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樹海の住人達
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空に向かって跳ぶ、大地の重力に引かれ失速する、翼を広げ空を横切る、大地に足をつける。また、空に向かって跳ぶ。また、大地の重力に引かれ失速する。また……。
かれこれ数日間ずっとこれを繰り返していた。休みもなくずっとだ。
ドラゴンの体は睡眠を先延ばしにしても問題はないらしく、特に不調は感じずに続けられていた。おかげで『睡眠自在』なんていうスキルをいつの間にか獲得していたくらいだ。
数日間もずっと『跳躍』『滑空』のために同じ行動を続けているのだから、さぞ大量の新スキルを合成できたのだろうと思うだろうか。
そんな簡単にはいかなかった。
これまでに新しく獲得できたスキルは『棒技』『はめ込み』『熱感知』の3つだけだった。
そして、そのどれもが若干期待外れだった。
『棒技』は『剣技』が棒になっただけで、『剣技』が木を剣に見立てるだけで発動する以上使う意味はあまりないように思える。
『はめ込み』はただパズルのピースみたいに、物体を何かにはめ込む時の動作が滑らかになるという使い所のよく分からないスキルだった。
文字通り熱を感知できるようになる『熱感知』に至っては、ドラゴンの俺はスキルを使わない元の生態で熱を感知できるので無用の長物だ。
だが、俺は全く残念に思わない。この世界に来たことを自覚したその日に、俺はこういうスキルも活かそうと決意を決めているのだから。
「まず『棒技』と『剣技』の違いを検証しよう。スキル名が違うのだから効果にも違いがあるはず……。『はめ込み』は単純に製作に活かすか?いや、戦闘への使い道も。『熱感知』は……人間形態でも自然に使えると考えれば使いようが……」
「ヒトゥリ様ー! 大変です! 助けてください!」
誰か来た……というより、ここに来るのはあいつしかいないな。
「レッサードラゴンか。何をしに来た?」
「ヒトゥリ様、頼みたい事があるっス。さあお前らこっちに来い!」
レッサードラゴンの後ろからぞろぞろと緑、黄色、茶色、汚い色とりどりの小人が……これゴブリンだな。大量のゴブリンが現れた。
「このドラゴンがオレタチをタスけてくれるのか?」「ズイブンとチイさいな」「ヌシのハンブンくらいだぞ」「ヨソモノだろうにシンヨウできるのか?」
「コラッお前ら! ヒトゥリ様に失礼だろ! ……すみませんヒトゥリ様。許してほしいっス。こいつらはこの森に棲むゴブリンで問題を抱えてるっス」
ああ、面倒事の類か。こいつら態度悪いし、聞かなかった事にして今日はもう寝よう。
数日……どのくらいか分からないが、数日も寝てないんだ。眠くはないがそろそろ体が心配だ。
洞窟に入って目を瞑る。
「ドウクツにカエっていったぞ」「やはりシンヨウならない……」「ヌシのホウがツヨい」「でもオーガもオナじくらいツヨい」
「お前ら少し黙れ!ヒトゥリ様が怒ってしまっただろ! ヒトゥリ様の力を借りないと俺達が危険なんだぞ!」
「えー」「オレタチ、ワルくない」「そうだワルくない」「ワルくない」「ワルくない」「ワルくない」「ワルくない」
ワルくないワルくないワルくない……。洞窟の前で大合唱だ。耳が壊れそうで、眠れたものじゃない。
俺は仕方なく外に出た。出迎えるレッサードラゴンやゴブリン達の騒ぐ姿を見ると、ため息が出た。
隣に飛ぶレッサードラゴンが時折ふらふらと揺れている。種族差というモノだろうか。彼女は俺よりも飛ぶのが上手くないようだ。
