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冒険のメシ
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俺がゴーレムを倒してから何度かの戦闘を終えた後、俺達は黙々とダンジョン内を歩いていた。
一切の会話なく。
「……から……すぎる」「……を……れる」「……な馬……か?」
前を歩く3人組はひそひそとお互いにしか聞こえない様な小声で話している。
俺でさえ断片的にしか聞こえないのだから、ジョンには話している事さえ分からないかもしれない。
やはり俺が悪かったのだろうか?
あれからの戦闘も、ほとんど俺が1人でやっているようなものだし、機嫌を損ねたのか純粋に引かれているのか。
「あんまり気にすんなよ、胸を張れ! お前は自分の力を示しただけなんだ。ダンジョンの探索方法を身に付ければもっと上に行けるぜ、俺が保証する」
「ありがとう、ジョン。なんだかこういう空気は苦手でな……どうしても自分が何かしたのかと考えこむんだ」
やはりジョンはいい奴だ。
こっちを監視してきたかと思えば急に態度を一変させるシャルロとか、人の話を聞かないセルティミアとか、俺を上手く使おうと考えてるソリティアとは違うな……。
「2人とも、そろそろメシにしましょうや」
ほら、ラットが振り返って笑顔で話しかけてくる。
やはり俺は考えすぎてしまう性質なんだろう。
3人組はいい奴らだし、俺も失敗なんてしていないんだ。
ジョンの言うと通りに胸を張って、ダンジョン探索を続けていこう。
……その前にメシか。
「この通路を抜けると、ひらけた空間に出るんでそこでキャンプを張る。異論はないよな?」
俺は初心者だ。口出しできるほどにこのダンジョンの構造について知らない。
ジョンも文句はないようで、ラットの言う通りにキャンプを張る事になった。
魔道具で火をおこし、持ってきていた鍋と薪で水を沸かす。
そこに野菜や肉や何かしら色々入れて、その間に使った装備の点検を行う。
冒険者の料理は大抵適当で一部の酔狂な奴らを除いて、味を気にする奴はいない。
30分か1時間か、鍋も見ずに放っておけばドロドロに具材が溶けたスープができる。
「さあ各自適当によそって食ってくれ」
早速ひと口……。
硬い肉と溶けた野菜の素朴な味が口に広がり、するりと喉を通っていく。
うん、薄い!
樹海に居た頃に食べた生肉よりまずい……。
これを食べるくらいなら野菜を生で貰った方が良かった気がする。
「なあ、なんでスープにしたんだ? 直接焼いた方が美味かっただろ」
「お前は何も知らねえな。毒を消すためだよ。こうしないと腹を壊す奴がでる」
以外にも俺の質問に答えたのはスニックだった。
毒を消す……熱消毒の事だよな。
持っていく水を清潔とは言えない布袋に入れてるから、消毒が必要になるのか?
だとしてもこんな短時間では腐る事はないと思うが……。
「俺はそんな話聞いたことないぞ。いつもダンジョンに来た時は直接肉を焼いて食べるぜ」
ジョンが異を唱える。
何かがおかしい……。
スニックが俺達に嘘をついているようだ。
だが何のために? 意味のない冗談か?
「あーあ、スニックがまたやらかしたわね……」
ヴェウェックが食器を置いて立ち上がる。
その食器は手つかずのままだ。
よく見れば、ラットとスニックの2人も一口もスープを食べていない。
「毒……だ! 逃げ……ろ!」
鍋がひっくり返り中身が当たりにまき散らされ火が消える。
ジョンがよろめき倒れたのだ。
口に手を当て息がまだある事を確かめる。
即死するような毒ではない……が、放っておいても危険だ。
俺では治せないから早く街に戻らないといけない。
その前に、こいつらをどうにしないといけないが。
「おいラット、本当に毒を混ぜたんだよな?」
「ああ、俺が盗賊だった頃に使っていた強烈な奴を入れたさ! けどなんでこの野郎は倒れねえんだ! 耐性スキル持ちか?」
豹変だな。
ラットの言葉は今までも綺麗とは言い難かったが、なお荒くなっていた。
「手に入れた情報によると、この男のスキルに耐性系統はなかったわ」
その言葉と共に、火球が飛んでくる。
咄嗟に素手で弾き飛ばすと、陽炎の揺らめきの奥にヴェウェックが杖を持っているのが見える。
戦闘では一切見せなかったくせに、こいつ魔道具を持っていたのか!
