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連邦の街

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 フォーク連邦国はセラフィ王国よりかは資源が多く、ヒューマン以外の種族も王国より多い。
 そのためか、旅の道中では王国では珍しい文化や食事に会えた。
 獣の干した内臓を砕いた漢方みたいな調味料や、地面に埋めて発酵させた野菜とか、そんな料理は王国ではなかった。
 基本的に王国では輸入された食品を焼くか煮るか蒸すか揚げるか、どれかだったからな。
 やはり貿易が盛んだと言っても文化自体は、それを生み出した人々がいなければ本質には程遠くなるものだ。
 そもそも王国は輸入される文化も食事も多いせいで、限られた物から何かを生み出す必要もないのだしな。
 
 ともあれ、俺はこの旅を満喫していた。
 数日間の道程を楽しむ内に、この旅も折り返しに到達した。
 相変わらず俺は馬車の隣を並走し、乾物をかじる。

「ここが目的の町、シルバーウッドか。……特に大きな町にも見えないが、本当にここが目的の品のある町なのか?」

 俺が独り言のように呟くと、馬車の中から声が返ってくる。

「目的地はここであっていますわ。既に町長とは文書でコンタクトを取っていますから、向かいましょう。宿はあちらが用意してくれるそうですわ」

 流石は大きい商会ともなると、訪れる町の方が宿を用意してくれるんだな。
 まあ、あちらにとっても金になる取引なのだから、対応が良いのは当然か。

 町の中に入り、そのまま町長の所まで馬車を走らせると、それなりの迎賓館に案内された。
 4人が馬車から降りると、1人の壮年の男がこちらを見て両手を上げた。

「ようこそ! ようこそ、我らが町シルバーウッドへ! お待ちしておりましたよ、ソリティア様。さあ、早速取引と行きたいところですが、まずはお疲れでしょう。食事でもいかがでしょう」

「お気遣いありがとうございます。町長。ぜひ、ご厚意に甘えさせていただきますわ」

 迎賓館の中は貴族の館に似ていた。
 セルティミアの館の中と同じ様な雰囲気だ。
 流石にあの大きさと比べると、高級感は低いが、それでも十分に庶民の生活では見かけない様な無駄な調度品が沢山ある。

「さあ、こちらです。どうぞ中へ。きっと驚きますよ。本日は特別なゲストも用意しておりますから」

「特別なゲスト? 今日の会合は我々だけではないのですか?」

 町長が食堂への扉を開く。
 まず感じたのは食事の匂い。
 よく焼いた肉と、スープ、サラダの青臭さ、そしてそんな物に混じって嗅ぎ慣れた匂い。
 炊き立ての白米の香りだ。

「……まさか」

 俺は身を乗り出して、食堂の中を覗いた。
 食堂の中央に長机、料理、そして側に控える給仕達。
 長机の席に3人の影が見える。
 1人は知らない狼獣人の女の子。
 1人は見覚えのある人間の女の子。
 そして、もう1人は……あいつは。

「黒髪の私と同じくらいの少年少女……。わあ、もしかしてあれは連邦国の勇者様ですか!? お会いできるなんて光栄です!」

 下から聞こえたプラムの声に引き戻される。
 俺は1歩前に出る。

「あ、ちょっとヒトゥリ。前に出たら失礼だって……いや、しょうがないか」

 後ろから引き留めるマリーの声や町長の声は聞こえていなかった。
 俺は更に前に出て、あいつの元に進む。
 俺の姿を認めたあいつの顔が驚愕に染まっていく。
 立ち上がったあいつの前に、俺は立ち止まって笑う。

「やっと落ち着いて話せる場で出会えたな、聖」

ひとり、この前はごめん。君の友達を攻撃した」

 久しぶりに出会った友達に謝罪から入るのは、随分あいつらしいと思った。


「それじゃあ、お2人はお友達だったんですね! ……あれ、でもヒジリさんは前は皇国にいたんですよね。ヒトゥリさんも皇国に住んでいらしたんですか?」

「ああ、まあその境というか。聖が皇国の勇者としての任務で来た時に色々あったんだ」

 聖に目配せをする。
 前世ちきゅうの事や、俺の本性については黙っていろ、という意図を込めて。
 聖は小さくうなずくと、俺の言葉を肯定した。

「そうだね。独とはかなり前から友達なんだ。連邦で出会えるとは思ってなかったよ」

「そう……ですね。私も知っていますが、まさかこちらにいるなんて」

 聖の隣に座る少女、絵里がこちらを不審そうに見る。
 そうだろうな。
 今の俺は明らかに見た目が日本人じゃない。
 前世の真中独まなかひとりを知っている人物が見れば、一目で同一人物だと分かる容姿をしているが、知らない人物からはこちらの世界の人間だと思ってしまうだろう。
 髪や目の色はメタイヴィルドラゴンになってから赤から黒になったが、その色も完全な黒というよりかは毒々しい紫がかった黒だ。

「勇者様方のお知り合いが、まさかソリティア様の護衛をしているとは思いませんでした。では、もしやこちらもご存じですか? 勇者様が故郷より持ち込んだとされる、この【ジャポニカ米】という穀物を」

 そういって町長が指し示したのは見覚えのある食物の入った容器だった。
 白くツヤがあり、ほどほどの粘度のあるこれ。

「ああ、知ってるよ。好きだよ、この食べ物」

「あら、そうだったのね。なら隠す必要もなかったかしら」

「え?」

 ソリティアがそう言って口に米を運ぶ。
 すると、今回新しく仕入れる物品はもしかして。

「味が良くて、勇者様の伝えたレシピも多数あるんでしょう? この食感を受け入れない人がいたとしても、それでも新しい食材というのは数多の文化と需要を生み出すものよ。いつの時代でも」

 少し理解の遅れた俺をフォローするために、今度はマリーが説明する。
 なるほどな。
 確かにそれなら武器輸出と同じくらい、長期的な利益を出せるかもしれない。
 ただそれには1つ問題があるように思える。

「米を仕入れるのは分かったけど、量はどうするんだ。聖が持ち込めた米もそれほど量は多くないだろうし、そもそもここじゃ気候違うし育てられないんじゃないのか?」

「それは大丈夫です。この土地の気候でも栽培はできますから」

 俺の疑問に絵里が返す。
 そうは言っても、この世界の土地は乾燥した地域が多いし、水田を作れるほどに大量の水が使える川沿いの地域も少ない。
 米は水がなければ育たない。
 それを一体どうやって。

「魔法だよ。布留都が作ってくれたんだ。転移前に買ったお守りの中に入っていた玄米を使って、どうにか米を育てられないか試していたんだけど、中々上手くいかなくて。最後の数粒を育てようとした時に、布留都が湿度と気温を理想的に保つ結界魔法を作ってくれたんだ」

 なるほど、魔法。
 俺は聖の答えを聞いて膝を打った。
 この世界には魔法がある。
 俺も家事を魔法に任せていたから、あまりにも身近に感じ過ぎていたが、確かに魔法を開発できる知性があれば、大抵の事はどうにかできる。
 
「皇国の宮廷魔術師には『何故食材1つのために、そんな高度な事をするのですか!』って引かれたけどね」

 だろうな、俺もそう思うよ。
 米を追い求めなくても、この世界には色々美味しい物があるんだから、それを食べれば満足だ。
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