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ダンジョン合流
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次の日、俺はジョンとギルドで合流して共にダンジョンに向かっていた。
街の門を抜けてしばらく歩いているが、俺達と同じような冒険者の姿がちらほらと見える。
彼らもダンジョンに探索に向かうのだろうか。
ダンジョンというのは冒険者の主な収入源の1つで、毎日多くの冒険者がダンジョン内を探索して物資を持ち帰っているそうだ。
このセラフィ王国の王都デウセルクも、ダンジョン内の魔物から採れた鉱石や建材で造られた街と言われるほどだ。
歩き続けると、ついにダンジョンの姿が見えてきた。
一目見た限りでは廃墟と化したこの国の一般的なアパートにしか見えない。
しかし実際はその内部にある石碑の下に偽装された扉があり、そこがダンジョンへの入口だそうだ。
「そういえば、ジョン。今日は他にも一緒にダンジョン探索をするパーティーメンバーがいるんだよな?」
「ああ、3人組のヒューマンでな。見た目はアレだが気の良い奴らなんだ。お前が来るって行ったら、あいつらも来たいって言ってよ……いた! ほら、あそこにいる奴らだよ。おーい!」
ジョンがダンジョン前の休憩所のような場所に手を振ると、そこにいた3人組がこちらに気付いて手を上げる
「……おい、なんかあからさまに怪しそうな奴らだけど大丈夫なのか?」
「大丈夫だって安心しろよ、あいつら気の良い奴らなんだぜ? この前も酒を奢ってくれたんだ!」
こいつもしかして酒を奢られたらどんな奴でも良い奴って言うんじゃないのか?
うーん、なんかあんまり信用できないな。
少し警戒しておこう。
近づいてみると、いかにも悪役のような面構えをした3人組が俺達を迎えてくれた。
「先に来てたんだな! 紹介するよ。こいつらが向かって左からラット、スニック、ヴェウェック。それでこっちがヒトゥリだ。仲良く頼むぜ」
「どうも、ヒトゥリだ。ダンジョンは初めてだが足は引っ張らないようにするよ」
「ラットってもんです。なぁに、気にしないでくださいよ。あっしらだって、ただの平均的な冒険者でさ。ヒトゥリさんみたいな有名な方とご一緒できて光栄ですよ!」
小悪党その1……じゃなかった。
身軽な装備に身を包んだ卑屈そうな男が頭を下げながら、笑いかけてくる。
「スニックだ。ラットはこう言ってるが、俺達のが先輩だ。ちょっと有名だからって調子に乗らず、敬えよ!」
それなりに良い体躯をした男が腕を組んで威張り散らしながら、にらみつけてくる。
背中に背負った大斧は腕力への自信の表れだろうか。
「ヴェウェック、プリースト。見て分かるだろうけど、回復役だよ」
紅一点。魔法使いに慣例のローブに身を包んだ女性が簡潔に自己紹介を済ませる。
なんだろう……偏見だけど日本にいたら、バーとかで1人でタバコ吸ってそうな感じの女性だ。
全員癖の強いというか、なんか信用しにくい感じの人達だな。
「ああ、3人共今日はよろしく頼むぜ。こいつらは斥候、攻撃、回復、3人でバランスの取れたパーティーなんだ。俺達が入っても基本的にこいつらに合わせる事になるぞ」
ジョンが言ったように3人はこれで完成しているようなパーティー構成だ。
ラットは見た目通りに罠解除や索敵、スニックは硬い敵へのアタッカー、ヴェウェックはサポートをしてくれる。
その中に俺達2人が入るとしたら、俺は戦闘で物理攻撃の利きにくい相手に魔法を使えって、ジョンは剣で素早く相手を……。
と言って、そこでジョンを見て今日感じていた違和感が何か理解した。
「あれ? ジョン、お前の武器って剣じゃなかったか? なんでハンマーを持ってるんだ?」
ジョンがいつも腰に差している剣は無く、代わりにスニックと同じ様に背中にトゲ付きハンマーを背負っていた。
普段のジョンの剣と比べれば、小回りの利かない扱いの異なる武器だ。
