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第237話
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◆春日悠一 視点◆
客先訪問で百合恵が現在住んでいるマンションのすぐ近くまで来たので、少し足を伸ばしてマンションへ立ち寄ってみた。
昼間で不在なはずだし、第一俺には合わせる顔がないので部屋まで行くつもりはなかったが、百合恵への未練がせめて同じ街を感じたいという感傷の情による気まぐれを起こした。
建物を見上げてみると百合恵の住んでいるはずの部屋辺りがブルーシートで囲われていて不穏な気配を感じたため、マンションの住人に話を聞いたところ火事に遭ったということを知った。
更に火災元は百合恵の住んでいた部屋の隣の部屋だということで、外から見た感じでは影響を受けていそうだと思い火災現場の部屋まで行って修復作業を行っている業者に尋ねてみると、居住者はこの部屋に住めなくなってしまったために転居してしまったということを教えてもらった。
百合恵のことが心配になり、百合恵の現状を知っていて、しかもこの平日昼間の時間帯に連絡が取れそうな相手として元の義母である百合恵の母親へ電話をした。
幸いな事に応答してくれ、百合恵と同居人の赤堀さんも火災発生時に不在だったために難を逃れて今も元気にしているという話を聞けた。
それから合わす顔がないことは重々承知しているものの居ても立っても居られない心境で、百合恵へ見舞いに行きたいとメッセージを送った。
それから帰社して仕事を終えたところでスマホを確認すると百合恵からの返信があった。
【お見舞いのお気持ちは嬉しく思いますが、現在は知人の家に居候させてもらっている状況ですので、悠一さんが来られても応じることができません】
【お気持ちだけ受け取らせていただきますので、これ以上はわたしの事など気になさらずお過ごしください】
そう言われても『はいそうですか』と納得できるわけもなく、そのまま通話発信をし、何回かの呼び出し音の後に繋がった。
『もしもし、百合恵です』
「あの、その、悠一だけど」
『メッセージでお返ししたように不在の時の火災だったので、わたしは問題ありません。
住むところも空き部屋がある知人のお宅にお世話になっていて問題ないですから気になさらないでください』
「そうは言っても、心配なんだよ・・・心配くらいはさせてくれないか?」
『ふぅ・・・わかりました、お気遣いはありがたく受け取らせていただきます』
「ありがとう。それと、気持ちを押し付けてすまない。
百合恵が俺と関わりたくないはずなのはわかっているんだが・・・」
『そうですね。そもそも、母に連絡したことも不愉快ですし』
「本当にすまなかった!」
『まぁ、気持ちはわかりますよ。
わたしだって知り合いが住んでいるマンションが火事になったと知ったら、その方がどうなさっているのかは気になりますしね』
「それが百合恵なんだから、俺にとっては何よりも気になる」
『ふふっ』
「どうかしたか?」
『いえ、悠一さんにそんなに心配されたことなんてなかったように思って・・・まさか離婚してから一番心配されるなんてと思ったらおかしくなってしまいました』
「言い訳になるけど、俺は別れたくなかったし、今でも・・・いや、それはやめておこう」
自分の傲慢な価値観の押し付けと、無知ゆえの傍若無人な振る舞いに、愚かな行動の結果がこれで、全ては俺の因果応報。
百合恵は何も悪くなく、俺だけが全て悪い。愛想を尽かされて当然なのだから。
◆高梨百合恵 視点◆
『言い訳になるけど、俺は別れたくなかったし、今でも・・・いや、それはやめておこう』
何で知ったのかはわからないけど、わたしが住んでいたマンションが火事に遭ったことを知った悠一さんがわたしの心配をして連絡をしてくれた。
悠一さんからのメッセージの後にお母さんからも悠一さんから火事を知って安否を心配する電話があったとメッセージがあって、どれだけ心配をしてくれていたのかと少し微笑ましく思ったりもした。
「たしかにそうでしたね。
お義姉さんに別れるように迫られて流されていたところはありましたね」
『そう思ってもらえるならありがたいけど・・・それだって俺のせいだ』
「それとは別に浮気もしていていましたね」
『その件は本当にすまなかった。
なんなら今からでも慰謝料を払わせてもらいたい』
「別に要りませんよ。幸いお金には困っていませんし、贅沢をしなければちゃんと生活していけるお給料もいただいていますから」
『そうだよな・・・百合恵はそういう性格だよな・・・でも、お金に困った時には言ってくれ。
俺としては誠意をもって対応させてもらいたいと思っている』
「わかりました。その時はお願いしますね」
それからなんとなく電話を切らずに近況や何気ない雑談で言葉を交わしていき、これが久し振りになる悠一さんとの長話しになって、気が付いたら会話を楽しんでいた。
そして、話している内に二之宮さんや鷺ノ宮君を赦し、新しい関係を構築し始めている岸元さんのことを思い出して、わたしも悠一さんと会ってちゃんと話をしても良いかもしれないと考えた。
「気が付いたらけっこう長く話してしまいましたね」
『ああ、久し振りに百合恵とこうやって話せて楽しかったよ』
「わたしもです。
それでなのですけど、お見舞いはけっこうですから一度顔を合わせてゆっくりお話をしませんか?」
『いいのか!?
