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ゴーレム初遭遇
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硬く平らな感触が足の裏に伝わる。
ダンジョンの中は俺の予想と反して、むしろ外よりも人工的だった。
というよりも、まるで近未来の研究所のようだ。
ダンジョンに来る前に話に聞いた限りでは、ここは錬金術師の研究所だったそうだが……。
「なあ、ここってえらく人工的な雰囲気だけど……錬金術師ってそんなに技術力の高い奴らなのか?」
「いいや、ここを作った錬金術師の時代……1000年前がどうだったか知らないが、今の時代の錬金術師と言えば精々が薬を作ったりするくらいさ。ここを作るような建築士みたいな奴はいないぜ」
俺の質問にジョンが答えた。
ここを作った奴が特異って事か。
「知らないのなら、このダンジョンの歴史の話でもするか? 面白い話だぜ」
ジョンがそう言って語り始める。
曰く、このダンジョンを作った錬金術師は若くして帝国の宮廷に招かれるほどの天才で、当時の錬金術と帝国の発展に大きく貢献したそうだ。
そんなある日、帝国は自らの国土の中心を占領するドラゴン達の住まう山を疎ましく思った。
帝国はドラゴン達に襲撃を仕掛ける事を決め、戦争の準備を始めていた。
それを知った錬金術師は当時の皇帝に異を唱え、ドラゴン達に手を出すのはやめるように説得した。
「我々ではドラゴンに勝てるはずがない」
そう訴えた錬金術師は皇帝と帝国を侮辱したとして、自らの領地に軟禁されてしまった。
帝国に失望した錬金術師は、せめて自分と仲の良い友人達だけでもと考えて地下に大きな研究所を作り、そこに避難した。
錬金術師は完成した地下に友人達を招待しようとしたが、友人達は錬金術師をあざ笑うだけだった。
結局、錬金術師は1人で自らの研究所に籠った。
そして歴史が示す通りに帝国がドラゴンによって滅び、現在の皇国へと姿を変えた今でも錬金術師は地下で研究を続けている……という噂だ。
「こんな感じの話だな。ヒトゥリ、お前も友達の忠告は聞くもんだ。一日乗り切るだけの日銭がないとかはもうやめておくべきだぜ?」
「それを言われると痛い……けどその分、今は十分に稼いでるから帳消しだろ」
語り終えたジョンが、俺に対して説教を垂れてくる。
何でもかんでも説教につなげたがるんだから、これだからおっさんは……。
「なあ、確かその話には続きがなかったか? 俺はそっちの方が好きなんだが」
前を行くスニックが振り返って聞いてくる。
「続き? ……石碑の事か」
「ああ、あれね……でもなんて書いてあるのか分からないんだから、その話が本当かどうかも分からないでしょ」
そしてヴェウェックも話に入ってくる。
これで話に入っていないのはラットだけになったが、彼には先導と索敵という仕事があるのだ。
代わりに彼の様な斥候役は取り分が多いのが慣例だそうだ。
話は戻って、歴史の話だ。
石碑って何の話だ?
「おっと、ヒトゥリは分からねえか。ドラゴン達との戦争が終わった後、生き残った錬金術師の友人の1人が謝罪として、入口の上に石碑を建てたんだよ。入口にあったあれだ」
「石碑には錬金術師への謝罪と感謝の言葉が書かれているって話だぜ。一度裏切ってしまった友への想い……考えるだけで涙が出そうだぜ」
「あんたって以外と人情家ね……」
スニックが人情家とかはともかく興味深い話だ。
特に読めないという辺りが。
何が興味深いのかって、なぜなら俺には読めたからだ。
あそこには確かに謝罪のような文書が書かれていた。
そして皆には読めなかったと言われて、ようやく気付いたがあれはドラゴンの使っている言語だった。
俺の持っているスキル本でよく目にするせいで、すぐには違和感に気付けなかった。
しかし、だとすれば石碑を建てたのは竜言語に精通した人間って事になる。
石碑を建てた友人って一体何者なんだ?
