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旅立ちの朝空
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天業竜山の頂点から降りて、俺はすぐに旅に出発する事にした。
怪我はもう治っているし、そもそも俺は昨日この土地を出るつもりだった。
「うう、すまないヒトゥリ。私はあまり役に立てなかった……」
「気にするな。結局叱られる事はなかった」
俺に着いてきているルルドピーンが肩を落としている。
せっかくだから、見送りに来てくれるそうだ。
ただ、オーラに睨まれて委縮して俺をかばえなかった事を気にしているらしい。
ワンマン社長に意見するなんて、ほぼ不可能なのは俺も良く知っているし、別に気にしていないのに。
ルルドピーンを慰めながら、里の境界までくると、1人のドラゴンが立っていた。
岩のような鱗に大きな体躯。
こちらを見て心配そうな顔をしていたが、俺の元気な様子を見るといつも通りの自信に満ちた笑みに変わった。
「ヴィデンタスか。見送りに来たのか?」
「やっぱり行くんだな」
「オーラ……様からも餞別を貰ったし、俺は行くよ」
危うくオーラを呼び捨てにする所だった。
里から長の公認で出られると思って、気が抜けている。
ここはまだ里の中。気を抜いてはいけない。
「そう、か……。なあ、勝ち逃げされたが、次会う時には俺はもっと強くなってる。お前の変な戦い方になんて負けねえくらいにな」
「そうか、だけど今度はお前が探しに来れない場所だ。会うのは当分先になるぞ」
「そういう事じゃねえんだけど……。まあいいか。とりあえず元気でな」
まあ、ヴィデンタスは俺が里を出る事をそれほど気にしないだろう。
こいつには他に五龍王になるという夢がある。
俺の事を気にするよりも、他にやるべき事が山ほどあるだろう。
対してルルドピーンは先程俺をかばえなかった事をまだ気にしているようだ。律儀だな。
ルルドピーンが鱗を剥がし始めたので、何事かと見ていると、剥がし終えたそれを俺に渡してきた。
「せめてこの鱗を持って行ってくれ……。人間の間では高価で取引されているようだから。ヒトゥリの役に立つだろう?」
「あ、ありがとう。受け取っておくよ」
渡された鱗は薄青く、確かに宝石のようで価値がありそうだ。
だが、この子は何というか……。責任感が強すぎないか?
鱗とか剥がすの痛いし、普通里を出るってだけでここまではしないだろう。
だが貰えるというのなら、ありがたく受け取っておこう。
俺は受け取った物を道具入れにしまい、2人に礼を言うと里を出発した。
里を出て、翼で空を飛ぶ。
この速さなら、聞いた街の近くまで数時間だろう。
途中で人間化して徒歩にするとしても、今日中には街に着けるだろう。
樹海を上から見下ろす。
「……眷属達はどうなった?」
人間達に攻撃され、ほとんどが瀕死になっていた俺の眷属達。
ゴブリンもオーガもレッサードラゴンも、俺が見ていた最後まで動く事すらなかった。
ヴィデンタスが回復を行ってくれた。後は生命力次第だとあいつは言っていたが。
最後に見てもいいかもしれない。
俺は翼を曲げ、最後に眷属達を見た地点に方向転換した。
「ヒトゥリ様! 無事だったんスね!」
そして後ろから飛んできたレッサードラゴンにぶつかりかけた。
思わず大声を上げてレッサードラゴンから離れる。
そして驚いた。
レッサードラゴンの全身にあった傷はなくなり、完全に復帰している。
ドラゴンの系譜とはいえ、こんなにも早く傷が完治するものなのか?
ともかく、俺はレッサードラゴンに言葉を返した。
「なんだレッサードラゴン、死んでなかったのか」
「うわあ~、酷いっスよ! 私は群れの皆を守るために全力を尽くしたっていうのに!」
「す、すまん」
空中で暴れるレッサードラゴンに思わず謝る。
つい驚いて、失言してしまった。
こいつはこいつなりにこの樹海の主としての、役目を果たしたのだろう。
反省しよう。
だが、本当になんで死んでなかったんだ?
