上 下
247 / 251

第247話

しおりを挟む
高梨百合恵たかなしゆりえ 視点◆

2月になって最初の土日が過ぎさって、新しい週が始まった。
月曜日は全校集会があるのでいつもよりも早く登校しなければならないし、着いてからも慌ただしくなる。
全校集会の前に教頭先生からのお話があった。

「以前お話しておりました通り、この土日で防犯カメラの設置を行いました。
 問題なく作業が完了し、既にカメラは作動しています。
 皆さんに何らかしてもらうことはありませんが、校長先生や私などの責任ある立場の者で適宜校内の様子を確認しますのでそのつもりでいてください。
 また、この話はこれから行われる全校集会で生徒達にも周知します」

私にとっては初耳でどういうことかと、隣の席の副担任の鈴木すずき先生に話を伺うと私が火事の対応でお休みをもらっていた日に作業を行う予告をしていたようだった。
一般職員が対応しなければならないことではなかった事もあって私への伝達は特に配慮されていなかったみたいで、実際にこの程度なら普段なら気にもしない話ではある。
ただ、以前に冬樹君が設置していた防犯カメラが有ったはずで、それが見付かってしまってないか気になる。
もっとも、ないはずの防犯カメラが有ったのだとしたら教頭先生から話に出たはずだし、見つからなかったか見つかっても問題視されていないかのどちらかのはずなので、変に探りを入れてやぶ蛇になるような事を避け冬樹ふゆき君に確認をしてみようと思う。

全校集会で校長先生から防犯カメラを設置したことについて話をされた時に、冬樹君の方を注意深く見ていたけど特に表情を変えることもなく聞いていたので問題はないのだと思う。
けれども、一応聞いておきたいと思って昼休みに時間をもらうことにした。


「お昼休みに呼び出してごめんなさいね」

「いえ、先生の呼び出しなら喜んで伺いますよ。
 それで今回はどういったご用件ですか?」

昼休みになり、冬樹君に第2音楽室用準備室へ来てもらった。

「私も不在の時に職員へのお知らせがあったので今日まで知らなかった話ですが、朝の全校集会で校長先生からお話があったように学校中に防犯カメラが設置されたわけですけど・・・その、冬樹君も・・・」

「その事ですか。ご心配おかけして申し訳ありませんでした。その件なら問題ありません」

話し始めたもののどう言って良いのか迷っていたら冬樹君の方から問題ないと言ってくれた。

「それはどうしてですか?」

「気になる事があって、冬休み中に撤去していたのです」

「もうなかったから、そこに取り付けられても問題がなかったということですか?」

「はい。厳密には鋭い人なら違和感を覚えるかもしれない状況だったのでカバーを被せていたのですけど、取り付けたのが業者の人ならそのまま気にせずに作業を終えたと思います」

「それでしたら、実際に何か不審なことがあったという報告はなかったみたいなので問題はなさそうですね」

「それは良かったです。それにしても今のタイミングで防犯カメラを設置するなんて、去年のことが問題として尾を引いているのでしょうか?」

「そうだと思います。職員の間ではタブー視されて避けられている雰囲気で、私も二之宮にのみやさんや鷺ノ宮さぎのみや君のために大学受験のための情報を受験に強い先生にお話を伺っているのですけど、彼女たちの名前を出しづらくて親しい先生以外には誤魔化しています」

「そうなんですね。なんだったら僕の名前を使ってくれて良いですよ。
 口裏を合わせる必要があるなら事前に言っておいてくれれば対応しますし、先生もやりやすいのではないですか?」

「いいのですか?
 その・・・二之宮さんと鷺ノ宮君は・・・」

「もちろんその二人のせいで僕が不利益を被ったというのはありますけど、もうわだかまりはないです。
 義妹いもうとになる予定の美波みなみが親しくしているのもありますからね」

「そうですね・・・岸元きしもとさんは親しくなっていますよね」

「ですから、何かあったら言ってください。
 僕は先生のお役に立てる方が嬉しいですから」

そう言いながら微笑む冬樹君は大人びていて、悠一ゆういちさんはもちろんのこと他の先生方と比べても頼り甲斐を感じた。

「それにしても、冬樹君とは冤罪事件があってからの付き合いですけど、本当にお世話になりっぱなしで情けないです」

「何を言っているんですか。
 僕が学校中から疑われていた時に先生が匿ってくれなかったらどうなっていたかわかりませんし、本当に感謝しているんですよ。
 高梨先生は情けなくなんかないです。僕が感謝している高梨先生のことを悪く言わないで欲しいです」

離婚する前に悠一さんの実家でのいざこざから家へ帰りたくないからと数日泊まらせてもらったことから深く関わるようになって、みゆきが関わるようになって家出からの居候に、妊娠騒ぎなんてのもあった。今だって火事で行き場がないからと那奈さんが冬樹君から借りているマンションに居候させてもらっていて、間接的とはいえお世話になっている。
教師と生徒という立場からしたら良くないことだと思うのだけど、とても頼り甲斐がある。
この若さでこれだけしっかりしている冬樹君と結婚を前提のお付き合いをし、妊娠までしている美晴みはるさんが羨ましく思えてしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

おもらしの想い出

吉野のりこ
大衆娯楽
高校生にもなって、おもらし、そんな想い出の連続です。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...