「ここにいる魔物は体が硬いゴーレムがメインだからな。剣だと刃が通らないんだ。……すまん、知ってると思って言わなかったんだ。ヒトゥリの装備はそれで大丈夫なのか?」
ジョンは俺の持つ薙刀を指差して言った。
なるほど、通りで周りにいる冒険者も剣を持っている奴が少ないわけだ。
正直今の俺の力量なら岩でも割れるし、ゴーレム相手でも問題はないが……。
「おいおい、冗談だろ? 人間相手の軍人や傭兵ならともかく、武器を変えるなんて俺達冒険者の間じゃ常識だろ。本当にこんなんで大丈夫なのか?」
「……全く問題ないな。これでも大抵の事は一通りできる自信がある、戦闘もな。むしろお前の方がそのデカい斧に振り回されないか心配だよ」
「なんだと、テメエやんのか!」
スニックの言葉にムッとして言い返すと、拳を振り上げてこちらに飛びかかってくる。
キレるの早すぎだろ……。
ギルドに入って最初に襲い掛かってきた男の様に、拳を破壊する事はできる。
だが、こいつとはこれからダンジョンを探索するのだし怪我はさせられない。
……ああ閃いた。
スニックの手が俺の首元を掴み、そして締め上げると思われたその瞬間。
「イデェ! な、なんだこれ……」
スニックの手と俺の首の間に閃光が煌めいた。
恐らくスニックの手には今、痺れと鋭い痛みが発生している事だろう。
昨日獲得した『静電気』が早速役に立ったな。
「もうやめろ! ヒトゥリさんが今何をしたのか分からねえが、お互いこれから探索するんだぞ。喧嘩はやめてくれ!」
俺とスニックの間にラットが立つ。
若干止めるのが遅かった気もするけど、ラットの言う通りだ。
「フンッ」
スニックは居心地悪そうに手をさすりながら、俺をにらんで背を向けた。
このパーティーで本当に大丈夫なのか?
「おい、ヴェウェック。手が痛む。治療してくれ」
「それくらい、放っとけば治るわよ。あーあ、面倒くさいわ……」
ヴェウェックが額に手を当てて大きなため息を零す。
心底同意するよ……。
多分その面倒には俺も入っているんだろうけど。
「あー、なんだ、その……。何だかあまり相性が良いとは言えないみたいだが、仲良く頼むぜ。顔合わせはこれで終わったな? ダンジョンに入ろう。ラット、先導を頼む。ヒトゥリの面倒は俺が見るから3人はいつも通りにやってくれ」
スニックは居心地悪そうにしていたが、ジョンはそれ以上だろう。
なんたって俺達を合わせたのはジョンなんだから。
なんか釈然としないけど、ジョンの為にも少しはこいつらと仲良くする……努力をしよう!
街の門を抜けてしばらく歩いているが、俺達と同じような冒険者の姿がちらほらと見える。
彼らもダンジョンに探索に向かうのだろうか。
ダンジョンというのは冒険者の主な収入源の1つで、毎日多くの冒険者がダンジョン内を探索して物資を持ち帰っているそうだ。
このセラフィ王国の王都デウセルクも、ダンジョン内の魔物から採れた鉱石や建材で造られた街と言われるほどだ。
歩き続けると、ついにダンジョンの姿が見えてきた。
一目見た限りでは廃墟と化したこの国の一般的なアパートにしか見えない。
しかし実際はその内部にある石碑の下に偽装された扉があり、そこがダンジョンへの入口だそうだ。
「そういえば、ジョン。今日は他にも一緒にダンジョン探索をするパーティーメンバーがいるんだよな?」
「ああ、3人組のヒューマンでな。見た目はアレだが気の良い奴らなんだ。お前が来るって行ったら、あいつらも来たいって言ってよ……いた! ほら、あそこにいる奴らだよ。おーい!」
ジョンがダンジョン前の休憩所のような場所に手を振ると、そこにいた3人組がこちらに気付いて手を上げる
「……おい、なんかあからさまに怪しそうな奴らだけど大丈夫なのか?」
「大丈夫だって安心しろよ、あいつら気の良い奴らなんだぜ? この前も酒を奢ってくれたんだ!」
こいつもしかして酒を奢られたらどんな奴でも良い奴って言うんじゃないのか?