ヴィデンタスには回復してもらうように頼んだが、望みは薄いと感じていた。
それが、傷跡も見えないくらいに回復している。
これはヴィデンタスの回復の効果だけでは、ありえない。
「へっへっへ。なんで生き延びたんだって顔をしているんで、答えましょう! それは私がユニークスキル『草の根根性』に目覚めたからっス!」
『草の根根性』……。
当たり前だが知らないスキルだ。ユニークスキルはほとんど前例がないし、得た本人が申告しなければ効果も分からないしな。
「『草の根根性』は生き延びるためのスキル。仲間が多い程、私と私の仲間が死ににくくなるスキルっス! 今の群れの数だと心臓を貫かれても、手当てされれば何とか死なないぐらいっス」
今の群れの数、大体28人か。
それだけの数で、心臓を貫かれても死なない?
純粋に効果が高いのか、それとも数の少ない最初だけ効果が大きいのか。
ん?ちょっと待て。
「私と私の仲間って事はつまり……」
「はい! 群れの皆、まだ生きてるっス! ほとんど全員元気いっぱいっス。これもヒトゥリ様が私達を助けに来てくれたおかげっス」
そうか、良かった……。
眷属や部下としてはいらないと言ったが、それでも死なれれば気分は悪い。
仮にも俺の事を主として崇めていた奴らだ。
その効果は主である俺には適用されないようだが、それでもよかった。
「さあ、ヒトゥリ様! 皆に会いに行きましょう。皆、喜ぶっスよ!」
レッサードラゴンが、樹海の中へと俺を先導しようとする。
「いや……俺は会いに行かない」
「な、なんで……」
「俺は旅に出る。人間の街に行くんだ」
レッサードラゴンが、目を見開く。
しまった。また失言したか。
当たり前だろう。
こいつにとっては、人間は自分の仲間を殺しかけた奴らだ。
それに俺よりも長生きで、今までに人間が魔物を殺す光景など何度も見ている。
そんなレッサードラゴンが、俺が人間の街に行くのに賛成するはずが……。
「す、すごいっス!」
「は?」
「すごいっス! ヒトゥリ様は強くなり、人間を見返すために、あえて人間達の街に行くっスね!」
そういうわけじゃないんだが。
何だか勝手に良い方に解釈されてしまった。
「どうぞ行ってくださいっス! 群れの皆には私から言っておくっス!」
レッサードラゴンは尻尾を振って俺を送り出そうとする。
その言葉に甘えて俺が、その場から離れようとすると、レッサードラゴンが「あ」と声を出した。
「どうした?」
「いえ、その……言いにくいんっスけど……。私も人間の街に連れて行ってくれないっスか?」
そう言ってレッサードラゴンは遠慮がちにうつむく。
レッサードラゴンを人間の街に連れていく……か。
こいつには色々と世話になった。
そして人間の文化について少し勉強したが、未だレッサードラゴンの方が長生きな分、人間の文化に詳しい。
「だが、駄目だ」
「えー! なんでっスか?」
「まず呼び名が無いのが旅の同行者としては不便だし、そもそもお前人間化できないだろ。それじゃあ人間の街に入ることすらできないじゃないか」
痛い所を突かれ、レッサードラゴンがうめく。
しばらく頭を抱えてその場でぐるぐると旋回していたが、ようやく何かを思いつき顔を輝かせた。
「そうだ! 私が人間化できるようになればいいんスよね?」
「ああ、そうだな。そうなれば一応人間の街に入れる」
「だったら……進化すればいいんスよ!」
進化?
