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商人娘との出会い
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今日も工事現場の依頼を終えて、ギルドに報告に向かうため親方に証明書を貰いに行く。
「お疲れさまでした親方。お先に失礼します」
「おう、ヒトゥリ! お疲れ! ……お前が来てくれてから本当に助かってるぜ、いっそ俺の所に弟子入りしねえか? お前なら最初からある程度の作業は任せられるしよ、金もギルドに半分近く取られてる今より出せるぜ」
「遠慮しておきます。俺は旅人なので、この街に定住する事はありませんし、今のが合ってます」
「そうか、残念だ。……また依頼を受けてくれよな。お前は文字通り百人力だぜ」
まあドラゴンだし、と口には出さずに思う。
他の仕事仲間にも挨拶をしてから現場を離れた。
トラブルとかは起こしたくないし、こういう挨拶はしておくに限る。
目を付けられれば厄介な事になるのは前世で嫌というほどに体験した。
現場から1区画離れた路地に入って、魔法で簡単に汚れを落として通りに出る。
そこは今日も仕事帰りの、少し汚れくたびれた人間達で賑わっていた。
俺がこの王都に来てから2週間経った。
こうして俺は無事毎日を過ごせている。
と言っても、やっている事は初日と変わらず工事現場と『魔工』で作った魔道具の卸売り程度だ。
街に来た割りには、経験を積めているとは思えない。
受付に依頼達成の証明書を渡して備え付けの酒場に座る。
給仕に適当に飲み物を頼んで飲んでいると、見知った顔が近寄ってきた。
「よお、どうしたヒトゥリ。酒を飲んでるのに悩んでる風じゃねえか」
「ジョンか……。いや、せっかく王都に来たのにやっている事が毎日変わらなくてな」
俺の言葉を聞いたジョンが肩をすくめて半笑いしながら答えた。
「そりゃそうだろ、工事現場の依頼しか受けてねえんだから。お前、冒険者といえば冒険だぜ? 魔物討伐、ダンジョン探索、珍品捜索……そういう依頼をこそが冒険だ。なあお前の百人力の評判は聞いてるし、会った初日にドンケツを倒したのも見た。どうだ? 俺とパーティーを組まないか? お前とだったら凶悪な魔物だって倒せるぜ!」
「そうはいってもな……やっぱりやめておくよ」
一気にまくし立ててくるジョンに少し引き気味に断ると、ジョンはオーバーリアクションにがっかりして、酒を一気飲みする。
そんなリアクションをされても、俺だって本当はドラゴンで魔物の言葉が分かる。
俺が魔物と討伐するなんて、人殺しとほとんど変わらない程の忌避感があるんだよ。
でも待て……今ジョンはなんて言った?
魔物討伐、ダンジョン探索、珍品捜索……ダンジョン探索?
ダンジョンって何だ?
「なあ、ダンジョンって何だ?」
「その質問には私が答えます」
むさくるしい酒場に似つかわしくない、かわいらしい少女の声が俺達の間に挟まれた。
いつの間にか、俺とジョンのテーブルに受付のプラムもついていた。
プラムも仕事終わりなのだろう。
たまにこうやって俺とジョンが話している所に食事を食べにくる事がある。酒は飲まないけど。
「ダンジョンとは起源様々な謎の建築物の総称です。古代の遺跡だったり、魔法使いの研究所だったり色々ですが、共通するのは罠や魔物の危険と、宝物と呼べる価値ある物品がある事です。冒険者は私達の出す依頼とは別に、そこを探検して名を挙げたり富を得たりするそうです」
俺の思い描いていた通りのダンジョンって感じだな。
それは楽しそうだし、なにより魔物討伐以外で戦闘の経験を積める機会だ。
行ってみるのもいいかもな。
「この近くのダンジョンは王都管理下にある生命錬金の迷宮だ、どっかの錬金術師の作った地下迷宮でやたらと人を模した魔法生命体が多いから、人を作ろうとして滅んだって言われてるぜ。どうだ? 行ってみるか」
俺が興味を示したを見てジョンが誘いをかけてくる、しかし。
「そうだな。今度行ってみよう……だけど、今はそれよりも優先すべき事がある」
「なんだそれ、アクセサリー?」
俺は机の上に作成した魔道具を並べた。
ネックレスや指輪、布で作ったお守り等々。
「これ全部、在庫だよ。俺の作った魔道具の。卸していた店が今日見たら潰れていたんだ。次の卸売り先を見つけないと、実は今日の宿賃で金がなくなる」
「ぶっ! は……はあ!? 何だってそんな……お前には計画性がないのか!」
ジョンに怒られるとは思ってなかった。
