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第227話
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◆鷺ノ宮隆史 視点◆
年末年始休暇になり、東京の姉貴の元へ一時的に戻ることになった。
最初は東京へは戻らずに寮で過ごそうかと思っていたが、姉貴が帰って来るようにと言ってきたので気不味いと思いながらも迷惑をかけた姉貴を無視することも憚られ帰郷することにした。
東京へ戻り姉貴が引っ越したというマンションの前まで着いて驚いた。セキュリティがしっかりしていてエントランスの集合インターホンがあるマンションとは聞いていたが、どう見ても高そうでなぜこんなマンションに引っ越すことができたのか不思議に思った。
事前に指示された通りの手順で中へ入って玄関で姉貴に迎えられた。
「おかえりなさい。疲れてない?」
「ただいま。疲れてないよ」
「良かった。とりあえず中へ入って」
「ああ」
リビングへ通されると、1人の美女が俺の方を見て会釈をしてくれた・・・それが誰だかわからなかった。話では姉貴が凪沙を引き取って一緒に暮らしていると聞いていたし、髪は短くなっているものの顔のパーツや体付きは二之宮凪沙そのものだ・・・でも、その表情から醸し出される雰囲気が俺の知る凪沙とまったく違っていて別人だと思わされた。
「凪沙なのか?」
「ええ、二之宮凪沙よ。那奈さんから私が同居しているって聞いていたのでしょう?」
「それはそうだけど・・・」
「美波さんからも言われてるのだけど、雰囲気が変わっているから戸惑っているのかしら?」
「ああ」
「きっと那奈さんのお陰ね。私の良くなかったところを丁寧に指摘して直してくれたわ。
そして、ちゃんと謝罪をさせて欲しいの」
そう言うと凪沙は立ち上がって深く頭を下げた。
「私はあなたのことを滅茶苦茶にしてしまった。謝ったからと許されることではないことはわかっているけど、まずは言わせてください」
頭を下げたままでも声から伝わる真剣な言葉だ。
「わかった・・・凪沙のせいとも言える部分があったのは間違いないけど、俺が悪くないという話でもない。
自暴自棄になって流されるように俺自身も何人もの相手を滅茶苦茶にしてしまった俺に凪沙を責める資格はない・・・と思う」
「本当にごめんなさい・・・」
涙混じりの声で返答する凪沙。
「とりあえず、頭を上げてくれないか?
このままで話もしづらい」
俺が呼び掛けると凪沙はゆっくり頭を上げた。その表情は声から察せられた通り涙を流してた・・・そして、それを見て美しいと強く感じ、守ってやりたいという気持ちが湧いてきた。
凪沙はすぐ側に有ったティッシュで涙を拭いつつ顔を綻ばせながら『ありがとう、隆史』と口にし、その刹那・・・過去のことなど全て吹き飛ばして・・・俺は恋に堕ちた。
それから姉貴にお袋の事を尋ねると、凪沙とは会わせられないと判断して実家で面倒を見てもらっていて時々会いに行っていると答えられ、たしかにその通りだろうと思った・・・お袋にも迷惑をかけたのでちゃんと会って謝りたい。
そして、このマンションは神坂が好意で貸してくれているとのことで、姉貴は神坂と時々連絡を取り合っているらしい・・・俺の身内に対しても良くしてくれているみたいで、懐の大きさで全然勝てていないことを今更思い知らされた。
それ以外にも色々な事があった・・・俺のせいでさせないでよい苦労をさせたことを痛感させられる・・・
◆二之宮凪沙 視点◆
隆史が年末年始の休暇を利用して一時的に帰宅した。
私がいるせいでお母様はご実家にいらっしゃって、そのご実家は部屋に余裕がないので那奈さんの元が隆史の実家という扱いになっている。
那奈さんに保護されて一緒に暮らすようになり自分の行ってきたことの罪深さを痛感し続けてきていて、当然隆史に対しても申し訳ないという気持ちを持っていて言葉だけとは言え誠心誠意の気持ちを込めて謝罪をさせてもらった。逆上されても仕方がないと思っていたし、殴られても良いと思っていたけれど、隆史が口にしたのは私を責める言葉ではなく自分の行動の反省と後悔を語るものだった。
私は隆史から糾弾されたかったのだと思う。それなのに、自己の振り返りなんかされてしまっては殴られた方がマシなくらいに心が痛み思わず涙が流れてきてしまった。泣く資格なんかないのに・・・