ああ、レッサードラゴンからの進化か。
確かドラゴンの系譜的に段階を踏むとしたら、次はコモンドラゴン。俺と同じ種族だ。
「コモンドラゴンになれば、『竜魔術』のスキルが獲得できるって聞いたっス。そうすれば人間化もできて人間の街に入ることもできるっス!」
確かに。
俺と同じになれば、俺と同じ事ができるようになる。道理だな。
そうなれば戦力としても頼れるだろう。
だが……。
「名前の問題はどうするつもりだ?」
「ふっふっふ。それもちゃんと考えてあるっス! ズバリ、ヒトゥリ様に付けてもらえばいいんスよ!」
「俺が?……分かった。いいよ」
以前、俺は群れの全員に名前を付ける事を拒否したし、特にレッサードラゴンに至っては会った直後くらいに、名前をせがまれて断った記憶がある。
だから今回も断ろうと思ったのだが……。
レッサードラゴンが必死に俺についてこようとする姿を見て、どうしても断り切れなくなってしまった。
やはり強く頼まれると断り切れないのが、俺の性という事なのか……。
この性で散々苦労したのに、変えようと思っても変えられないものである。
「やったー! いいんスね? 言質取ったスよ? やっぱなしとかは、なしっスよ!」
「ああ、ちゃんと付けるよ。ヌルヌル……はどうだ?」
「え?……なんかそれを名乗るのは嫌っス。ふざけないで真面目に付けてほしいっス」
やはりだめだったか。
何がいいだろうか。
恥ずかしながら俺にはネーミングセンスがない。主人公に名前を付けるタイプのRPGゲームでは毎回聖の奴に付けた名前でドン引かれていた。
自分ではいい名前と思っているんだがな。
あ、そうだ。
「フェイ……フェイテールでどうだ? ドラゴンの名前ってこんな感じだろう?」
「フェイっスか。フェイテール、フェイテール……おお、馴染むっス!」
フェイト(運命)をもじってドラゴンっぽく付けた名前だけど、気に入ってもらえたようだ。
レッサードラゴン……フェイテールの喜んでいる姿を見ていると、何か慣れない物を感じる。あ、暖かい父性とかの感情とかじゃない。
どうやら俺はフェイテールの体調や位置が、何となく分かるようになったようだ。
これが名付けたことによる関係の構築だろうか。
だとすれば、俺に名前を付けたオーラに俺の体調や位置を知られているという事だが……。
まあいいか。力の差が大きすぎて、知られようと知られまいと変わらないだろうし。
「これで名前を貰えたっス……。 、これが【名前】っスね。よーし! すぐに進化して追いつくから待っていてほしいっス!」
「ああ。約束だ。人間化できるようになったら、人間のヒトゥリを訪ねるか、眷属の契約の魔法的な繋がりを辿ってこい。『竜魔術』が使えるようになれば感覚的にでききるようになるから」
「分かったっス! これから頑張って鍛えてすぐにコモンドラゴンになって追いかけるっス! それまで、待っていてほしいス!」
は踊る様に空を舞い喜ぶ。
こんなに喜ばれると俺も何だか気分が良い。
眷属達が生きている事も分かったし、これでこの土地の心残りは無くなったかな。
「他の眷属の事を頼んだぞ、フェイ」
俺はまだ舞っているに別れを告げて、人間の街へ向けて勢いよく飛んだ。
途中、樹海の中に獣を追いかけるゴブリンとオーガ達を見た。
朝空の空気を吸って、吐く。
これでやっと俺も自由にスキル集めができる。
……途中で美味い飯を食べる事もできる。
いざ、人間の街【セラフィ王国・王都デウセルク】へ!
怪我はもう治っているし、そもそも俺は昨日この土地を出るつもりだった。
「うう、すまないヒトゥリ。私はあまり役に立てなかった……」
「気にするな。結局叱られる事はなかった」
俺に着いてきているルルドピーンが肩を落としている。
せっかくだから、見送りに来てくれるそうだ。
ただ、オーラに睨まれて委縮して俺をかばえなかった事を気にしているらしい。
ワンマン社長に意見するなんて、ほぼ不可能なのは俺も良く知っているし、別に気にしていないのに。
ルルドピーンを慰めながら、里の境界までくると、1人のドラゴンが立っていた。
岩のような鱗に大きな体躯。
こちらを見て心配そうな顔をしていたが、俺の元気な様子を見るといつも通りの自信に満ちた笑みに変わった。
「ヴィデンタスか。見送りに来たのか?」
「やっぱり行くんだな」
「オーラ……様からも餞別を貰ったし、俺は行くよ」
危うくオーラを呼び捨てにする所だった。
里から長の公認で出られると思って、気が抜けている。
ここはまだ里の中。気を抜いてはいけない。
「そう、か……。なあ、勝ち逃げされたが、次会う時には俺はもっと強くなってる。お前の変な戦い方になんて負けねえくらいにな」
「そうか、だけど今度はお前が探しに来れない場所だ。会うのは当分先になるぞ」
「そういう事じゃねえんだけど……。まあいいか。とりあえず元気でな」
まあ、ヴィデンタスは俺が里を出る事をそれほど気にしないだろう。
こいつには他に五龍王になるという夢がある。
俺の事を気にするよりも、他にやるべき事が山ほどあるだろう。
対してルルドピーンは先程俺をかばえなかった事をまだ気にしているようだ。律儀だな。
ルルドピーンが鱗を剥がし始めたので、何事かと見ていると、剥がし終えたそれを俺に渡してきた。
「せめてこの鱗を持って行ってくれ……。人間の間では高価で取引されているようだから。ヒトゥリの役に立つだろう?」
「あ、ありがとう。受け取っておくよ」
渡された鱗は薄青く、確かに宝石のようで価値がありそうだ。
だが、この子は何というか……。責任感が強すぎないか?