「おっと、止まってくだせえ。敵です」
一番前を歩いていたラットが振り返らずに、こちらに手を伸ばし静止させた。
腰のダガーに手を伸ばし、まっすぐ伸ばした視線の先には鉄で形成された体のゴーレムがいる。
こちらに気付いているのか、いないのかゴーレムは微動だにせず仁王立ちをしている。
恐らく一定の距離まで近づいた敵を検知して倒す命令を受けているのだろうが、こうしてみると黙って立っている巨大な鎧というのは異様な威圧感がある。
ゴーレムは魔法使いの命令を忠実に実行する人形の事で、土や岩から木や肉まで様々な素材で体を作る事ができる。
耐久力は使用した素材に依るそうだが、鉄ともなると相当堅そうだ。
「お前ら2人は俺達のやり方を見てな。今回は俺達だけでやらせてもらうぜ」
スニックが大斧を構え深く腰を落とす。
なるほど、あれなら鉄の鎧でも壊せる破壊力があるだろう。
「いつも通りいくわよ。支援魔法の詠唱が終わるまで時間を稼いで」
詠唱ありって事はヴェウェックは魔法スキル持ちじゃないのか。
独学で魔法を身に着けるのは大変だと聞くし、やはり冒険者にはなるからには色々とあったのかな。
「了解! スニックはあっしの後ろで待っていてくれよ! 後ろを向かせるから、そのタイミングで頼むぜ!」
そう言って、ラットがゴーレムに突っ込んでいく。
敵を検知したゴーレムが巨大な両刃剣を背中より引き抜く。
「敵……検知。アタッカー1、サポーター2、タンク0……汎用戦闘開始」
鎧の兜の隙間から赤い光がキラリと煌めき、機械的な音声が流れる。
起動と共にモーターか何かが回転する音がダンジョンの壁に反響する。
「ロ、ロボだこれー!」
ダンジョンの中は俺の予想と反して、むしろ外よりも人工的だった。
というよりも、まるで近未来の研究所のようだ。
ダンジョンに来る前に話に聞いた限りでは、ここは錬金術師の研究所だったそうだが……。
「なあ、ここってえらく人工的な雰囲気だけど……錬金術師ってそんなに技術力の高い奴らなのか?」
「いいや、ここを作った錬金術師の時代……1000年前がどうだったか知らないが、今の時代の錬金術師と言えば精々が薬を作ったりするくらいさ。ここを作るような建築士みたいな奴はいないぜ」
俺の質問にジョンが答えた。
ここを作った奴が特異って事か。
「知らないのなら、このダンジョンの歴史の話でもするか? 面白い話だぜ」
ジョンがそう言って語り始める。
曰く、このダンジョンを作った錬金術師は若くして帝国の宮廷に招かれるほどの天才で、当時の錬金術と帝国の発展に大きく貢献したそうだ。
そんなある日、帝国は自らの国土の中心を占領するドラゴン達の住まう山を疎ましく思った。
帝国はドラゴン達に襲撃を仕掛ける事を決め、戦争の準備を始めていた。
それを知った錬金術師は当時の皇帝に異を唱え、ドラゴン達に手を出すのはやめるように説得した。
「我々ではドラゴンに勝てるはずがない」
そう訴えた錬金術師は皇帝と帝国を侮辱したとして、自らの領地に軟禁されてしまった。
帝国に失望した錬金術師は、せめて自分と仲の良い友人達だけでもと考えて地下に大きな研究所を作り、そこに避難した。
錬金術師は完成した地下に友人達を招待しようとしたが、友人達は錬金術師をあざ笑うだけだった。
結局、錬金術師は1人で自らの研究所に籠った。
そして歴史が示す通りに帝国がドラゴンによって滅び、現在の皇国へと姿を変えた今でも錬金術師は地下で研究を続けている……という噂だ。
「こんな感じの話だな。ヒトゥリ、お前も友達の忠告は聞くもんだ。一日乗り切るだけの日銭がないとかはもうやめておくべきだぜ?」
「それを言われると痛い……けどその分、今は十分に稼いでるから帳消しだろ」
語り終えたジョンが、俺に対して説教を垂れてくる。
何でもかんでも説教につなげたがるんだから、これだからおっさんは……。
「なあ、確かその話には続きがなかったか? 俺はそっちの方が好きなんだが」
前を行くスニックが振り返って聞いてくる。
「続き? ……石碑の事か」
「ああ、あれね……でもなんて書いてあるのか分からないんだから、その話が本当かどうかも分からないでしょ」
そしてヴェウェックも話に入ってくる。
これで話に入っていないのはラットだけになったが、彼には先導と索敵という仕事があるのだ。
代わりに彼の様な斥候役は取り分が多いのが慣例だそうだ。
話は戻って、歴史の話だ。
石碑って何の話だ?
