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天業竜の長
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俺達は巨大なドラゴンを見上げた。白銀の鱗に伸びた髭、そこかしこから威厳を感じさせる振る舞い。俺達の絶対的な上位者。
「オーラ様……」
誰かが呟いた。
彼はオーラと呼ばれているドラゴンで、このドラゴンの里のドラゴン全ての親だ。オスのドラゴンなのだが、単為生殖ができるらしく俺も彼の産んだ卵から出てきたらしい。『天業支配』とかいうスキルで合成用のスキルを与えてくれたのも彼だ。
幼いドラゴンの俺からしたら、周りの成竜は全部規格外の化け物だが、このオーラというドラゴンはどれほど強いのかさえ想像がつかない。
噂では現存する全てのスキルをユニーク、通常問わず使えるらしい。
「オーラ様! ルルドピーンの奴が俺に突っかかってくるんですよ」
「ヴィデンタスが自分のスキルを優秀だと自慢していたのです。私はそれをとがめていただけです」
俺の隣にいた2人が、叫ぶ。どちらが悪いのか、罰を受けるのはどちらが相応しいのか、怯えながら訴えかけている。
まるで親に喧嘩をとがめられた子供だな……いや、実際にこいつらはオーラの息子娘なんだけど。
「確かに……ヴィデンタスのスキルは優秀だろう」
「そうでしょう! 俺は進化もしているこれからも、もっと強くなりますよ」
ヴィデンタスが誇らしげに翼を広げる。さっきまで怯えていたのに感情が変わるのが早い奴だ。
「だが、傲慢になってはいけない。スキルとは各々の運命を示す物。スキルの力に傲り、その結果、運命を間違い失意の中に沈む者を私は幾度となく見てきた」
「えっ」
褒められたと思っていたヴィデンタスが思わず声を漏らした。
オーラは静かに語り続ける。
先程まで騒いでいた周囲のドラゴンも静まり、いつの間にか周りには大人のドラゴンが集まってきていた。
オーラの言葉にはドラゴン達にとって、それほどの重さがあった。
「我らはスキルを司る者。ユニークスキルを授かった者は、それを授かった理由と向き合わなければならない。力だけを見ず、よく考える事だ。……それにまだ私の方が強い。双方高みを目指すのなら、ただ邁進するのだ」
「はい、オーラ様!」
2人が仲良く声をそろえて答える。もう喧嘩は終わっているようだ。
それにしても、スキルを授かった理由ねえ……。
理由があるとしたら、やはり『異界之瞳』は前世の記憶である俺の視点でこの世界を見ろということだろう。『天業合成』はよく分からないが、いずれ分かる時が来るのだろう。
俺達に向けた説教を終えると、オーラは辺りを見回した。
「里中のドラゴンが集まったか……。丁度良い。お前達に話すべき事がある!」
オーラが里の広場に響くような大声で語り始めた。
「我々はこの世界の管理者である! 私が遥か昔、神よりスキルの運営を賜った頃から何千もの時の間、スキルを管理する事により世界の均衡を保ってきた!しかし、その世界は今均衡を崩している! 一個の生命が強力なスキルを過度に保持し、あるいはユニークスキルを持つ者がその運命を果たさぬままに滅ぶが故に! 世界は異常をきたし、生命は乱れ、安寧は破られた!」
オーラの声は不思議な事に俺達ドラゴンの魂によく響くようだ。俺の周りのドラゴン達の目はオーラだけを映している。
「我々は世界の均衡を保たねばならない! それにはお前達、若き天業竜の力が必要だ! 神の創ったこの世界を、我らの生きるこの世界を、我らの手で守ろうではないか!」
オーラがそう言い切り、咆哮のような声で呼びかけると、広場に集まっていたドラゴン達の空を揺るがすような大咆哮が鳴り響いた。
