺も楽になる」

「ええ、あまりに気しない方が良いわよ。例えその間の食料だとかの世話を、私がしないといけなかったとしてもね?」

「やっぱり怒ってるんじゃ。……まあいいや。ところで、ソリティア達は? 護衛を放ったままだったから、彼女達にも謝らないと」

 と、辺りを見るがそれらしき姿は見当たらない。
 それどころか、彼女達の乗っていた大きな馬車すらない。
 また客人扱いで他の場所にいるのか?

「ソリティアさん達なら、もう帰ったわ。流石に期限を過ぎるわけにはいかないからって。依頼については、トラブルがあったから失敗扱いにはしないから安心してって、ソリティアさんとプラムさんが言ってたわ」

 そう言ってマリーは布袋を渡してきた。
 中には約束されていた金貨が丁度入っている。
 護衛は連邦国の帰りの途中までしかできなかったのに全額入っている……これはコルク村の人達の護衛分と考えていいだろう。
 律儀な貴族でかつ合理的な商人でありながら、優しいソリティアらしい振舞だ。

「ああそれと」

「なんだ」

 布袋の中の金貨を数えながら、マリーの言葉を聞く。
 ミュウについての説明かな。
 スキルの研究をしていたマリーとしては、スキルと関係の深い魂、それだけの存在であるミュウは格好の研究対象だろうしな。
 だが俺も説明を詳しくできるわけではないし本人に……。
 と、考えている俺に大きな爆弾が落とされた。

「貴方がドラゴンだって事、ソリティアさんやセルティミアさんにバレたわよ」

「……は?」
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