「オーガのいる岩場はこの先か?」
「はい。奴らはこの先にある岩場で生活してるっス。最近来て、ゴブリンと餌場を争うようになったっス。私が仲裁しようとしたんスけど、言う事聞かないし攻撃してくるし……」
「オーガ達はお前より強いのか?」
「あんな奴らには負けないっスよ! ……ただ、私と同じくらい強いのは確かっス。なので戦ったらどっちも無事では済まないというか。」
それで俺に助けを求めたわけか。
しばらく飛行を続けていると、天業竜山の側面に突き出した岩場が見えてきた。
岩場の上には岩や木や獣の革で作られたテントが張られていた。その周囲でガタイの良い角の生えた人間のような生き物が生活をしている。
「見えたっス。あそこに群れなしてる奴らがオーガっス。羽はないけど用心してほしいっス、あいつら……ぎゃあああああああ、石を投げてくるっス~!」
レッサードラゴンが地上へと墜落していく。何であいつはああも、間抜けに見えるのだろうか。ドラゴンであるからには、それなりに強いハズなのに。
地上にいたオーガ達が石を構え、こちらを見ている。次々に第2波、第3波と石の波状攻撃がやってくるだろう。
「来やがったな! 火も吹けぬドラゴンもどきが! 仲間を連れてきたようだが、俺達に勝てると思うなよ! すぐに打ち落として喰ってやるわ!」
啖呵を切ったオーガは頭に獣の頭骨の冠を乗せている。見た目からして、オーガの長だろう。
オーガの長が雄たけびを上げると、それに呼応して周囲のオーガが一斉に投石を始める。
石の波が再び迫ってくる。だが、俺は飛行の不得意なレッサードラゴンとは違う。
上に下に、その場で横回転、飛来する石を躱す。気分はサーファーだ。
石の波を潜り抜け地上に降り立つと、すぐさまオーガ達が武器を持って囲ってくる。
「馬鹿め! 優位を捨てて降りてくるなんてな! このまま、囲んで殺してしまえ!」
長の号令に従い様々な武器を持ったオーガ達が突っ込んでくる。下等な魔物にしては中々連携が取れている。
だが、こちらも考えなしに地上に降りたわけではない。
空中からブレスで焼き殺すのは簡単だろう。飛んできた石を羽で打ち返す事もできた。
だがそれをしないのは、この戦いが俺のスキル検証の場だからだ。
それに、あくまで頼まれたのはレッサードラゴンの代わりに戦う事、殺すつもりはない。
さて、ドラゴンのまま戦えば種族差で圧倒してしまう。それではスキルの検証にはならないから、人間形態になっておこう。
小さくなった俺の鼻先を、刃がかする。標的が小さくなって、上手く狙いを定められなかったらしい。
思い切り空振ったオーガに足を引っかけて武器を奪う。
穂先の短い長槍か。扱いづらいがスキルを使えなくもない。これでいいだろう。
「ドラゴンが人間になった……! 弱い姿になったぞ、これはいい。殺せ!」
油断大敵、剣を掲げ無防備なオーガの脇腹を、槍の長い柄の部分で薙ぎ払う。
嫌な音を鳴らしながらめり込む槍を、流しながら手応えを確かめる。
槍を棒に見立てても、『棒技』は発動しているようだ。
脇腹をかばい下がろうとするオーガの脳天に一発、叩き入れてそのまま走る。
……思っていたよりも数が少ないな。
オーガの1人が先頭不能になり包囲網に穴ができた。俺はそこを目掛けて走り出す。
「おいッ! 逃げられるぞ、追え、出口を塞げ!」
よし、予想通りだ。
包囲網の穴を塞ぐように、そして俺を捕らえようと前と後ろからオーガ達が挟みこんできたな。
これで俺のやりたいことができる。
出口を塞いだオーガの制空権ギリギリ……そこで反転! 駆ける方向を追いかけてくるオーガの方にターン!