だが、考えなしに持ち金を全部使って『魔工』の材料を買ったのは俺だ。悲しい事に反論はできない。
初日に中々の値段で売れる事が分かったので、翌日にアクセサリーを買い占めた。
そして完成した魔道具を初日に卸した店に持っていくと、その店は潰れていた。
なんとか見つけた次の卸売り先も翌日には潰れていた。
その次もその次もその次も……。俺の作った魔道具が疫病神なのかと疑ったくらいだ。
そんな生活の中、初日に入った宿の飯が不味くて、外食を繰り返していたらいつの間にかお金が無くなっていた。
生活費を圧迫する程に食費が掛かるなんて驚きだけど、ドラゴンだし人より食べる量が多いから仕方ないね。
いざとなれば街の外で獣を狩ればいいし。
「ははは、呆れたもんだ」
「ははは、じゃないですよ、自分の事を他人事みたいに言って! ヒトゥリさんみたいな街の中の依頼を受けてくれる人は珍しいんですからね! ちょっと来てください!」
唐突に立ち上がったプラムに手を引かれてギルドを出る。
あまりにも素早かったので、支払いはジョンに任せる事になってしまった。
ジョンに少し申し訳なく思いながらも、早歩きで先を行くプラムについていくと、大きな館に着いた。
プラムが俺を連れて中に入ると、執事服を着た男が出迎えた。
「お帰りなさいませ。プラムお嬢様……そちらの男性は冒険者の方ですか?」
「私の友人よ。御姉様はいるかしら? 話がしたいの」
「いらっしゃいますが、しかし……応接室でお待ちください」
執事が何か言いかけたが、プラムの一睨みが効いたのか俺達の案内を他の使用人に任せると、2階へと上がっていった。
俺達が応接室に通されて、出されたお茶を飲んで待っていると、しばらくしてプラムより少し年上くらいの少女が応接室に入ってきた。
「お待たせしましたお客様……プラムの姉のソリティア・フィランジェットと申します」
「初めまして、冒険者のヒトゥリです。プラムさんの友人です」
挨拶をして、ソリティアと名乗った少女をそれとなく観察する。
まだ幼い容姿ながらも豪華なドレスや宝石を身に着け、所作には貴人の気品がある。
分かってはいたが、やはり野盗に襲われていたあの少女だ。
ソリティアは俺達の対面に座りプラムを見る。
「それで、なぜ急に友人を連れて私に話を……まさか、恋人だとでも言うんじゃ……!」
「ちーがいーまーす! お姉ちゃ……御姉様ったら、私はそういう人を急に連れてくるような事はしません!」
「そ、そう……ならいいわ。それなら何の用事で訪ねてきたのかしら」
ソリティアはソファから乗り出していた身を戻し、お茶を飲んで落ち着いている。
最初の印象と違って面白い人だな、と考えているとプラムに肘でつつかれた。
横を向くとプラムが何かを訴えかけるような目で見ていた。
ああ、そうか。
俺は仕舞っていた魔道具を取り出し、机に置いた。
カップを持ち上げていた手を止め、ソリティアはそれを手に取り、眺めた。
「これは?」
「ヒトゥリの作った魔道具です。卸し先の店が潰れたらしくて、持て余しているんです。御姉様の商会で取り扱えませんか?」
「駄目よ」
姉は妹の頼み事をたった一言で断った。
驚いたプラムが「どうして」と言葉に出す前にソリティアは答えた。
「確かに私たちの商会でも魔道具は取り扱っているわ。けど妹の御友人だからという理由では取り扱いはしないわ。それが商人としての誇りよ」
「それなら……それなら、御姉様のスキルで確かめればいいじゃない! それで駄目だったら諦めるわ」
口調を崩して訴えかける妹を見て、呆れたような仕草を見せながらソリティアは俺の作った魔道具を手に取った。
なんだか、少し居心地が悪いな。これだとまるで俺が姉妹喧嘩の発端になったみたいじゃないか。
しかしスキルで確かめるとはどういう事だろう。気になる。
ソリティアを観察していると、手に取った魔道具をただ見つめているようにしか見えない。
「御姉様は『鑑定眼』のスキルで道具や美術品の詳細や価値が分かるんです」
ああ、確かにそういうスキルもオーラに貰った本に載っていたな。
物の価値や構造、薄い魔力や魂や感情、果ては未来や過去などの普通は見えない物を見るスキル――所謂、『魔眼』と称されるスキル群だ。
道具や美術品って事は俺がドラゴンだとバレるのは気にしなくて良さそうだ。
冷や汗を拭って安心していると、目の前のソリティアも同じように冷や汗をかいていた。
「どうしたの……御姉様? 大丈夫、顔色が悪いよ?」
プラムが声を掛けてようやくソリティアは声を絞り出した。