あれなら詠唱無しで簡単な魔法を放てる。
今まで使わなかったのはこの不意打ちのためか?
反射で弾いちゃったけど。
「魔法も効かない……! 遠距離もダメね」
「なら対応は決まりだ! 逃げるぞテメエら!」
「ま、待て! ……ちくしょうが!」
ラット達が背を向けて走っていく。
追いかけようと足を踏み出して、留まる。
違う、今はあいつらよりジョンが優先だ。
「おい大丈夫か!?」
うつ伏せになっているジョンを抱き起す。
ジョンは自分のウエストポーチの中から何かを取り出そうとしてるようだが、体力が限界なのか開けられずにいる。
代わりに開けて中身を探ると、液体が入った瓶が出てきた。
蓋を開けると薬っぽい匂いがする。大丈夫だ、酒じゃない。
ジョンの目の間に持って行ってやると、力を振り絞ってそれをひったくり飲み干していく。
これで良くなるといいが……。
さて、これでジョンの方は一旦治まったが、どうするか。
全力で探知しながらあいつらを追いかけて止めを刺した後に脱出するか、さっさとジョンを連れてここを離れるか。
抱えてダンジョンを出るにしても、途中で背負っているジョンを狙われたら守れるかどうか……!
「いや、その心配はなさそうだな。なぜ戻ってきたんだ?」
耳に入った足音に反応して立ち上がり、振り返る。
だが、そこにいたのは俺の予想していた者ではなかった。
「ああ、こいつらは君達の知り合いだったのか。曲がり角で襲い掛かってきたので殺したが、構わないだろう? 悪党だし、その上所詮Cランクだ」
ドラゴンを殺した勇者、レイオン・ドラゴンブレイカー。
セラフィ王国の誇るエルフの男のその手には、血に濡れていた。
一切の会話なく。
「……から……すぎる」「……を……れる」「……な馬……か?」
前を歩く3人組はひそひそとお互いにしか聞こえない様な小声で話している。
俺でさえ断片的にしか聞こえないのだから、ジョンには話している事さえ分からないかもしれない。
やはり俺が悪かったのだろうか?
あれからの戦闘も、ほとんど俺が1人でやっているようなものだし、機嫌を損ねたのか純粋に引かれているのか。
「あんまり気にすんなよ、胸を張れ! お前は自分の力を示しただけなんだ。ダンジョンの探索方法を身に付ければもっと上に行けるぜ、俺が保証する」
「ありがとう、ジョン。なんだかこういう空気は苦手でな……どうしても自分が何かしたのかと考えこむんだ」
やはりジョンはいい奴だ。
こっちを監視してきたかと思えば急に態度を一変させるシャルロとか、人の話を聞かないセルティミアとか、俺を上手く使おうと考えてるソリティアとは違うな……。
「2人とも、そろそろメシにしましょうや」
ほら、ラットが振り返って笑顔で話しかけてくる。
やはり俺は考えすぎてしまう性質なんだろう。
3人組はいい奴らだし、俺も失敗なんてしていないんだ。
ジョンの言うと通りに胸を張って、ダンジョン探索を続けていこう。
……その前にメシか。
「この通路を抜けると、ひらけた空間に出るんでそこでキャンプを張る。異論はないよな?」
俺は初心者だ。口出しできるほどにこのダンジョンの構造について知らない。
ジョンも文句はないようで、ラットの言う通りにキャンプを張る事になった。
魔道具で火をおこし、持ってきていた鍋と薪で水を沸かす。
そこに野菜や肉や何かしら色々入れて、その間に使った装備の点検を行う。
冒険者の料理は大抵適当で一部の酔狂な奴らを除いて、味を気にする奴はいない。
30分か1時間か、鍋も見ずに放っておけばドロドロに具材が溶けたスープができる。
「さあ各自適当によそって食ってくれ」
早速ひと口……。
硬い肉と溶けた野菜の素朴な味が口に広がり、するりと喉を通っていく。
うん、薄い!