その勢いのまま、槍の刃の付いていない方、石突を地面に叩きつけ、そこを支点に我が身を上に放り投げる。
思ったよりも高く飛んでしまった。『棒技』は『剣技』よりも、脚力――跳躍力への身体能力の強化が働いているようだ。
「な、なんだと! 跳んだぞ、上だ! 石を投げろ!」
遅い。お前らが石を拾う前に俺の攻撃は終わる。
槍を短く、刃の付いた穂先に近い部分に握り直す。これで剣に見立てれば、『剣技』が発動する。多分。『竜魔術』による炎の魔力を槍に通し、準備は完了。
ダメ押しだ。オーガ達が形成する円陣の中心に向け、俺の足に『はめ込み』を発動させる。
瞬間俺の体は何かに引かれる様に、落下していく。
上手くいったようだ。『はめ込み』は俺の体を滑らかにオーガ達の中心に導いていく。
「裂空斬・改炎!」
剣に見立て振るった槍を始点に、竜の炎が爆発的に吹き荒ぶ。叩きつけた穂先が大地にヒビを入れ、炎を更に揺り動かした。
風圧に押され浮くオーガ達の体に、炎が蛇のように絡まっていく。やがてオーガ達は火に飲まれ悲鳴が消えていった。
俺の意図に従い消えていった炎の残り火が風で消え去った時、オーガ達は地に伏していた。
1人を除いて。
かれこれ数日間ずっとこれを繰り返していた。休みもなくずっとだ。
ドラゴンの体は睡眠を先延ばしにしても問題はないらしく、特に不調は感じずに続けられていた。おかげで『睡眠自在』なんていうスキルをいつの間にか獲得していたくらいだ。
数日間もずっと『跳躍』『滑空』のために同じ行動を続けているのだから、さぞ大量の新スキルを合成できたのだろうと思うだろうか。
そんな簡単にはいかなかった。
これまでに新しく獲得できたスキルは『棒技』『はめ込み』『熱感知』の3つだけだった。
そして、そのどれもが若干期待外れだった。
『棒技』は『剣技』が棒になっただけで、『剣技』が木を剣に見立てるだけで発動する以上使う意味はあまりないように思える。
『はめ込み』はただパズルのピースみたいに、物体を何かにはめ込む時の動作が滑らかになるという使い所のよく分からないスキルだった。
文字通り熱を感知できるようになる『熱感知』に至っては、ドラゴンの俺はスキルを使わない元の生態で熱を感知できるので無用の長物だ。
だが、俺は全く残念に思わない。この世界に来たことを自覚したその日に、俺はこういうスキルも活かそうと決意を決めているのだから。
「まず『棒技』と『剣技』の違いを検証しよう。スキル名が違うのだから効果にも違いがあるはず……。『はめ込み』は単純に製作に活かすか?いや、戦闘への使い道も。『熱感知』は……人間形態でも自然に使えると考えれば使いようが……」
「ヒトゥリ様ー! 大変です! 助けてください!」
誰か来た……というより、ここに来るのはあいつしかいないな。
「レッサードラゴンか。何をしに来た?」
「ヒトゥリ様、頼みたい事があるっス。さあお前らこっちに来い!」
レッサードラゴンの後ろからぞろぞろと緑、黄色、茶色、汚い色とりどりの小人が……これゴブリンだな。大量のゴブリンが現れた。
「このドラゴンがオレタチをタスけてくれるのか?」「ズイブンとチイさいな」「ヌシのハンブンくらいだぞ」「ヨソモノだろうにシンヨウできるのか?」
「コラッお前ら! ヒトゥリ様に失礼だろ! ……すみませんヒトゥリ様。許してほしいっス。こいつらはこの森に棲むゴブリンで問題を抱えてるっス」
ああ、面倒事の類か。こいつら態度悪いし、聞かなかった事にして今日はもう寝よう。
数日……どのくらいか分からないが、数日も寝てないんだ。眠くはないがそろそろ体が心配だ。
洞窟に入って目を瞑る。
「ドウクツにカエっていったぞ」「やはりシンヨウならない……」「ヌシのホウがツヨい」「でもオーガもオナじくらいツヨい」
「お前ら少し黙れ!ヒトゥリ様が怒ってしまっただろ! ヒトゥリ様の力を借りないと俺達が危険なんだぞ!」
「えー」「オレタチ、ワルくない」「そうだワルくない」「ワルくない」「ワルくない」「ワルくない」「ワルくない」
ワルくないワルくないワルくない……。洞窟の前で大合唱だ。耳が壊れそうで、眠れたものじゃない。
俺は仕方なく外に出た。出迎えるレッサードラゴンやゴブリン達の騒ぐ姿を見ると、ため息が出た。
隣に飛ぶレッサードラゴンが時折ふらふらと揺れている。種族差というモノだろうか。彼女は俺よりも飛ぶのが上手くないようだ。
「オーガのいる岩場はこの先か?」
「はい。奴らはこの先にある岩場で生活してるっス。最近来て、ゴブリンと餌場を争うようになったっス。私が仲裁しようとしたんスけど、言う事聞かないし攻撃してくるし……」
「オーガ達はお前より強いのか?」