驚くほど優しく接してくれる隆史は元々こういう善良で誰からも好かれて然るべき人だったのだと今になって理解した・・・那奈さんの弟なのだから悪い人ではなかったに違いないと思うし、それを壊したのは私であると考えると贖罪の気持ちしかない。
隆史は元々美波さんのことが好きだったのだし、美波さんも隆史の本質を知れば私を許して友人として接してくれる様に隆史との関係についても考えてくれるかもしれない・・・美波さんの意志は最優先としても、その芽があるのであれば橋渡しをすることで隆史と美波さんの将来を少しは良いものにできるのではないかと考える。
那奈さんが夕食の準備のために買い出しへ行っている間、私と隆史がふたりきりになったので那奈さんがいるところでは言いづらかったこと・・・元婚約者の中条さんとの事について・・・を話した。
中条さんはまだ那奈さんの事が好きで結婚したいと思っているし、那奈さんも中条さんの事は好きだけれど家のことや自身が性風俗で何人もの男性客と交わったことを引け目に感じているから断腸の思いで拒絶していることを伝え中条さんについて知っていることを聞くと、歴史あるお家の方で本人同士が良いからと言ってそれで良しとは言えないような背景が有って、那奈さんが気にするのは当然だろうとのことだった。
また、その話に絡めて美波さんの事をどう思っているのかと尋ねると『俺には岸元さんを想う資格がない』と、罪悪感から接するべきではないという考えになっている様だったので、私がその間を取り持つように話をすると複雑な表情を浮かべた。
私自身が友人として付き合ってもらえているのだから隆史も恋人関係になれる・・・かは別にしても友人にはなれるだろうし、付き合いがあれば時間を掛けても進展するかもしれないからと後押しをしても反応は良くないままで、半ば強引に私が美波さんと連絡を取って会ってくれるというなら会うという話をまとめて今日のところは終えた。
その後、美波さんに連絡をして打診したところ『それなら3人で初詣に行ってからカフェかファミレスで話さない?』と了承してくれたので、ふたりを引き合わせることはできることになった。
それにしても美波さんは私が今日見た隆史の話をするまでもなく会ってくれると言ってくれたし、やはり隆史にチャンスがあるのではないかと思う。
年末年始休暇になり、東京の姉貴の元へ一時的に戻ることになった。
最初は東京へは戻らずに寮で過ごそうかと思っていたが、姉貴が帰って来るようにと言ってきたので気不味いと思いながらも迷惑をかけた姉貴を無視することも憚られ帰郷することにした。
東京へ戻り姉貴が引っ越したというマンションの前まで着いて驚いた。セキュリティがしっかりしていてエントランスの集合インターホンがあるマンションとは聞いていたが、どう見ても高そうでなぜこんなマンションに引っ越すことができたのか不思議に思った。
事前に指示された通りの手順で中へ入って玄関で姉貴に迎えられた。
「おかえりなさい。疲れてない?」
「ただいま。疲れてないよ」
「良かった。とりあえず中へ入って」
「ああ」
リビングへ通されると、1人の美女が俺の方を見て会釈をしてくれた・・・それが誰だかわからなかった。話では姉貴が凪沙を引き取って一緒に暮らしていると聞いていたし、髪は短くなっているものの顔のパーツや体付きは二之宮凪沙そのものだ・・・でも、その表情から醸し出される雰囲気が俺の知る凪沙とまったく違っていて別人だと思わされた。
「凪沙なのか?」
「ええ、二之宮凪沙よ。那奈さんから私が同居しているって聞いていたのでしょう?」
「それはそうだけど・・・」
「美波さんからも言われてるのだけど、雰囲気が変わっているから戸惑っているのかしら?」
「ああ」
「きっと那奈さんのお陰ね。私の良くなかったところを丁寧に指摘して直してくれたわ。
そして、ちゃんと謝罪をさせて欲しいの」
そう言うと凪沙は立ち上がって深く頭を下げた。
「私はあなたのことを滅茶苦茶にしてしまった。謝ったからと許されることではないことはわかっているけど、まずは言わせてください」
頭を下げたままでも声から伝わる真剣な言葉だ。
「わかった・・・凪沙のせいとも言える部分があったのは間違いないけど、俺が悪くないという話でもない。
自暴自棄になって流されるように俺自身も何人もの相手を滅茶苦茶にしてしまった俺に凪沙を責める資格はない・・・と思う」
「本当にごめんなさい・・・」
涙混じりの声で返答する凪沙。
「とりあえず、頭を上げてくれないか?