うーん、なんかあんまり信用できないな。
少し警戒しておこう。
近づいてみると、いかにも悪役のような面構えをした3人組が俺達を迎えてくれた。
「先に来てたんだな! 紹介するよ。こいつらが向かって左からラット、スニック、ヴェウェック。それでこっちがヒトゥリだ。仲良く頼むぜ」
「どうも、ヒトゥリだ。ダンジョンは初めてだが足は引っ張らないようにするよ」
「ラットってもんです。なぁに、気にしないでくださいよ。あっしらだって、ただの平均的な冒険者でさ。ヒトゥリさんみたいな有名な方とご一緒できて光栄ですよ!」
小悪党その1……じゃなかった。
身軽な装備に身を包んだ卑屈そうな男が頭を下げながら、笑いかけてくる。
「スニックだ。ラットはこう言ってるが、俺達のが先輩だ。ちょっと有名だからって調子に乗らず、敬えよ!」
それなりに良い体躯をした男が腕を組んで威張り散らしながら、にらみつけてくる。
背中に背負った大斧は腕力への自信の表れだろうか。
「ヴェウェック、プリースト。見て分かるだろうけど、回復役だよ」
紅一点。魔法使いに慣例のローブに身を包んだ女性が簡潔に自己紹介を済ませる。
なんだろう……偏見だけど日本にいたら、バーとかで1人でタバコ吸ってそうな感じの女性だ。
全員癖の強いというか、なんか信用しにくい感じの人達だな。
「ああ、3人共今日はよろしく頼むぜ。こいつらは斥候、攻撃、回復、3人でバランスの取れたパーティーなんだ。俺達が入っても基本的にこいつらに合わせる事になるぞ」
ジョンが言ったように3人はこれで完成しているようなパーティー構成だ。
ラットは見た目通りに罠解除や索敵、スニックは硬い敵へのアタッカー、ヴェウェックはサポートをしてくれる。
その中に俺達2人が入るとしたら、俺は戦闘で物理攻撃の利きにくい相手に魔法を使えって、ジョンは剣で素早く相手を……。
と言って、そこでジョンを見て今日感じていた違和感が何か理解した。
「あれ? ジョン、お前の武器って剣じゃなかったか? なんでハンマーを持ってるんだ?」
ジョンがいつも腰に差している剣は無く、代わりにスニックと同じ様に背中にトゲ付きハンマーを背負っていた。
普段のジョンの剣と比べれば、小回りの利かない扱いの異なる武器だ。
「ここにいる魔物は体が硬いゴーレムがメインだからな。剣だと刃が通らないんだ。……すまん、知ってると思って言わなかったんだ。ヒトゥリの装備はそれで大丈夫なのか?」
ジョンは俺の持つ薙刀を指差して言った。
なるほど、通りで周りにいる冒険者も剣を持っている奴が少ないわけだ。
正直今の俺の力量なら岩でも割れるし、ゴーレム相手でも問題はないが……。
「おいおい、冗談だろ? 人間相手の軍人や傭兵ならともかく、武器を変えるなんて俺達冒険者の間じゃ常識だろ。本当にこんなんで大丈夫なのか?」
「……全く問題ないな。これでも大抵の事は一通りできる自信がある、戦闘もな。むしろお前の方がそのデカい斧に振り回されないか心配だよ」
「なんだと、テメエやんのか!」
スニックの言葉にムッとして言い返すと、拳を振り上げてこちらに飛びかかってくる。
キレるの早すぎだろ……。
ギルドに入って最初に襲い掛かってきた男の様に、拳を破壊する事はできる。
だが、こいつとはこれからダンジョンを探索するのだし怪我はさせられない。
……ああ閃いた。
スニックの手が俺の首元を掴み、そして締め上げると思われたその瞬間。
「イデェ! な、なんだこれ……」
スニックの手と俺の首の間に閃光が煌めいた。
恐らくスニックの手には今、痺れと鋭い痛みが発生している事だろう。
昨日獲得した『静電気』が早速役に立ったな。
「もうやめろ! ヒトゥリさんが今何をしたのか分からねえが、お互いこれから探索するんだぞ。喧嘩はやめてくれ!」
俺とスニックの間にラットが立つ。
若干止めるのが遅かった気もするけど、ラットの言う通りだ。
「フンッ」
スニックは居心地悪そうに手をさすりながら、俺をにらんで背を向けた。
このパーティーで本当に大丈夫なのか?
「おい、ヴェウェック。手が痛む。治療してくれ」
「それくらい、放っとけば治るわよ。あーあ、面倒くさいわ……」
ヴェウェックが額に手を当てて大きなため息を零す。
心底同意するよ……。
多分その面倒には俺も入っているんだろうけど。
「あー、なんだ、その……。何だかあまり相性が良いとは言えないみたいだが、仲良く頼むぜ。顔合わせはこれで終わったな? ダンジョンに入ろう。ラット、先導を頼む。ヒトゥリの面倒は俺が見るから3人はいつも通りにやってくれ」
スニックは居心地悪そうにしていたが、ジョンはそれ以上だろう。
なんたって俺達を合わせたのはジョンなんだから。
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