それは俺がお願いしたいことだ』
「でしたら、あとでメッセージでやり取りして時間が合うときにでも・・・」
『いや、時間なら都合をつけて空けるから、百合恵が空いている時間を教えてくれ!』
「いいのですか?」
『百合恵が俺に時間をくれるなら最優先で合わせる!』
「わかりました・・・では、スケジュール帳を確認しますね・・・」
思いのほかあっさりと悠一さんと会う事が決めて、電話を終えた。
ふと視線を感じて見ると、みゆきが何とも形容しがたい表情でわたしを見ていた。
「百合恵、春日と会うのね」
「ええ、電話をしていて、大事な話もちゃんとしておきたいと思っていたから」
「一つだけ言っておくわ」
「何かしら?」
「もし春日と縒りを戻すなら、私のことは気にしないでいいから」
「どうして・・・でも、そうね心に留めておくわね」
みゆきの表情から本心は読み取れなかったけど、こういう時は言葉のとおりに受け止めるのが良いと思うのでそうさせてもらった。
客先訪問で百合恵が現在住んでいるマンションのすぐ近くまで来たので、少し足を伸ばしてマンションへ立ち寄ってみた。
昼間で不在なはずだし、第一俺には合わせる顔がないので部屋まで行くつもりはなかったが、百合恵への未練がせめて同じ街を感じたいという感傷の情による気まぐれを起こした。
建物を見上げてみると百合恵の住んでいるはずの部屋辺りがブルーシートで囲われていて不穏な気配を感じたため、マンションの住人に話を聞いたところ火事に遭ったということを知った。
更に火災元は百合恵の住んでいた部屋の隣の部屋だということで、外から見た感じでは影響を受けていそうだと思い火災現場の部屋まで行って修復作業を行っている業者に尋ねてみると、居住者はこの部屋に住めなくなってしまったために転居してしまったということを教えてもらった。
百合恵のことが心配になり、百合恵の現状を知っていて、しかもこの平日昼間の時間帯に連絡が取れそうな相手として元の義母である百合恵の母親へ電話をした。
幸いな事に応答してくれ、百合恵と同居人の赤堀さんも火災発生時に不在だったために難を逃れて今も元気にしているという話を聞けた。
それから合わす顔がないことは重々承知しているものの居ても立っても居られない心境で、百合恵へ見舞いに行きたいとメッセージを送った。
それから帰社して仕事を終えたところでスマホを確認すると百合恵からの返信があった。
【お見舞いのお気持ちは嬉しく思いますが、現在は知人の家に居候させてもらっている状況ですので、悠一さんが来られても応じることができません】
【お気持ちだけ受け取らせていただきますので、これ以上はわたしの事など気になさらずお過ごしください】
そう言われても『はいそうですか』と納得できるわけもなく、そのまま通話発信をし、何回かの呼び出し音の後に繋がった。
『もしもし、百合恵です』
「あの、その、悠一だけど」
『メッセージでお返ししたように不在の時の火災だったので、わたしは問題ありません。
住むところも空き部屋がある知人のお宅にお世話になっていて問題ないですから気になさらないでください』
「そうは言っても、心配なんだよ・・・心配くらいはさせてくれないか?」
『ふぅ・・・わかりました、お気遣いはありがたく受け取らせていただきます』
「ありがとう。それと、気持ちを押し付けてすまない。
百合恵が俺と関わりたくないはずなのはわかっているんだが・・・」
『そうですね。そもそも、母に連絡したことも不愉快ですし』
「本当にすまなかった!」
『まぁ、気持ちはわかりますよ。
わたしだって知り合いが住んでいるマンションが火事になったと知ったら、その方がどうなさっているのかは気になりますしね』