樹海に居た頃に食べた生肉よりまずい……。
これを食べるくらいなら野菜を生で貰った方が良かった気がする。
「なあ、なんでスープにしたんだ? 直接焼いた方が美味かっただろ」
「お前は何も知らねえな。毒を消すためだよ。こうしないと腹を壊す奴がでる」
以外にも俺の質問に答えたのはスニックだった。
毒を消す……熱消毒の事だよな。
持っていく水を清潔とは言えない布袋に入れてるから、消毒が必要になるのか?
だとしてもこんな短時間では腐る事はないと思うが……。
「俺はそんな話聞いたことないぞ。いつもダンジョンに来た時は直接肉を焼いて食べるぜ」
ジョンが異を唱える。
何かがおかしい……。
スニックが俺達に嘘をついているようだ。
だが何のために? 意味のない冗談か?
「あーあ、スニックがまたやらかしたわね……」
ヴェウェックが食器を置いて立ち上がる。
その食器は手つかずのままだ。
よく見れば、ラットとスニックの2人も一口もスープを食べていない。
「毒……だ! 逃げ……ろ!」
鍋がひっくり返り中身が当たりにまき散らされ火が消える。
ジョンがよろめき倒れたのだ。
口に手を当て息がまだある事を確かめる。
即死するような毒ではない……が、放っておいても危険だ。
俺では治せないから早く街に戻らないといけない。
その前に、こいつらをどうにしないといけないが。
「おいラット、本当に毒を混ぜたんだよな?」
「ああ、俺が盗賊だった頃に使っていた強烈な奴を入れたさ! けどなんでこの野郎は倒れねえんだ! 耐性スキル持ちか?」
豹変だな。
ラットの言葉は今までも綺麗とは言い難かったが、なお荒くなっていた。
「手に入れた情報によると、この男のスキルに耐性系統はなかったわ」
その言葉と共に、火球が飛んでくる。
咄嗟に素手で弾き飛ばすと、陽炎の揺らめきの奥にヴェウェックが杖を持っているのが見える。
戦闘では一切見せなかったくせに、こいつ魔道具を持っていたのか!
あれなら詠唱無しで簡単な魔法を放てる。
今まで使わなかったのはこの不意打ちのためか?
反射で弾いちゃったけど。
「魔法も効かない……! 遠距離もダメね」
「なら対応は決まりだ! 逃げるぞテメエら!」
「ま、待て! ……ちくしょうが!」
ラット達が背を向けて走っていく。
追いかけようと足を踏み出して、留まる。
違う、今はあいつらよりジョンが優先だ。
「おい大丈夫か!?」
うつ伏せになっているジョンを抱き起す。
ジョンは自分のウエストポーチの中から何かを取り出そうとしてるようだが、体力が限界なのか開けられずにいる。
代わりに開けて中身を探ると、液体が入った瓶が出てきた。
蓋を開けると薬っぽい匂いがする。大丈夫だ、酒じゃない。
ジョンの目の間に持って行ってやると、力を振り絞ってそれをひったくり飲み干していく。
これで良くなるといいが……。
さて、これでジョンの方は一旦治まったが、どうするか。
全力で探知しながらあいつらを追いかけて止めを刺した後に脱出するか、さっさとジョンを連れてここを離れるか。
抱えてダンジョンを出るにしても、途中で背負っているジョンを狙われたら守れるかどうか……!
「いや、その心配はなさそうだな。なぜ戻ってきたんだ?」
耳に入った足音に反応して立ち上がり、振り返る。
だが、そこにいたのは俺の予想していた者ではなかった。
「ああ、こいつらは君達の知り合いだったのか。曲がり角で襲い掛かってきたので殺したが、構わないだろう? 悪党だし、その上所詮Cランクだ」
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