「俺、もっと強くなりてえ。自分の為なんかじゃなくて世界のためによ……」
「流石はオーラ様。私もあの方のように立派な世界の管理者になりたい……」
俺の周りにいた同年代のドラゴン達も何かしら感銘を受けて、中には涙を流している奴までいる。
耐えられない。俺の頭が警鐘を鳴らして、ここから離れろと告げる。
俺はその言葉に従い熱狂の中、俺はこっそりと抜け出した。
天業竜山の頂上にある里と下界を繋ぐ山道の境界で、俺はうずくまっていた。
「オッエエエエエエエ……」
胃の中の内容物を吐き出し、垂れていた涎をそこらの岩で拭う。
ドラゴンも嘔吐するとか知りたくはなかった……。
というよりも、俺が前世のあの時の体験をこんなにも気にしているとは思わなかった。
あの場を離れたのはオーラの演説1つで、あそこまで熱狂できるドラゴン達が怖かったのもある。でも、それが一番の理由じゃなかった。
そっくりだった。社畜時代に勤めていたブラック企業の社長が言っていた事に。
「俺達は創業からこの会社を支えてきた」「でも今は経営状況がヤバいんだよ」「この危機をどうにかできるのは若い力だ!」「だからお前頑張ってくれ」
入社してすぐの新入社員と社長の面談みたいなので、社長はフロアに集まっていた新入社員にそう呼び掛けた。それがあのオーラの言葉とそっくりだった。
ついでに周りの同期が異常なまでに目を輝かせているのも、そっくりだった。
揺らいでいるのが世界か会社かなんて違いはあるけど、正直俺みたいなのにはどちらも責任の重い話だ。
楽しんで生きると決めた矢先にこれなんて、たまった物じゃない。
「……よし、決めたぞ」
あの時は選んだ会社を間違えたと思ったが、それでも少しはやってみるかの精神で続けてしまった。
そのせいで、あんな死に方をする羽目になったんだ。今回は絶対に即行で辞めてやる。
「近いうちにこの里を出る算段を見つけよう!」
俺は里の広場から遠く離れた空に、そう宣言した。
「オーラ様……」
誰かが呟いた。
彼はオーラと呼ばれているドラゴンで、このドラゴンの里のドラゴン全ての親だ。オスのドラゴンなのだが、単為生殖ができるらしく俺も彼の産んだ卵から出てきたらしい。『天業支配』とかいうスキルで合成用のスキルを与えてくれたのも彼だ。
幼いドラゴンの俺からしたら、周りの成竜は全部規格外の化け物だが、このオーラというドラゴンはどれほど強いのかさえ想像がつかない。
噂では現存する全てのスキルをユニーク、通常問わず使えるらしい。
「オーラ様! ルルドピーンの奴が俺に突っかかってくるんですよ」
「ヴィデンタスが自分のスキルを優秀だと自慢していたのです。私はそれをとがめていただけです」
俺の隣にいた2人が、叫ぶ。どちらが悪いのか、罰を受けるのはどちらが相応しいのか、怯えながら訴えかけている。
まるで親に喧嘩をとがめられた子供だな……いや、実際にこいつらはオーラの息子娘なんだけど。
「確かに……ヴィデンタスのスキルは優秀だろう」
「そうでしょう! 俺は進化もしているこれからも、もっと強くなりますよ」
ヴィデンタスが誇らしげに翼を広げる。さっきまで怯えていたのに感情が変わるのが早い奴だ。
「だが、傲慢になってはいけない。スキルとは各々の運命を示す物。スキルの力に傲り、その結果、運命を間違い失意の中に沈む者を私は幾度となく見てきた」
「えっ」
褒められたと思っていたヴィデンタスが思わず声を漏らした。
オーラは静かに語り続ける。
先程まで騒いでいた周囲のドラゴンも静まり、いつの間にか周りには大人のドラゴンが集まってきていた。
オーラの言葉にはドラゴン達にとって、それほどの重さがあった。