「それが百合恵なんだから、俺にとっては何よりも気になる」
『ふふっ』
「どうかしたか?」
『いえ、悠一さんにそんなに心配されたことなんてなかったように思って・・・まさか離婚してから一番心配されるなんてと思ったらおかしくなってしまいました』
「言い訳になるけど、俺は別れたくなかったし、今でも・・・いや、それはやめておこう」
自分の傲慢な価値観の押し付けと、無知ゆえの傍若無人な振る舞いに、愚かな行動の結果がこれで、全ては俺の因果応報。
百合恵は何も悪くなく、俺だけが全て悪い。愛想を尽かされて当然なのだから。
◆高梨百合恵 視点◆
『言い訳になるけど、俺は別れたくなかったし、今でも・・・いや、それはやめておこう』
何で知ったのかはわからないけど、わたしが住んでいたマンションが火事に遭ったことを知った悠一さんがわたしの心配をして連絡をしてくれた。
悠一さんからのメッセージの後にお母さんからも悠一さんから火事を知って安否を心配する電話があったとメッセージがあって、どれだけ心配をしてくれていたのかと少し微笑ましく思ったりもした。
「たしかにそうでしたね。
お義姉さんに別れるように迫られて流されていたところはありましたね」
『そう思ってもらえるならありがたいけど・・・それだって俺のせいだ』
「それとは別に浮気もしていていましたね」
『その件は本当にすまなかった。
なんなら今からでも慰謝料を払わせてもらいたい』
「別に要りませんよ。幸いお金には困っていませんし、贅沢をしなければちゃんと生活していけるお給料もいただいていますから」
『そうだよな・・・百合恵はそういう性格だよな・・・でも、お金に困った時には言ってくれ。
俺としては誠意をもって対応させてもらいたいと思っている』
「わかりました。その時はお願いしますね」
それからなんとなく電話を切らずに近況や何気ない雑談で言葉を交わしていき、これが久し振りになる悠一さんとの長話しになって、気が付いたら会話を楽しんでいた。
そして、話している内に二之宮さんや鷺ノ宮君を赦し、新しい関係を構築し始めている岸元さんのことを思い出して、わたしも悠一さんと会ってちゃんと話をしても良いかもしれないと考えた。
「気が付いたらけっこう長く話してしまいましたね」
『ああ、久し振りに百合恵とこうやって話せて楽しかったよ』
「わたしもです。
それでなのですけど、お見舞いはけっこうですから一度顔を合わせてゆっくりお話をしませんか?」
『いいのか!?
それは俺がお願いしたいことだ』
「でしたら、あとでメッセージでやり取りして時間が合うときにでも・・・」
『いや、時間なら都合をつけて空けるから、百合恵が空いている時間を教えてくれ!』
「いいのですか?」
『百合恵が俺に時間をくれるなら最優先で合わせる!』
「わかりました・・・では、スケジュール帳を確認しますね・・・」
思いのほかあっさりと悠一さんと会う事が決めて、電話を終えた。
ふと視線を感じて見ると、みゆきが何とも形容しがたい表情でわたしを見ていた。
「百合恵、春日と会うのね」
「ええ、電話をしていて、大事な話もちゃんとしておきたいと思っていたから」
「一つだけ言っておくわ」
「何かしら?」
「もし春日と縒りを戻すなら、私のことは気にしないでいいから」
「どうして・・・でも、そうね心に留めておくわね」
みゆきの表情から本心は読み取れなかったけど、こういう時は言葉のとおりに受け止めるのが良いと思うのでそうさせてもらった。
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