「……ヒトゥリさん、あなた、ドラゴンの魔法なんてどこで?」
なるほど、こういうバレかたもあるのか。
「お疲れさまでした親方。お先に失礼します」
「おう、ヒトゥリ! お疲れ! ……お前が来てくれてから本当に助かってるぜ、いっそ俺の所に弟子入りしねえか? お前なら最初からある程度の作業は任せられるしよ、金もギルドに半分近く取られてる今より出せるぜ」
「遠慮しておきます。俺は旅人なので、この街に定住する事はありませんし、今のが合ってます」
「そうか、残念だ。……また依頼を受けてくれよな。お前は文字通り百人力だぜ」
まあドラゴンだし、と口には出さずに思う。
他の仕事仲間にも挨拶をしてから現場を離れた。
トラブルとかは起こしたくないし、こういう挨拶はしておくに限る。
目を付けられれば厄介な事になるのは前世で嫌というほどに体験した。
現場から1区画離れた路地に入って、魔法で簡単に汚れを落として通りに出る。
そこは今日も仕事帰りの、少し汚れくたびれた人間達で賑わっていた。
俺がこの王都に来てから2週間経った。
こうして俺は無事毎日を過ごせている。
と言っても、やっている事は初日と変わらず工事現場と『魔工』で作った魔道具の卸売り程度だ。
街に来た割りには、経験を積めているとは思えない。
受付に依頼達成の証明書を渡して備え付けの酒場に座る。
給仕に適当に飲み物を頼んで飲んでいると、見知った顔が近寄ってきた。
「よお、どうしたヒトゥリ。酒を飲んでるのに悩んでる風じゃねえか」
「ジョンか……。いや、せっかく王都に来たのにやっている事が毎日変わらなくてな」
俺の言葉を聞いたジョンが肩をすくめて半笑いしながら答えた。
「そりゃそうだろ、工事現場の依頼しか受けてねえんだから。お前、冒険者といえば冒険だぜ? 魔物討伐、ダンジョン探索、珍品捜索……そういう依頼をこそが冒険だ。なあお前の百人力の評判は聞いてるし、会った初日にドンケツを倒したのも見た。どうだ? 俺とパーティーを組まないか? お前とだったら凶悪な魔物だって倒せるぜ!」
「そうはいってもな……やっぱりやめておくよ」
一気にまくし立ててくるジョンに少し引き気味に断ると、ジョンはオーバーリアクションにがっかりして、酒を一気飲みする。
そんなリアクションをされても、俺だって本当はドラゴンで魔物の言葉が分かる。
俺が魔物と討伐するなんて、人殺しとほとんど変わらない程の忌避感があるんだよ。
でも待て……今ジョンはなんて言った?
魔物討伐、ダンジョン探索、珍品捜索……ダンジョン探索?
ダンジョンって何だ?
「なあ、ダンジョンって何だ?」
「その質問には私が答えます」
むさくるしい酒場に似つかわしくない、かわいらしい少女の声が俺達の間に挟まれた。
いつの間にか、俺とジョンのテーブルに受付のプラムもついていた。
プラムも仕事終わりなのだろう。
たまにこうやって俺とジョンが話している所に食事を食べにくる事がある。酒は飲まないけど。
「ダンジョンとは起源様々な謎の建築物の総称です。古代の遺跡だったり、魔法使いの研究所だったり色々ですが、共通するのは罠や魔物の危険と、宝物と呼べる価値ある物品がある事です。冒険者は私達の出す依頼とは別に、そこを探検して名を挙げたり富を得たりするそうです」
俺の思い描いていた通りのダンジョンって感じだな。
それは楽しそうだし、なにより魔物討伐以外で戦闘の経験を積める機会だ。
行ってみるのもいいかもな。
「この近くのダンジョンは王都管理下にある生命錬金の迷宮だ、どっかの錬金術師の作った地下迷宮でやたらと人を模した魔法生命体が多いから、人を作ろうとして滅んだって言われてるぜ。どうだ? 行ってみるか」
俺が興味を示したを見てジョンが誘いをかけてくる、しかし。
「そうだな。今度行ってみよう……だけど、今はそれよりも優先すべき事がある」
「なんだそれ、アクセサリー?」
俺は机の上に作成した魔道具を並べた。
ネックレスや指輪、布で作ったお守り等々。
「これ全部、在庫だよ。俺の作った魔道具の。卸していた店が今日見たら潰れていたんだ。次の卸売り先を見つけないと、実は今日の宿賃で金がなくなる」
「ぶっ! は……はあ!? 何だってそんな……お前には計画性がないのか!」
ジョンに怒られるとは思ってなかった。
だが、考えなしに持ち金を全部使って『魔工』の材料を買ったのは俺だ。悲しい事に反論はできない。
初日に中々の値段で売れる事が分かったので、翌日にアクセサリーを買い占めた。