「我らはスキルを司る者。ユニークスキルを授かった者は、それを授かった理由と向き合わなければならない。力だけを見ず、よく考える事だ。……それにまだ私の方が強い。双方高みを目指すのなら、ただ邁進するのだ」
「はい、オーラ様!」
2人が仲良く声をそろえて答える。もう喧嘩は終わっているようだ。
それにしても、スキルを授かった理由ねえ……。
理由があるとしたら、やはり『異界之瞳』は前世の記憶である俺の視点でこの世界を見ろということだろう。『天業合成』はよく分からないが、いずれ分かる時が来るのだろう。
俺達に向けた説教を終えると、オーラは辺りを見回した。
「里中のドラゴンが集まったか……。丁度良い。お前達に話すべき事がある!」
オーラが里の広場に響くような大声で語り始めた。
「我々はこの世界の管理者である! 私が遥か昔、神よりスキルの運営を賜った頃から何千もの時の間、スキルを管理する事により世界の均衡を保ってきた!しかし、その世界は今均衡を崩している! 一個の生命が強力なスキルを過度に保持し、あるいはユニークスキルを持つ者がその運命を果たさぬままに滅ぶが故に! 世界は異常をきたし、生命は乱れ、安寧は破られた!」
オーラの声は不思議な事に俺達ドラゴンの魂によく響くようだ。俺の周りのドラゴン達の目はオーラだけを映している。
「我々は世界の均衡を保たねばならない! それにはお前達、若き天業竜の力が必要だ! 神の創ったこの世界を、我らの生きるこの世界を、我らの手で守ろうではないか!」
オーラがそう言い切り、咆哮のような声で呼びかけると、広場に集まっていたドラゴン達の空を揺るがすような大咆哮が鳴り響いた。
「俺、もっと強くなりてえ。自分の為なんかじゃなくて世界のためによ……」
「流石はオーラ様。私もあの方のように立派な世界の管理者になりたい……」
俺の周りにいた同年代のドラゴン達も何かしら感銘を受けて、中には涙を流している奴までいる。
耐えられない。俺の頭が警鐘を鳴らして、ここから離れろと告げる。
俺はその言葉に従い熱狂の中、俺はこっそりと抜け出した。
天業竜山の頂上にある里と下界を繋ぐ山道の境界で、俺はうずくまっていた。
「オッエエエエエエエ……」
胃の中の内容物を吐き出し、垂れていた涎をそこらの岩で拭う。
ドラゴンも嘔吐するとか知りたくはなかった……。
というよりも、俺が前世のあの時の体験をこんなにも気にしているとは思わなかった。
あの場を離れたのはオーラの演説1つで、あそこまで熱狂できるドラゴン達が怖かったのもある。でも、それが一番の理由じゃなかった。
そっくりだった。社畜時代に勤めていたブラック企業の社長が言っていた事に。
「俺達は創業からこの会社を支えてきた」「でも今は経営状況がヤバいんだよ」「この危機をどうにかできるのは若い力だ!」「だからお前頑張ってくれ」
入社してすぐの新入社員と社長の面談みたいなので、社長はフロアに集まっていた新入社員にそう呼び掛けた。それがあのオーラの言葉とそっくりだった。
ついでに周りの同期が異常なまでに目を輝かせているのも、そっくりだった。
揺らいでいるのが世界か会社かなんて違いはあるけど、正直俺みたいなのにはどちらも責任の重い話だ。
楽しんで生きると決めた矢先にこれなんて、たまった物じゃない。
「……よし、決めたぞ」
あの時は選んだ会社を間違えたと思ったが、それでも少しはやってみるかの精神で続けてしまった。
そのせいで、あんな死に方をする羽目になったんだ。今回は絶対に即行で辞めてやる。
「近いうちにこの里を出る算段を見つけよう!」
俺は里の広場から遠く離れた空に、そう宣言した。
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