「おっと、ヒトゥリは分からねえか。ドラゴン達との戦争が終わった後、生き残った錬金術師の友人の1人が謝罪として、入口の上に石碑を建てたんだよ。入口にあったあれだ」
「石碑には錬金術師への謝罪と感謝の言葉が書かれているって話だぜ。一度裏切ってしまった友への想い……考えるだけで涙が出そうだぜ」
「あんたって以外と人情家ね……」
スニックが人情家とかはともかく興味深い話だ。
特に読めないという辺りが。
何が興味深いのかって、なぜなら俺には読めたからだ。
あそこには確かに謝罪のような文書が書かれていた。
そして皆には読めなかったと言われて、ようやく気付いたがあれはドラゴンの使っている言語だった。
俺の持っているスキル本でよく目にするせいで、すぐには違和感に気付けなかった。
しかし、だとすれば石碑を建てたのは竜言語に精通した人間って事になる。
石碑を建てた友人って一体何者なんだ?
「おっと、止まってくだせえ。敵です」
一番前を歩いていたラットが振り返らずに、こちらに手を伸ばし静止させた。
腰のダガーに手を伸ばし、まっすぐ伸ばした視線の先には鉄で形成された体のゴーレムがいる。
こちらに気付いているのか、いないのかゴーレムは微動だにせず仁王立ちをしている。
恐らく一定の距離まで近づいた敵を検知して倒す命令を受けているのだろうが、こうしてみると黙って立っている巨大な鎧というのは異様な威圧感がある。
ゴーレムは魔法使いの命令を忠実に実行する人形の事で、土や岩から木や肉まで様々な素材で体を作る事ができる。
耐久力は使用した素材に依るそうだが、鉄ともなると相当堅そうだ。
「お前ら2人は俺達のやり方を見てな。今回は俺達だけでやらせてもらうぜ」
スニックが大斧を構え深く腰を落とす。
なるほど、あれなら鉄の鎧でも壊せる破壊力があるだろう。
「いつも通りいくわよ。支援魔法の詠唱が終わるまで時間を稼いで」
詠唱ありって事はヴェウェックは魔法スキル持ちじゃないのか。
独学で魔法を身に着けるのは大変だと聞くし、やはり冒険者にはなるからには色々とあったのかな。
「了解! スニックはあっしの後ろで待っていてくれよ! 後ろを向かせるから、そのタイミングで頼むぜ!」
そう言って、ラットがゴーレムに突っ込んでいく。
敵を検知したゴーレムが巨大な両刃剣を背中より引き抜く。
「敵……検知。アタッカー1、サポーター2、タンク0……汎用戦闘開始」
鎧の兜の隙間から赤い光がキラリと煌めき、機械的な音声が流れる。
起動と共にモーターか何かが回転する音がダンジョンの壁に反響する。
「ロ、ロボだこれー!」
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