鱗とか剥がすの痛いし、普通里を出るってだけでここまではしないだろう。
だが貰えるというのなら、ありがたく受け取っておこう。
俺は受け取った物を道具入れにしまい、2人に礼を言うと里を出発した。
里を出て、翼で空を飛ぶ。
この速さなら、聞いた街の近くまで数時間だろう。
途中で人間化して徒歩にするとしても、今日中には街に着けるだろう。
樹海を上から見下ろす。
「……眷属達はどうなった?」
人間達に攻撃され、ほとんどが瀕死になっていた俺の眷属達。
ゴブリンもオーガもレッサードラゴンも、俺が見ていた最後まで動く事すらなかった。
ヴィデンタスが回復を行ってくれた。後は生命力次第だとあいつは言っていたが。
最後に見てもいいかもしれない。
俺は翼を曲げ、最後に眷属達を見た地点に方向転換した。
「ヒトゥリ様! 無事だったんスね!」
そして後ろから飛んできたレッサードラゴンにぶつかりかけた。
思わず大声を上げてレッサードラゴンから離れる。
そして驚いた。
レッサードラゴンの全身にあった傷はなくなり、完全に復帰している。
ドラゴンの系譜とはいえ、こんなにも早く傷が完治するものなのか?
ともかく、俺はレッサードラゴンに言葉を返した。
「なんだレッサードラゴン、死んでなかったのか」
「うわあ~、酷いっスよ! 私は群れの皆を守るために全力を尽くしたっていうのに!」
「す、すまん」
空中で暴れるレッサードラゴンに思わず謝る。
つい驚いて、失言してしまった。
こいつはこいつなりにこの樹海の主としての、役目を果たしたのだろう。
反省しよう。
だが、本当になんで死んでなかったんだ?
ヴィデンタスには回復してもらうように頼んだが、望みは薄いと感じていた。
それが、傷跡も見えないくらいに回復している。
これはヴィデンタスの回復の効果だけでは、ありえない。
「へっへっへ。なんで生き延びたんだって顔をしているんで、答えましょう! それは私がユニークスキル『草の根根性』に目覚めたからっス!」
『草の根根性』……。
当たり前だが知らないスキルだ。ユニークスキルはほとんど前例がないし、得た本人が申告しなければ効果も分からないしな。
「『草の根根性』は生き延びるためのスキル。仲間が多い程、私と私の仲間が死ににくくなるスキルっス! 今の群れの数だと心臓を貫かれても、手当てされれば何とか死なないぐらいっス」
今の群れの数、大体28人か。
それだけの数で、心臓を貫かれても死なない?
純粋に効果が高いのか、それとも数の少ない最初だけ効果が大きいのか。
ん?ちょっと待て。
「私と私の仲間って事はつまり……」
「はい! 群れの皆、まだ生きてるっス! ほとんど全員元気いっぱいっス。これもヒトゥリ様が私達を助けに来てくれたおかげっス」
そうか、良かった……。
眷属や部下としてはいらないと言ったが、それでも死なれれば気分は悪い。
仮にも俺の事を主として崇めていた奴らだ。
その効果は主である俺には適用されないようだが、それでもよかった。
「さあ、ヒトゥリ様! 皆に会いに行きましょう。皆、喜ぶっスよ!」
レッサードラゴンが、樹海の中へと俺を先導しようとする。
「いや……俺は会いに行かない」
「な、なんで……」
「俺は旅に出る。人間の街に行くんだ」
レッサードラゴンが、目を見開く。
しまった。また失言したか。
当たり前だろう。
こいつにとっては、人間は自分の仲間を殺しかけた奴らだ。
それに俺よりも長生きで、今までに人間が魔物を殺す光景など何度も見ている。
そんなレッサードラゴンが、俺が人間の街に行くのに賛成するはずが……。
「す、すごいっス!」
「は?」
「すごいっス! ヒトゥリ様は強くなり、人間を見返すために、あえて人間達の街に行くっスね!」
そういうわけじゃないんだが。
何だか勝手に良い方に解釈されてしまった。
「どうぞ行ってくださいっス! 群れの皆には私から言っておくっス!」
レッサードラゴンは尻尾を振って俺を送り出そうとする。
その言葉に甘えて俺が、その場から離れようとすると、レッサードラゴンが「あ」と声を出した。
「どうした?」
「いえ、その……言いにくいんっスけど……。私も人間の街に連れて行ってくれないっスか?」
そう言ってレッサードラゴンは遠慮がちにうつむく。
レッサードラゴンを人間の街に連れていく……か。
こいつには色々と世話になった。
そして人間の文化について少し勉強したが、未だレッサードラゴンの方が長生きな分、人間の文化に詳しい。
「だが、駄目だ」
「えー! なんでっスか?」
「まず呼び名が無いのが旅の同行者としては不便だし、そもそもお前人間化できないだろ。それじゃあ人間の街に入ることすらできないじゃないか」
痛い所を突かれ、レッサードラゴンがうめく。
しばらく頭を抱えてその場でぐるぐると旋回していたが、ようやく何かを思いつき顔を輝かせた。
「そうだ! 私が人間化できるようになればいいんスよね?」
「ああ、そうだな。そうなれば一応人間の街に入れる」
「だったら……進化すればいいんスよ!」
進化?