「あんな奴らには負けないっスよ! ……ただ、私と同じくらい強いのは確かっス。なので戦ったらどっちも無事では済まないというか。」
それで俺に助けを求めたわけか。
しばらく飛行を続けていると、天業竜山の側面に突き出した岩場が見えてきた。
岩場の上には岩や木や獣の革で作られたテントが張られていた。その周囲でガタイの良い角の生えた人間のような生き物が生活をしている。
「見えたっス。あそこに群れなしてる奴らがオーガっス。羽はないけど用心してほしいっス、あいつら……ぎゃあああああああ、石を投げてくるっス~!」
レッサードラゴンが地上へと墜落していく。何であいつはああも、間抜けに見えるのだろうか。ドラゴンであるからには、それなりに強いハズなのに。
地上にいたオーガ達が石を構え、こちらを見ている。次々に第2波、第3波と石の波状攻撃がやってくるだろう。
「来やがったな! 火も吹けぬドラゴンもどきが! 仲間を連れてきたようだが、俺達に勝てると思うなよ! すぐに打ち落として喰ってやるわ!」
啖呵を切ったオーガは頭に獣の頭骨の冠を乗せている。見た目からして、オーガの長だろう。
オーガの長が雄たけびを上げると、それに呼応して周囲のオーガが一斉に投石を始める。
石の波が再び迫ってくる。だが、俺は飛行の不得意なレッサードラゴンとは違う。
上に下に、その場で横回転、飛来する石を躱す。気分はサーファーだ。
石の波を潜り抜け地上に降り立つと、すぐさまオーガ達が武器を持って囲ってくる。
「馬鹿め! 優位を捨てて降りてくるなんてな! このまま、囲んで殺してしまえ!」
長の号令に従い様々な武器を持ったオーガ達が突っ込んでくる。下等な魔物にしては中々連携が取れている。
だが、こちらも考えなしに地上に降りたわけではない。
空中からブレスで焼き殺すのは簡単だろう。飛んできた石を羽で打ち返す事もできた。
だがそれをしないのは、この戦いが俺のスキル検証の場だからだ。
それに、あくまで頼まれたのはレッサードラゴンの代わりに戦う事、殺すつもりはない。
さて、ドラゴンのまま戦えば種族差で圧倒してしまう。それではスキルの検証にはならないから、人間形態になっておこう。
小さくなった俺の鼻先を、刃がかする。標的が小さくなって、上手く狙いを定められなかったらしい。
思い切り空振ったオーガに足を引っかけて武器を奪う。
穂先の短い長槍か。扱いづらいがスキルを使えなくもない。これでいいだろう。
「ドラゴンが人間になった……! 弱い姿になったぞ、これはいい。殺せ!」
油断大敵、剣を掲げ無防備なオーガの脇腹を、槍の長い柄の部分で薙ぎ払う。
嫌な音を鳴らしながらめり込む槍を、流しながら手応えを確かめる。
槍を棒に見立てても、『棒技』は発動しているようだ。
脇腹をかばい下がろうとするオーガの脳天に一発、叩き入れてそのまま走る。
……思っていたよりも数が少ないな。
オーガの1人が先頭不能になり包囲網に穴ができた。俺はそこを目掛けて走り出す。
「おいッ! 逃げられるぞ、追え、出口を塞げ!」
よし、予想通りだ。
包囲網の穴を塞ぐように、そして俺を捕らえようと前と後ろからオーガ達が挟みこんできたな。
これで俺のやりたいことができる。
出口を塞いだオーガの制空権ギリギリ……そこで反転! 駆ける方向を追いかけてくるオーガの方にターン!
その勢いのまま、槍の刃の付いていない方、石突を地面に叩きつけ、そこを支点に我が身を上に放り投げる。
思ったよりも高く飛んでしまった。『棒技』は『剣技』よりも、脚力――跳躍力への身体能力の強化が働いているようだ。
「な、なんだと! 跳んだぞ、上だ! 石を投げろ!」
遅い。お前らが石を拾う前に俺の攻撃は終わる。
槍を短く、刃の付いた穂先に近い部分に握り直す。これで剣に見立てれば、『剣技』が発動する。多分。『竜魔術』による炎の魔力を槍に通し、準備は完了。
ダメ押しだ。オーガ達が形成する円陣の中心に向け、俺の足に『はめ込み』を発動させる。
瞬間俺の体は何かに引かれる様に、落下していく。
上手くいったようだ。『はめ込み』は俺の体を滑らかにオーガ達の中心に導いていく。
「裂空斬・改炎!」
剣に見立て振るった槍を始点に、竜の炎が爆発的に吹き荒ぶ。叩きつけた穂先が大地にヒビを入れ、炎を更に揺り動かした。
風圧に押され浮くオーガ達の体に、炎が蛇のように絡まっていく。やがてオーガ達は火に飲まれ悲鳴が消えていった。
俺の意図に従い消えていった炎の残り火が風で消え去った時、オーガ達は地に伏していた。
1人を除いて。
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