上 下
38 / 113

ドラゴンとCランク冒険者の実力

しおりを挟む
 思わず叫んだ俺を、皆が見る。

「どうしたんですヒトゥリさん! あいつに見覚えでもあるってんですか!?」

「ごめん、何でもないんだ。ただ昔本で読んだ何かに似ていてちょっと驚いただけだから、気にしないでくれ!」

 最前列からのラット叫びになんとか誤魔化して、ロボ……ゴーレムの姿をよく見る。
 俺がやるべきなのは偶然出会ったロボットみたいなゴーレムに見惚れる事でなく、観察して自分の番に活かす事だろう。

 ゴーレムは敵であるラットを捕らえようと、ゴーレムは剣を振り回している。
 しかし、その振りは大雑把でいかに相手を一撃で倒せる両刃剣といえど、当たらなければ脅威にすらなっていなかった。

「詠唱完了! スニック、前に出て! 『属性魔法・火の腕力エンチャント・ファイアブースト』」

 ヴェウェックがそう叫ぶと、スニックの腕が赤く発光していく。
 『属性魔法』での腕力強化か。
 純粋な魔力による強化よりも汎用性は落ちるが、その分効率は良い。
 シャルロが使っていたのは多分『精霊魔法』だから、『属性魔法』は初めて見るな。

「うおおおお! どけっラット!」

 雄叫びを上げながらスニックが大斧を振り下ろし、ゴーレムの脳天にめり込ませた。
 鉄のひしゃげる大きな音と共に、ゴーレムの兜が鎧に埋まった……というよりも大斧が鎧の腹の部分までを切断している。
 魔法での支援があるとはいえ、それなりの剛力だ。

「っととと……全く危ないったらありゃしない。斬りかかるもっと前に注意してくれよな……。あーあ、こんなにめり込ませちゃって、魔石は大丈夫かねえ」

「うるせえ、一発で仕留めたんだこれ以上ない仕事だろうが。文句あんのか?」

 猛るスニックを無視してラットはひしゃげた鎧の中から、青い石を取り出した。
 光を反射して宝石のように輝いているが、それからは魔力が漂っている。
 あれが魔石なのか。
 俺の中にもあれと同じ物が入っていると考えると、何とも言えない気分になるが、あれが俺達冒険者の収入源というわけだ。

 ところであの鎧、中身が空なのでやはりロボットではなさそうだ。
 ロボットなら頭が壊れても動力源と回路が残ってたら動くだろうしな……。
 知っている物に重ねて見てしまっただけか。

「へへへ、これなら銀貨5枚程度にはなるかな」

 ラットが取り出した魔石を掲げながらにやけている。
 ……もしかして俺って魔道具作ってた方が金を稼げるんじゃ。
 いや、俺はここに経験を積みに来たんだ。
 金を稼ぎに来たんじゃない。
 それを忘れないようにしよう……じゃないと一日中魔道具作りをする生活になりそうだ。

「鎧は後で回収されるから放っておいてと、さあ次はあんたらの番ですぜ。実力を見せてくださいよ」

 そう言ってラットが指さす先には同じゴーレムが鎮座していた。
 ジョンをちらりと見ると頷いて、ハンマーを取る。
 俺はジョンの戦い方を見たことがないが、おそらく今のスニックと同じような戦い方だろう。

「俺が前に出る。ジョンは隙を見て一撃叩きこんでくれ」

「任せろ! ゴーレムの攻撃は大振りだが重いぞ、気をつけろよ」

 薙刀の穂先を地面すれすれに構え突撃する。
 さて、これを握るのも久々だな。

「敵……検知。アタッカー2……速攻戦闘開始」

 感知圏内に入った事で、ゴーレムの目が光り剣が抜かれる。
 ここまでは先程と同じだった。
 ここからは異なっていた。
 狂ったようなモーターの異音を発して、ゴーレムが剣を構え突撃してくる。

 咄嗟に斜め前に飛び込むと、俺がいた空間を突き出された剣が貫いていた。
 そして息をつく間もなく、俺に向かって上段から剣が振り下ろされる。
 バックステップを踏んでかわすも、それにすら対応して突きが繰り出される。

「おい! どうなってる? さっきと戦い方が全然違うぞ!」

「ゴーレムは戦い方を変える事がある! 俺達の間だと常識なんで言い忘れてたぜ、すまん!」

 アタッカーが2人だと、標的2つに同時に対応するために素早くなるのか……。
 ジョンが近寄りつつ叫ぶが、このゴーレムの素早い動きのせいで中々隙をつけられずにいるようだ。
 相手の戦術が俺達の戦術に上手く刺さっているようだ。
 ならこういう時の対応の仕方はゲームと同じだ。
 相手の考えている役割と違う動きをすればいい。

「ジョン! 俺が奴の攻撃を受け止める! その間に攻撃しろ!」

「おう! じゃねえ待て! ゴーレムの攻撃は重いって言ったばかり……」

 ジョンの声が届く頃には俺は既に実行に移していた。
 上から振り下ろされるゴーレムの剣に対して、下からの振り上げで弾きあるいは抑える。
 それを狙っていたはずなのだ。

 だが、しかし。
 俺はやり過ぎてしまった。
 そもそも薙刀なんて使うのは久しぶりだったし、ほどほどに対応しないといけない相手なんていなかった。
 セルティミアは全力を出すべき強者で、盗賊達は羽虫を叩くみたいに力を抜かないといけなかった。
 だから俺は力加減を間違ったのだ。

「すげえ……ゴーレムの腕と頭が真っ二つだ……」

 ゴーレムに隠れて見えないが、ラットの驚嘆の声が聞こえてくる。
 どんな顔をしているのか想像はつくが、顔を見せないわけにもいかないだろう。
 
 自重を支えきれずに崩れ落ちるゴーレムの裏から、まずハンマーを構えたまま固まっているジョンが見えた。
 そして、その奥に口を開けて突っ立っている3人衆。
 俺は持っていた薙刀を背に戻して、ゴーレムの落ちた腕を拾い上げた。

「あー、なんか。経年劣化、してたみたいだな?」

「そんなわけねえだろ……」

 そうして俺の渾身のすっとぼけには、ジョンのドン引きした声だけが返ってきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄は結構ですけど

久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」 私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。 「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」 あーそうですね。 私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。 本当は、お父様のように商売がしたいのです。 ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。 王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。 そんなお金、無いはずなのに。  

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】王甥殿下の幼な妻

花鶏
ファンタジー
 領地経営の傾いた公爵家と、援助を申し出た王弟家。領地の権利移譲を円滑に進めるため、王弟の長男マティアスは公爵令嬢リリアと結婚させられた。しかしマティアスにはまだ独身でいたい理由があってーーー  生真面目不器用なマティアスと、ちょっと変わり者のリリアの歳の差結婚譚。  なんちゃって西洋風ファンタジー。  ※ 小説家になろうでも掲載してます。

処理中です...