ああ、レッサードラゴンからの進化か。
確かドラゴンの系譜的に段階を踏むとしたら、次はコモンドラゴン。俺と同じ種族だ。
「コモンドラゴンになれば、『竜魔術』のスキルが獲得できるって聞いたっス。そうすれば人間化もできて人間の街に入ることもできるっス!」
確かに。
俺と同じになれば、俺と同じ事ができるようになる。道理だな。
そうなれば戦力としても頼れるだろう。
だが……。
「名前の問題はどうするつもりだ?」
「ふっふっふ。それもちゃんと考えてあるっス! ズバリ、ヒトゥリ様に付けてもらえばいいんスよ!」
「俺が?……分かった。いいよ」
以前、俺は群れの全員に名前を付ける事を拒否したし、特にレッサードラゴンに至っては会った直後くらいに、名前をせがまれて断った記憶がある。
だから今回も断ろうと思ったのだが……。
レッサードラゴンが必死に俺についてこようとする姿を見て、どうしても断り切れなくなってしまった。
やはり強く頼まれると断り切れないのが、俺の性という事なのか……。
この性で散々苦労したのに、変えようと思っても変えられないものである。
「やったー! いいんスね? 言質取ったスよ? やっぱなしとかは、なしっスよ!」
「ああ、ちゃんと付けるよ。ヌルヌル……はどうだ?」
「え?……なんかそれを名乗るのは嫌っス。ふざけないで真面目に付けてほしいっス」
やはりだめだったか。
何がいいだろうか。
恥ずかしながら俺にはネーミングセンスがない。主人公に名前を付けるタイプのRPGゲームでは毎回聖の奴に付けた名前でドン引かれていた。
自分ではいい名前と思っているんだがな。
あ、そうだ。
「フェイ……フェイテールでどうだ? ドラゴンの名前ってこんな感じだろう?」
「フェイっスか。フェイテール、フェイテール……おお、馴染むっス!」
フェイト(運命)をもじってドラゴンっぽく付けた名前だけど、気に入ってもらえたようだ。
レッサードラゴン……フェイテールの喜んでいる姿を見ていると、何か慣れない物を感じる。あ、暖かい父性とかの感情とかじゃない。
どうやら俺はフェイテールの体調や位置が、何となく分かるようになったようだ。
これが名付けたことによる関係の構築だろうか。
だとすれば、俺に名前を付けたオーラに俺の体調や位置を知られているという事だが……。
まあいいか。力の差が大きすぎて、知られようと知られまいと変わらないだろうし。
「これで名前を貰えたっス……。 、これが【名前】っスね。よーし! すぐに進化して追いつくから待っていてほしいっス!」
「ああ。約束だ。人間化できるようになったら、人間のヒトゥリを訪ねるか、眷属の契約の魔法的な繋がりを辿ってこい。『竜魔術』が使えるようになれば感覚的にでききるようになるから」
「分かったっス! これから頑張って鍛えてすぐにコモンドラゴンになって追いかけるっス! それまで、待っていてほしいス!」
は踊る様に空を舞い喜ぶ。
こんなに喜ばれると俺も何だか気分が良い。
眷属達が生きている事も分かったし、これでこの土地の心残りは無くなったかな。
「他の眷属の事を頼んだぞ、フェイ」
俺はまだ舞っているに別れを告げて、人間の街へ向けて勢いよく飛んだ。
途中、樹海の中に獣を追いかけるゴブリンとオーガ達を見た。
朝空の空気を吸って、吐く。
これでやっと俺も自由にスキル集めができる。
……途中で美味い飯を食べる事もできる。
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