このままで話もしづらい」
俺が呼び掛けると凪沙はゆっくり頭を上げた。その表情は声から察せられた通り涙を流してた・・・そして、それを見て美しいと強く感じ、守ってやりたいという気持ちが湧いてきた。
凪沙はすぐ側に有ったティッシュで涙を拭いつつ顔を綻ばせながら『ありがとう、隆史』と口にし、その刹那・・・過去のことなど全て吹き飛ばして・・・俺は恋に堕ちた。
それから姉貴にお袋の事を尋ねると、凪沙とは会わせられないと判断して実家で面倒を見てもらっていて時々会いに行っていると答えられ、たしかにその通りだろうと思った・・・お袋にも迷惑をかけたのでちゃんと会って謝りたい。
そして、このマンションは神坂が好意で貸してくれているとのことで、姉貴は神坂と時々連絡を取り合っているらしい・・・俺の身内に対しても良くしてくれているみたいで、懐の大きさで全然勝てていないことを今更思い知らされた。
それ以外にも色々な事があった・・・俺のせいでさせないでよい苦労をさせたことを痛感させられる・・・
◆二之宮凪沙 視点◆
隆史が年末年始の休暇を利用して一時的に帰宅した。
私がいるせいでお母様はご実家にいらっしゃって、そのご実家は部屋に余裕がないので那奈さんの元が隆史の実家という扱いになっている。
那奈さんに保護されて一緒に暮らすようになり自分の行ってきたことの罪深さを痛感し続けてきていて、当然隆史に対しても申し訳ないという気持ちを持っていて言葉だけとは言え誠心誠意の気持ちを込めて謝罪をさせてもらった。逆上されても仕方がないと思っていたし、殴られても良いと思っていたけれど、隆史が口にしたのは私を責める言葉ではなく自分の行動の反省と後悔を語るものだった。
私は隆史から糾弾されたかったのだと思う。それなのに、自己の振り返りなんかされてしまっては殴られた方がマシなくらいに心が痛み思わず涙が流れてきてしまった。泣く資格なんかないのに・・・
驚くほど優しく接してくれる隆史は元々こういう善良で誰からも好かれて然るべき人だったのだと今になって理解した・・・那奈さんの弟なのだから悪い人ではなかったに違いないと思うし、それを壊したのは私であると考えると贖罪の気持ちしかない。
隆史は元々美波さんのことが好きだったのだし、美波さんも隆史の本質を知れば私を許して友人として接してくれる様に隆史との関係についても考えてくれるかもしれない・・・美波さんの意志は最優先としても、その芽があるのであれば橋渡しをすることで隆史と美波さんの将来を少しは良いものにできるのではないかと考える。
那奈さんが夕食の準備のために買い出しへ行っている間、私と隆史がふたりきりになったので那奈さんがいるところでは言いづらかったこと・・・元婚約者の中条さんとの事について・・・を話した。
中条さんはまだ那奈さんの事が好きで結婚したいと思っているし、那奈さんも中条さんの事は好きだけれど家のことや自身が性風俗で何人もの男性客と交わったことを引け目に感じているから断腸の思いで拒絶していることを伝え中条さんについて知っていることを聞くと、歴史あるお家の方で本人同士が良いからと言ってそれで良しとは言えないような背景が有って、那奈さんが気にするのは当然だろうとのことだった。
また、その話に絡めて美波さんの事をどう思っているのかと尋ねると『俺には岸元さんを想う資格がない』と、罪悪感から接するべきではないという考えになっている様だったので、私がその間を取り持つように話をすると複雑な表情を浮かべた。
私自身が友人として付き合ってもらえているのだから隆史も恋人関係になれる・・・かは別にしても友人にはなれるだろうし、付き合いがあれば時間を掛けても進展するかもしれないからと後押しをしても反応は良くないままで、半ば強引に私が美波さんと連絡を取って会ってくれるというなら会うという話をまとめて今日のところは終えた。
その後、美波さんに連絡をして打診したところ『それなら3人で初詣に行ってからカフェかファミレスで話さない?』と了承してくれたので、ふたりを引き合わせることはできることになった。
それにしても美波さんは私が今日見た隆史の話をするまでもなく会ってくれると言ってくれたし、やはり隆史にチャンスがあるのではないかと思う。
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