そして完成した魔道具を初日に卸した店に持っていくと、その店は潰れていた。
なんとか見つけた次の卸売り先も翌日には潰れていた。
その次もその次もその次も……。俺の作った魔道具が疫病神なのかと疑ったくらいだ。
そんな生活の中、初日に入った宿の飯が不味くて、外食を繰り返していたらいつの間にかお金が無くなっていた。
生活費を圧迫する程に食費が掛かるなんて驚きだけど、ドラゴンだし人より食べる量が多いから仕方ないね。
いざとなれば街の外で獣を狩ればいいし。
「ははは、呆れたもんだ」
「ははは、じゃないですよ、自分の事を他人事みたいに言って! ヒトゥリさんみたいな街の中の依頼を受けてくれる人は珍しいんですからね! ちょっと来てください!」
唐突に立ち上がったプラムに手を引かれてギルドを出る。
あまりにも素早かったので、支払いはジョンに任せる事になってしまった。
ジョンに少し申し訳なく思いながらも、早歩きで先を行くプラムについていくと、大きな館に着いた。
プラムが俺を連れて中に入ると、執事服を着た男が出迎えた。
「お帰りなさいませ。プラムお嬢様……そちらの男性は冒険者の方ですか?」
「私の友人よ。御姉様はいるかしら? 話がしたいの」
「いらっしゃいますが、しかし……応接室でお待ちください」
執事が何か言いかけたが、プラムの一睨みが効いたのか俺達の案内を他の使用人に任せると、2階へと上がっていった。
俺達が応接室に通されて、出されたお茶を飲んで待っていると、しばらくしてプラムより少し年上くらいの少女が応接室に入ってきた。
「お待たせしましたお客様……プラムの姉のソリティア・フィランジェットと申します」
「初めまして、冒険者のヒトゥリです。プラムさんの友人です」
挨拶をして、ソリティアと名乗った少女をそれとなく観察する。
まだ幼い容姿ながらも豪華なドレスや宝石を身に着け、所作には貴人の気品がある。
分かってはいたが、やはり野盗に襲われていたあの少女だ。
ソリティアは俺達の対面に座りプラムを見る。
「それで、なぜ急に友人を連れて私に話を……まさか、恋人だとでも言うんじゃ……!」
「ちーがいーまーす! お姉ちゃ……御姉様ったら、私はそういう人を急に連れてくるような事はしません!」
「そ、そう……ならいいわ。それなら何の用事で訪ねてきたのかしら」
ソリティアはソファから乗り出していた身を戻し、お茶を飲んで落ち着いている。
最初の印象と違って面白い人だな、と考えているとプラムに肘でつつかれた。
横を向くとプラムが何かを訴えかけるような目で見ていた。
ああ、そうか。
俺は仕舞っていた魔道具を取り出し、机に置いた。
カップを持ち上げていた手を止め、ソリティアはそれを手に取り、眺めた。
「これは?」
「ヒトゥリの作った魔道具です。卸し先の店が潰れたらしくて、持て余しているんです。御姉様の商会で取り扱えませんか?」
「駄目よ」
姉は妹の頼み事をたった一言で断った。
驚いたプラムが「どうして」と言葉に出す前にソリティアは答えた。
「確かに私たちの商会でも魔道具は取り扱っているわ。けど妹の御友人だからという理由では取り扱いはしないわ。それが商人としての誇りよ」
「それなら……それなら、御姉様のスキルで確かめればいいじゃない! それで駄目だったら諦めるわ」
口調を崩して訴えかける妹を見て、呆れたような仕草を見せながらソリティアは俺の作った魔道具を手に取った。
なんだか、少し居心地が悪いな。これだとまるで俺が姉妹喧嘩の発端になったみたいじゃないか。
しかしスキルで確かめるとはどういう事だろう。気になる。
ソリティアを観察していると、手に取った魔道具をただ見つめているようにしか見えない。
「御姉様は『鑑定眼』のスキルで道具や美術品の詳細や価値が分かるんです」
ああ、確かにそういうスキルもオーラに貰った本に載っていたな。
物の価値や構造、薄い魔力や魂や感情、果ては未来や過去などの普通は見えない物を見るスキル――所謂、『魔眼』と称されるスキル群だ。
道具や美術品って事は俺がドラゴンだとバレるのは気にしなくて良さそうだ。
冷や汗を拭って安心していると、目の前のソリティアも同じように冷や汗をかいていた。
「どうしたの……御姉様? 大丈夫、顔色が悪いよ?」
プラムが声を掛けてようやくソリティアは声を絞り出した。
「……ヒトゥリさん、あなた、ドラゴンの魔法なんてどこで?」
なるほど、こういうバレかたもあるのか。
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